JR西日本は17日、特急「やくも」(岡山~出雲市間)に投入する新型車両273系の報道公開を実施した。国内初という「車上型の制御付自然振り子方式」を開発・実用化し、乗り心地を向上させた車両に。2024年春以降の営業運転開始を予定している。

  • 特急「やくも」の新型車両273系が報道関係者らに公開された

特急「やくも」は伯備線経由で山陰・山陽エリアを結び、伯備線が電化された1982(昭和57)年以来、カーブの多い線区に適した「自然振り子方式」の特急形電車381系により運転されてきた。現行車両の製造から40年が経過したこともあり、新型車両を投入する。投資総額は約160億円、車両形式は「273系特急形直流電車」、投入車両数は「44両(4両×11編成)」とされ、近畿車輛が設計・製造を担当。デザイナーの川西康之氏が主宰する「イチバンセン」と、近畿車輛デザイン室が車両デザインを監修した。

新型車両273系のデザインコンセプトは「沿線の風景に響き自然に映える車体、山陰の我が家のようにくつろげる温もりのある車内」。車体色の「やくもブロンズ」について、「沿線の自然・景観・文化・歴史を尊び、お客様と交感する色」と説明している。前面・側面に「やくも」のロゴと「モダンに八雲立つ、伝統を継承」したシンボルマークを配置した。

  • 新型車両273系の外観。「やくもブロンズ」を基調としたカラーリングに

  • 車体側面のLED表示器を活用し、歴代「やくも」のヘッドマークを再現

車内に関して、4両編成のうち1両を半室グリーン車とグループ向け座席「セミコンパートメント」の車両に。グリーン車は横3列(1列+2列)の配置で、明るく空間の広がりが感じられる黄色をベースに、富と長寿の象徴とされる亀の甲羅をイメージした「積石亀甲」模様をあしらい、山陰の文化・風土を演出している。

グループ向け座席「セミコンパートメント」は、2人用(横1列)・4人用(横2列)を2組ずつ用意。鉄道車両の特性を生かし、向かい合って大きな窓からの車窓風景を楽しめる座席構成とした。フラットにできるシートに加え、大型テーブルと緩やかな仕切りによって適度なプライベート空間とし、くつろぎを演出。「ご家族やグループでお楽しみ頂きたいというわくわく団らんの様子」を図案化した「セミコンパートメント」のロゴをデッキ間の自動ドア部等に配置した。

普通車は横4列(2列+2列)の配置で、沿線の山々をイメージした緑色をベースに、古来から神事に用いられ、人を守る魔除けの意味もある「麻の葉」模様をあしらい、沿線の自然・風土を演出。現行の381系と比べて、座席の間隔を広げるとともに、座り心地を改善した座席仕様とするなど、快適性を向上させるという。コンセントを全席に設置し、車内Wi-Fiも導入。車いすスペースを拡大し、多目的室や大型荷物スペースを設置するなど、バリアフリーや利便性も考慮。幅広い利用層を意識しての設備の充実を図る。

  • 新型車両273系の車内。グリーン車は横3列(1列+2列)、普通車は横4列(2列+2列)の配置に。車いすスペースも設けられた

  • グループ向け座席「セミコンパートメント」。シートはフラットにでき、大型テーブルも備える

新型車両273系で採用される「車上型の制御付自然振り子方式」は、JR西日本と鉄道総研、川崎車両の共同開発によるもので、車上の曲線データと走行地点のデータを連続して照合することにより、適切なタイミングで車体を傾斜させることが可能。あらかじめ曲線区間に入るタイミングで車体を傾斜させ、滑らかに遠心力を打ち消すことで、現行の「自然振り子方式」と比べて乗り心地が大きく向上するとのこと。

その他、車体構造の強化と機器の二重系化による安全性・安定性の向上、車内防犯カメラの設置による車内セキュリティ向上、空気清浄機の搭載と抗菌・抗ウイルス加工による安心した車内環境づくりにも努める。LED照明等による省エネ化に加え、よりエネルギー変換効率に優れたVVVF制御装置も搭載し、環境負荷の低減も図る。