忠勝といえば、第1回のラストで、家臣団が家康に「どうする!?」と詰め寄るシーンで、「(主君などと)俺は認めぬ」と言い放ち、初回からインパクトを残したが、このシーンのセリフは山田のアドリブだったという。

「カットがかからなくて、ずっと(殿を)見ていたら言いたくなって言いました。殿たちから『狙っていたんでしょ』と言われましたが、カットかからなくてうわ~ってなったから言っただけで、何の計算もなく言ったセリフです(笑)」

そういった台本を超えた瞬間に「僕はちゃんと役を生きられているんだな」と感じるそうで、「台本通りのことをやるまでは僕の中では“お芝居をしている”ですが、台本を超えた瞬間から、ようやく自分が一番やりたいと思っている“役を生きる”ことができたなと感じられるので」と説明。「役を生きられる瞬間が出てきたり、思ったこともなかったなという感情になる瞬間があると面白いなと思います」と芝居の醍醐味を語った。

■本多忠勝を演じる自信が持てたきっかけ明かす

本多忠勝は、かすり傷一つも負わないと言われるほどの戦国最強武将。山田も当初はそのイメージに縛られていたため、「僕が選ばれた理由がわからなかった」とオファーを受けたときの思いを明かした。

だが、クランクイン前に岡崎の武将隊の人から「実は本多忠勝の肖像画って本人が8回描き直させているんです。だからもしかしたら山田さんみたいにすらっとした人なのかもしれませんね」と言われたときに考えが変わり、「もしかしたらそうだったかもと思えて、自分が本多忠勝をやることに対して自信が持てたんです」と振り返る。

そして、一般的な武将たちに対するイメージに縛られるのではなく「『どうする家康』ではこうなんですよというのを楽しんでもらうのが大河ドラマだと思う」と言い、「歴史はわからないし、持っているイメージなんて人の空想だし、他人の気持ちなんてその人のことを見つめているだけではわからず、体感した人しかわからない」と語る。

だからこそ、「僕が思う、僕がやりたい忠勝をできればいいな」という思いにたどり着いたのだという。

そうして作り上げていったのが、「人の思いをちゃんと背負える人。柔軟で繊細で人の心を受け止められる人で、殿が悲しかったら同じように悲しいし、苦しかったら同じように苦しい」といった忠勝の人物像。「今までだったら無骨に真っすぐ……僕もそういう演じ方をしていますが、内面は全然違って、『わしが強くいなければ殿はダメかもしれん』という思いで強く立っている」と説明した。

■叔父上とのシーンで不思議な体験「幼少期の映像がぶわ~っと」

人のことを思える忠勝だからこそ、「叔父上が死ぬときは、泣きたいし、逃げたいし、一緒に死にたいし、というのがあった」と言い、「叔父上とのシーンは印象に残っています」と、第18回で描かれた叔父・忠真(波岡一喜)とのシーンを振り返った。

そのシーンは、波岡と演技プランを提案し合って作り上げたという。

「『殴ってほしいです。それが忠勝にとって最初で最後の傷にしたいので』と波岡さんにお願いして、『わかった、殴るね』と。そういうくだりを増やしてもらって、波岡さんがさらに台本にない“抱きしめる”というのを増やしてきて、それでもう僕は、演じていない幼少期の映像がぶわ~っと目の中、頭の中に流れ込んできた感覚になったというか、見えたんです。不思議な体験でした」

そして、「役を生きられていないとそこには達せられなかっただろうし、忠勝さんが見せてくれたんだと僕は思っています」と語る山田。忠勝として生きた山田の演技を最後までしっかりと見届けたい。

■山田裕貴
1990年9月18日生まれ、愛知県出身。2011年に『海賊戦隊ゴーカイジャー』ジョー・ギブケン/ゴーカイブルー役で俳優デビュー。近年の主な出演作は、ドラマ『ちむどんどん』(22)、『女神の教室~リーガル青春白書~』(23)、『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(23)、映画『東京リベンジャーズ』シリーズ、『夜、鳥たちが啼く』(22)、『キングダム 運命の炎』(23)など。『ゴジラ-1.0』が公開中。『山田裕貴のオールナイトニッポンX』ではパーソナリティを務めている。