劇団イキウメの一員として舞台で活躍しながら、数々のドラマや映画にも出演している安井順平。現在放送中の連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)では、梅丸楽劇団(UGD)の制作部長・辛島一平役を演じている。もともとはお笑い芸人として活動していた安井が、俳優に転身した理由とは? 自身の転機や俳優業のやりがい、さらに元芸人ならではの葛藤など話を聞いた。

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    安井順平 撮影:蔦野裕

■芸人から俳優へのシフトチェンジは「そこまで苦ではなかった」

――芸人から俳優に転身されたきっかけから教えてください。

もともとコンビで活動していて、解散後はピン芸人をやっていたのですが、2007年、32歳のときに今の劇団イキウメから芝居のオファーをいただいて、その台本を見た時に信じられないぐらい面白くて、舞台ってこんなに面白いんだと思ったのがきっかけでした。最初は芸人を続けながらやっていましたが、あまり器用ではないので、芸人と舞台役者の二足の草鞋ができず、役者としてやっていくことにしました。

――お笑いはそこでスパッと辞められて。

時代の流れもあってお笑いはなかなか難しくて。僕はお芝居寄りのコントをずっとやっていましたが、その頃はショートネタブームで短いコントしかできなかったんです。僕はフリが長く、ちょっとずつおかしいぞという風になって笑いが増幅していくスタイルのコントを作っていたので、そうするとオーディションに受からない。今の時代の流れだと無理だなと思っていたときにお芝居の世界に触れて。その芝居は、日常をこれでもかというくらい長い時間描き、不穏を少しだけ入れる。途中から不穏の正体がわかり事件になっていく。後半は畳みかけるように物語が転がっていくという、僕の理想だったんです。それで一気に「演劇って面白い」という風になりました。

――イキウメの作品がご自身の好みのスタイルだったんですね。

そうなんです。演劇のスタイルが、僕のやりたかったスタイルとマッチしていて。芸人のときは笑いに特化していたので当然テイストは違いますが、コントをやっていたときもお芝居をすること自体が好きだったので、シフトチェンジはそこまで苦ではなかったです。でもいまだにお笑いは大好きなので、『ブギウギ』のような明るいクスッと笑えるドラマが好きです。

――コントをやられている芸人さんは、俳優としても活躍されるケースが多いですよね。

コントをやっているとお客さんを意識するので、場の空気を把握する力が強いのかなという気がします。相手が言ったことを聞いてないと、それを受けて次のセリフが出せないというのがお笑い芸人の基本としてあり、フリの言葉を聞かないとボケが生きてこないので、人の話を絶対に聞くんです。役者同士でやっていると、僕のセリフを聞いてないなという役者さんがいっぱいいて、聞いているという顔を作っている。そうではなく本当に聞いてほしいわけで、お笑い芸人はそれが最初から備わっているので、生きた会話がちゃんとできるのかなと思います。

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■芸人時代から変わらぬキャラクターを作っていく楽しさ

――2007年にイキウメの舞台に出演してから、数々の舞台やドラマ、映画などに出演されています。約16年、俳優として活動されてきて、今の俳優業に対する思いをお聞かせください。

お笑いの時も最初は楽しかったですけど、仕事にするとつらいほうが多くなる。お笑いのときは、食えないつらさやネタを作るつらさがありましたが、笑ってもらった時は、この笑いのために頑張ってきたんだなという見返りがあり、僕の言葉で笑ってくれたということが自分のステータスになっていました。俳優の仕事はそういう笑いのご褒美みたいなものがなく、悟りの境地というか、評価されたいという願望もあまりなくなってきました。もちろんやりがいはありますが、俳優という職業が楽しいかというと、そんなことはないかなと。

――安井さんが感じている俳優業のやりがいもお聞かせください。

自分が面白いと思った脚本の作品は楽しいですが、それだけではなく周りに素敵な人たちがいるといか、いろんな条件が重ならないと楽しいにはならないです。でも、単純に楽しい現場だったからよかったというわけでもなく、厳しい現場でもやってよかったと思うことはもちろんあります。「あの現場は苦しかった」「あの時の監督にボロクソ言われたんだよ」というのも、元芸人なので笑いに昇華でき、それを人に笑ってもらえたらチャラになる。それがなかったらただのストレスになると思いますが、全部笑い話にできるので。

――いろいろな条件が重ならないと楽しいにはならないとのことですが、そう思える作品により多く出会いたいというのが、俳優としての一番の原動力なのでしょうか。

それもそうですし、演じることが好きなんです。自分ではない何かになるというのはずっと好きで、一番好きなのは、このキャラクターはどういうキャラクターなのかなと自分の中で考えて作っている時間。このシーンはシリアスだけど、この一言は笑わせてもいいのかなとか、そんなことを考えるのが好きで、本当は裏方のタイプだと思います。

――芸人時代から変わらず、キャラクターを作っていくというのが本当にお好きなんですね。

ちょっと演技フェチなんです(笑)。作品を見ていても、このシーンのあの手の動きが好きだなとか、マニアックなんですよ。『ブギウギ』でも、「趣里ちゃんのあの時のあの表情、最高に面白いね」って、部分的に褒めることが多くて。僕も「安井さんのあの時の振り返り渋かったですね」という風に、自分の意図が伝わったなと思うことを言ってもらうとすごくうれしくなります。