JR各社が運行する多くの新幹線と在来線特急列車に自由席がある。利用者にとって、自由席は「指定席より安い」「空席があれば他の座席に移動できる」「きっぷ販売機で座席指定手続きをしなくても簡単に買える」「事前に乗る列車を決めなくてもいい」など、利点が多い。
ただし欠点もあって、満席の場合は座れない。自由席特急券は原則として「自由席車両に乗るためのきっぷ」だから、指定席車両に空席があっても座ってはいけない。自由席に座るなら始発駅で早めに並んだほうが確実だし、次の列車まで待つ場合もある。始発駅で満席になっていると、途中駅から乗っても座れない。自由席は「不自由席」でもある。その分、特急券より安くなっている。
近年の鉄道事業者は「着席保証サービス」を重視している。大手私鉄の有料特急列車は全車指定席で、通勤時間帯の有料座席指定列車も増えている。JR東日本は2002年、東北新幹線「はやて」と秋田新幹線「こまち」を全車指定席で運行開始した。山形新幹線「つばさ」も2022年から全車指定席に。在来線では、2014年に全車指定席の特急「スワローあかぎ」が登場(現在は「あかぎ」として運転)。特急「ひたち」「ときわ」「あずさ」「かいじ」も全車指定席となり、2024年春から房総方面の特急「わかしお」「さざなみ」「しおさい」も仲間に加わる予定だ。
JR西日本も「はまかぜ」「こうのとり」「くろしお」など、京阪神エリアから各方面へ向かう特急列車を全車指定席で運行している。このように、各地で全車指定席の傾向が強まっている。
■「JR北海道、おまえもか」
そんな中、ついにJR北海道も2024年春から一部の特急列車を全車指定席にすると発表した。指定席を増やし、自由席を縮小する特急列車もある。11月15日発表の内容等をもとに、JR北海道の特急列車を整理した。
●全車指定席化する特急列車
- 特急「北斗」(函館~札幌間 / 1日11往復)
- 特急「すずらん」(室蘭・東室蘭~札幌間 / 1日6往復)
- 特急「おおぞら」(札幌~釧路間 / 1日6往復)
- 特急「とかち」(札幌~帯広間 / 1日5往復)
特急「北斗」「すずらん」は東室蘭~札幌間で計17往復を運行。「すずらん」は室蘭~東室蘭間も特急列車化される。特急「おおぞら」「とかち」は札幌~帯広間で計11往復を運行している。
●自由席を減車する特急列車
- 特急「ライラック」(札幌~旭川間 / 1日13往復) : 指定席は現行の2両または3両から4両、自由席は現行の3両または4両から2両で統一
- 特急「カムイ」(札幌~旭川間 / 1日8往復) : 指定席は現行の1両から3両、自由席は現行の4両から2両で統一
特急「ライラック」「カムイ」は札幌~旭川間で計21往復を運行。なお、「ライラック」と「カムイ」は使用車両が異なる。「ライラック」の車両は6両編成でグリーン車がある。「カムイ」の車両は5両編成で指定席「uシート」がある一方、グリーン車がない。
●変更なしの特急列車
- 特急「オホーツク」(札幌~網走間 / 1日2往復)
- 特急「大雪」(旭川~網走間 / 1日2往復)
- 特急「宗谷」(札幌~稚内間 / 1日1往復)
- 特急「サロベツ」(旭川~稚内間 / 1日2往復)
特急「オホーツク」「大雪」は旭川~網走間で計4往復、特急「宗谷」「サロベツ」は旭川~稚内で計3往復を運行している。
全車指定席となる特急「北斗」「すずらん」「おおぞら」「とかち」について、JR東日本が採用した「座席未指定券」を販売するとのこと。購入後、乗車前に座席指定を受けると特急券になるし、未指定のまま乗車しても空席に着席できるから、自由席特急券の代わりにもなる。ただし、料金は通常の特急料金と同じなので、実質的な値上げとも受け取れる。JR北海道の営業戦略はJR東日本の影響を受けているから納得の成り行きでもある。
ちなみに、JR東海も年末年始などピーク期の「のぞみ」を全車指定席にすると発表している。なぜ自由席は減るのだろう。着席サービス重視と言いつつ、本当は増収を狙っているのだろうか。
■国鉄時代、自由席誕生の目的は「ムダの削減」だった
JR各社で全車指定席の列車が増えてきたが、その前身である日本国有鉄道(国鉄)の特急列車は、もともと全車指定席だった。自由席特急券は1965年10月に国鉄の旅客営業規則が改正されてから始まった。それまで「特急は指定席」「急行は自由席」が基本で、人気のある急行列車には指定席が設定されていた。特急列車は着席が前提だった。
国鉄が特急列車に自由席を設定した理由について、JR東海の初代社長を務め、現在は顧問の須田寛氏が雑誌のインタビューで語っていた。要約すると次の通りになる。
「東海道新幹線は全車指定席で始まった。当時の指定席販売は、各駅の窓口から指定席管理部門に電話して、台帳を確認し、空席があったら販売を許可して印をつける。窓口ではきっぷにペンで座席番号を記入するという方式だった。それでは当日のきっぷ販売には間に合わず、乗りたい人が多いのに空席で発車する列車が増えていった。そこで当初は『立席承知』の特急券を売り、のちに『こだま』に自由席を設定した」
当時、オンライン予約システム「マルス」も稼働していたが、処理能力が低く、すべての指定席列車に対応していなかった。窓口の端末も、きっぷを印刷する機能がなく、指定席は手書きだった。つまり、指定席の発券が間に合わずムダになってしまう空席を解決するため、自由席が考案された。着席が保証できないので値段を割り引いた。
新幹線に自由席が設定されると、乗継ぎの在来線特急列車も自由席が必要になる。時刻表の1968年10月号を見ると、自由席のある列車としては急行列車が圧倒的に多く、東北方面の特急列車は全車指定席だった。しかし、名古屋~熊本間の特急「つばめ」、名古屋~金沢間の特急「ひだ」、新大阪~広島間の特急「しおじ」、新大阪~博多間の特急「はと」に自由席マークがあった。
■現在、オンライン予約で自由席より安くなるサービスも
特急列車の自由席を定着させた列車群といえば、1972年に登場した「エル特急」だろう。特急列車を大増発し、「数自慢、かっきり発車、自由席」をキャッチフレーズに、ほぼ毎時0分発・30分発などわかりやすいダイヤと自由席が特徴だった。中には急行列車を特急列車に格上げした列車もあり、急行列車で当たり前にあった自由席は必須だった。特急列車をお手頃価格にして、いつでも好きなときに乗れる自由席は人気となった。
しかし、特急列車は本来、着席サービスが基本である。きっぷの発券処理の都合で仕方なく設定した自由席が、特急列車の「安い席」として定着してしまった。これはJR各社にとって不本意だったはず。「自由席は大混雑なのに、指定席はガラガラ」という列車もある。
自由席がそんなに安いのかというと、じつはそうでもない。札幌~旭川間で比較すると、指定席特急料金は2,360円、自由席特急料金は1,830円。「自由席は安い」というイメージが定着していても、実際は530円の差しかない。
JR各社の自由席特急料金は、短距離区間の特例を除けば通常期の指定席特急料金より530円安くなる。繁忙期の特急料金は200円増し、最繁忙期は400円増しとなって価格差が開き、逆に閑散期は200円引きとなって価格差が縮小する。なお、JR北海道に繁忙期・超繁忙期・閑散期はなく、JR九州には閑散期がない。
この程度の価格差なら、指定席で確実に座っていただきたい。これが自由席廃止の1つ目の理由だろう。利用者が自由席から指定席へ移行したくなるように、オンライン予約サイトで割引サービスも提供している。たとえば「えきねっとトクだ値」「EX早得」など。自由席より安く指定席特急券を購入できる場合もある。
「マルス」の性能が上がり、オンライン予約もできるようになって、特急列車は本来の全車指定席を取り戻したともいえる。
ただし、自由席には「特定の列車に縛られない」という利点もある。そこで、発車前に1回だけ無料で変更できる制度や、指定席特急券で対象の列車に乗らなかった場合、当日に限り後続列車の自由席に乗れるという制度を設けた。後続列車も全車指定席の場合は「立席特急券」として乗車できる。この場合、空席があったら座っても良い。これを最初から取り込んだ制度がJR東日本とJR北海道の「座席未指定券」といえる。
■「ムダの削減」も自由席廃止の理由に?
値上げかと思ったら割引サービスがあり、自由度が損われたと思ったら「座席未指定券」がある。それなら自由席を残しても良さそうだが、じつはもうひとつ、自由席を減らしたい理由が考えられる。それは「車内検札の省略」である。
指定席の場合、オンライン予約と車掌が携帯するタブレットで情報を共有すれば、車掌は指定席の空席情報を把握できる。乗客がどの駅から乗って、どの席に座り、どの駅で降りるかわかるから、車内で検札する必要はない。空席という情報なのに座っている乗客がいたら、その乗客だけ検札すればいい。JR東日本のE657系(「ひたち」「ときわ」)やE353系(「あずさ」「かいじ」)など、座席の頭上にランプを設置し、車掌や乗客がひと目で状況を把握できる特急車両もある。
一方、自由席だと車掌が各座席の情報を把握できない。そのため、車掌はひとりひとりの乗車に対して「きっぷを拝見」し、正規料金で乗っているか確認する必要がある。きっぷを持たない乗客がいたら料金を徴収する。新幹線の場合、すべての駅に改札があるから不正乗車をある程度防げるが、在来線の場合は普通列車への乗継ぎや無人駅の利用などで改札を通らない場合があるから、車掌がきっちりと見て回る必要がある。
しかし、車掌の業務は検札だけではない。ドア開閉、安全確認、客のサポート業務もある。人手不足で車掌の人数も減らしたい。JR九州は特急列車もワンマン運転を行い、車掌が乗務しないことがある。JR四国も特急列車のワンマン運転を検討しているという。JR各社で無人駅も増えている。
こうなると、自由席車両は乗客管理の手間がかかる上に、不正乗車の温床になりやすい。したがって、自由席は廃止し、自由席の利点は座席未指定券や早期割引などの方法で実現しよう、ということになるわけだ。
自由席の誕生は発券コスト削減だった。
自由席の廃止は車掌人件費削減になる。
世知辛い話だが、新しい制度ができて、乗客にとっても積極的に自由席を選ぶ理由はなさそうだ。指定席で割引があればいい。自由席特急券と自由席車両は消え行く運命かもしれない。