高齢化と労働力不足が進んでいる農業分野において、いま注目されているのがスマート農業だ。栃木県那須塩原市のアーデルファームは、わずか4人の農業法人でありながらもドローンを初めとしたスマート農業を積極的に取り入れ、女性の農業参画を目指している。

  • ドローン免許を取得し農薬散布に役立てているアーデルファームの大貫百合子氏

高齢化が進む中で求められる農業のDX

少子化と高齢化が同時進行している日本。2023年の段階で総人口に占める高齢者人口の割合は29.1%まで増加しており、その割合は今後さらに増える見込みだ。この影響を強く受けているのが農業と言える。

日本の農業の中心を担う基幹的農業従事者は減少傾向が続いており、農林水産省の統計では、2010年度の205万人から、2023年現在は116万⼈まで数を減らしている。同時に平均年齢は68.4歳まで上昇した。一方、農業の担い⼿が減ったぶん農地利⽤は集積が進み、農業従事者一人あたりが担う農地面積は広がり続けている。

このような状況において、いま農業にもDXが求められている。それがICTやロボット技術などの先端技術を活用したスマート農業だ。栃木県那須塩原市のアーデルファームは、ドローンを活用した女性のスマート農業参画への取り組みを進めている。

  • 那須塩原市の農業法人、アーデルファームの本社

スマート農業で未来を模索するアーデルファーム

栃木県那須塩原市で、ICTを活用したスマート農業を営むアーデルファーム。アーデルファーム 代表取締役社長を務める大貫敏和氏はもともと別の仕事をしており、農家をしていた父親の体調不良をきっかけに農業を始めたという。妻である大貫百合子氏も、大買敏和氏の「先祖代々の土地を守りたい」という思いを受け止め農業を手伝うようになる。

そして地域の消防団の仲間であり、農業に関する相談していた田中望氏、大貫誠氏、大貫修平氏とともに「地域を守る未来の農業を実現するためには、会社を作らないとダメだ」という結論に至り、2021年にアーデルアームが設立。また、田中望氏の妻である田中典子氏も「夫の力になれば」と農業を手伝うことになったそう。

  • 先進的な農業機器を扱っているが、本社は風情のある古民家

現在、アーデルファームはロボットトラクターやロボットコンバイン、オート田植え機、ドローンなどを導入し、米、大麦、小麦、そば、大豆、アスパラなどを栽培している。

「例えばロボットトラクターの場合、GPSを利用して農地の地図を作成し、直進や旋回を自動化できることが強みです。これまでは勘や経験をもとに代掻き(しろかき)や田うないをしてきましたが、ロボットトラクターを使えば高精度かつ自動で行ってくれます。労働効率が上がるだけでなく、負担も大きく減りました」(大貫敏和氏)

  • アーデルファーム 代表取締役社長 大貫敏和 氏

こういった農業機械の進歩は、作業効率の向上とともに安全性の向上も実現しているという。オート田植え機ならば、仮にハンドルから手を離してしまってもまっすぐ植えて行ってくれる。こういった変化は高齢者の事故を減らす、就農のハードルを下げるなど、さまざまな課題の解決に繋がるだろう。

「農家1件当たりの農地面積は年々広がっていますが、人数は増えていないんですよ。高齢の方がさらに歳を取っていっているのに、作業量は増えており、とても大変です。ずっとトラクターに乗っていると眠くなっちゃうし、土手に乗り上げそうになっても警告音が鳴るだけ。だから高齢者による農業機械の事故は本当に多いんです。ですが、例えばロボットトラクターがあれば集中を欠く瞬間があっても、自動で安全に作業が進みます。精神的にもすごく楽になると思います」(田中望氏)

  • アーデルファーム 取締役副社長 田中 望 氏

スマート農業への取り組みは栃木県の目にも止まり、アーデルファームはドローン研修会などでの講演も依頼されるようになっていた。そこで出会ったのが、NTT東日本とNTT e-Drone Technologyだ。

農業への女性参画にドローンを活用

アーデルファームがスマート農業を推し進める背景にはもうひとつの理由があった。それは農業における女性参画の推進だ。大貫敏和氏は、ドローンなどの先端技術が農業への女性参画を後押しすると考えているという。

「農業において女性の活躍は不可欠です。高齢化はそれに拍車を掛けています。ですが農業は重いものを持ったり運んだりという作業が多く、女性にとって身体の負担が大きい。ドローンをはじめとしたスマート農業によって、女性が農業をしやすい環境を作りたいと思いました」(大貫敏和氏)

こうして導入されたのが、主に農薬等の散布に利用されるNTT e-Droneの「AC101」だ。大貫百合子氏と田中典子氏は、栃木スカイテックでNTT e-Droneの指定講習を受け、免許を取得。ドローンを農業に活かしている。

  • NTT e-Drone Technologyのドローン「AC101」

「従来、農薬の散布は農薬の入ったタンクを担ぎ、自らの足で圃場全体を巡る必要がありました。ですが、ドローンがあれば、その場にいながら広い圃場に対応できます。効率がすごく上がりましたし、身体の負担も減ったと感じました」(大貫百合子氏)

  • アーデルファーム 大貫百合子 氏

「女性が輝く場所が農業であっても良いのかなと感じています。以前は土に触るのもいやだったんですが、勉強のために家庭菜園も始めました。いろいろ勉強しながら、少しでも主人たちに寄り添えたらいいな、同じ方向性で支えていければいいなと思っています」(田中典子氏)

  • アーデルファーム 田中典子 氏

だが、ドローンの操縦はまだまだ経験者が少なく、見かける機会も決して多くない。最初はドローンを扱う不安も大きかったという。

「農業用のドローンは結構大きいので、最初は飛ばすこと自体が怖かったです。いざ操作しても、墜落するんじゃないかという不安はずっとありました。でも講習を受けていくうちに、女性でも飛ばせるんだなという自信がついてきましたね」(大貫百合子氏)

「操作するときに、上下左右に移動するイメージがなかなか掴めませんでした。なので、なかなかまっすぐ飛ばすことができなくて、講師の方に高さや奥行きの認識など、いろいろコツを教えていただきました。それでもまだまだ練習期間です」(田中典子氏)

  • ドローン起動までの作業を再現してくれた大貫百合子氏と田中典子氏

  • 薬剤タンクからの散布テストは特に入念に行う

  • 「AC101」は軽量で女性でも片手で持てるうえ、構造が単純で積載や補完、メンテナンスもしやすい

こういった活動には農林水産省のスマート農業の全国展開に向けた導入支援事業費補助金が利用されており、ドローン講習の代金も補助されているという。

田中典子氏は「『ドローンの免許を取った』と周囲に伝えたら、『私も取りたい』という女性が結構いたんです。この歳になっても新しくできることは色々あるんだなと思いました」と、免許取得時の反応について語る。

女性ドローン操縦士が集う「team×まま女☆」

スマート農業が今後発展していく中でもっとも重要になるのは通信と言える。自動化を実現する最先端機器も、通信障害が発生するとただのハコになってしまうからだ。この通信はNTT東日本が強みとする分野。きめ細かな通信サービスを通じて地域との繋がり、共創しながら農業DXを支えていきたいというのが、NTT東日本グループの思いだ。

大貫敏和氏は「農業の未来を考え、地域を守るという点において、我々とNTT東日本さんの思いは同じだと思っています。ドローンを製造するメーカーは海外が多いのですが、NTT e-Droneさんの製品は国産です。今後の世界情勢を考える上でも、国内でドローンを開発することは重要だと思います。日本人、とくに女性が扱いやすい機種を開発するなど、きめ細かな対応に期待しています」と、NTT東日本グループに向けて話した。

  • 女性の手には大きいAC101のプロポも、女性ドローン操縦士が増えることで改良されるかもしれない

大貫百合子氏と田中典子氏は現在、女性ドローン操縦士を支える「team×まま女☆」を結成し、スマート農業を通じて女性に農業の魅力を伝える活動を行っているという。

「3K労働のイメージがあった農業がいま変わり始めていることを伝えたくて、『team×まま女☆』の活動を始めました。『まま女』は”ママ”と”魔女”を掛けた言葉で、近くを流れる箒川(ほうきがわ)から名付けています。『×』はドローンのプロペラを表していて、空を飛ぶイメージです」(大貫百合子氏)。

「スマート農業によって、力仕事が必要だった部分でも女性が活躍できるようになってきました。ロボット掃除機で掃除の概念が変わったように、スマート農業で農業は変わります。そして女性の意見が入ってくれば農業のあり方も変わっていくでしょう。未来の農業を見据えて活動を続けていきたいと思っています」(田中典子氏)。

なお、アーデルファームの農作物は食味の面で高く評価されており、2023年1月の那須地区良食味米コンクールでも、なすひかり・その他米部門で最優秀賞を受賞している。また栃木県那須塩原市の道の駅「アグリパル塩原」にある「農村レストラン関の里」では、アーデルファーム産の小麦やそばが使用されている。那須観光に訪れた方は、ぜひその味を楽しんでほしい。

  • 那須地区良食米コンクールで最優秀賞に輝いたアーデル米

  • 関の里 手打ちそば かき揚げセット

  • 関の里 天盛りうどん