一般社団法人鉄道模型コンテストが主催する「第15回全国高等学校鉄道模型コンテスト」全国大会が、8月4~6日に東京・新宿の新宿住友ビル三角広場にて開催された。

  • 「第15回全国高等学校鉄道模型コンテスト」を開催。植生豊かなこの作品が文部科学大臣賞(最優秀賞)に輝いた

このコンテストは、モジュール部門、一畳レイアウト部門、HO車輌部門の3部門に分かれており、最終日の16時に結果が発表される。今年も155校が作品を出展し、3日間にわたって盛り上がりを見せた。ここでは3部門の優秀作品をそれぞれ紹介していく。

■モジュール部門であの学校が2連覇、優秀賞へランクアップも

まずはモジュール部門の優秀作品から紹介しよう。この部門では、長辺900mm・短辺300mm・高さ100mmの直線モジュールボード、または一辺600mm・高さ100mmの曲線モジュールボードに、規定に従って情景を制作する。モジュールボードも含む作品全体の高さは450mm以下に収め、線路敷設や電飾、構造物の設置も規格に沿って行わなければならない。

モジュール部門の最優秀賞にあたる文部科学大臣賞は、昨年に続いて灘中学校・高等学校が受賞した。昨年、シカゴの街を制作した同校は今回、泰緬鉄道を制作。泰緬鉄道は、ビルマ戦線の補給線を確保するため、第二次世界大戦中に日本軍がタイ・ミャンマー間に突貫工事で建設した鉄道。現在もその一部がタイ国有鉄道で使用されているという。Googleマップを参考に、クウェー川に沿って岩肌のすぐそばまで線路が通っているクラセー橋付近をモジュールレイアウトで再現した。

  • 泰緬鉄道のモジュールを制作した灘校が再び最優秀賞に

  • 植生豊かな情景と、線路ギリギリに迫る岩肌

  • 一見、緑一色だが、注意深く見ると植物の種類の違いがわかる

右から左まで一面緑色の情景が広がっているが、これらの木々には、ドライフラワーや、4種類の緑色に塗り分けた上で小さな菱形に切った半紙を使用したとのこと。木の幹は、スズメッキ銅線をねじって広げた後にハンダを流して制作。一部の葉は青のりや3Dプリンターで作られており、亜熱帯のバリエーション豊かな植生を表現している。

一方、線路のそばまで迫る岩肌は、KATOのシリコンモールドで型を取って石膏を固め、少しずつ形を削って取り付けたところへ、何色も塗り重ねるようにウェザリングを行った。川は4段階の濃さで色を付けたエポキシ樹脂を濃い色から順に4層重ね、木工用ボンドで波を表現した。

昨年大活躍だった3Dプリンターの技術も生かされており、向かって右側の寺院や、モジュールの中央に架けられた橋桁は3Dプリンターで、橋脚はレーザーカットした紙で作られている。一方で水上の住宅は木材やコルゲート板で自作。3Dプリンターの技術を生かしつつ、水の表現にもこだわり、今回のメインである植生も多彩な手法で見事に再現した。東南アジアの雰囲気をNスケールで存分に表現していた。

  • 寺院や橋には3Dプリンターとレーザーカッターを使用。水の表現にも力を入れた、自然豊かな情景を列車が走る

優秀賞は白梅学園清修中高一貫部と、岡山理科大学付属高等学校が受賞した。白梅学園は、京都・美山の「かやぶきの里」をイメージした作品を出展。江戸東京たてもの園(東京都小金井市)を取材し、それをもとに茅葺き屋根の建物を制作した。特徴的な茅葺き屋根は、3本組の麻ひもを2本にほどき、プラ板に巻き付けて作成。ところどころ苔が生えている様子も再現した。この方法で、既製品の蕎麦屋(おそらくトミーテック「建物コレクション」)も茅葺き屋根にアレンジしていた。

水の表現にはレジン、水しぶきが発生するところには綿を使用し、水の透明感や、しぶきの白さを表現。川沿いの桜の木は、ドライフラワーを4色に色分けし、単調にならないように作り込まれていた。他にも、配置した人形それぞれにストーリーを持たせたり、田んぼの稲に歯ブラシを使ったりするなど、生徒が先輩から学んだことが今作にもしっかり生かされていた。

展示中は、生徒が来場者に作品の解説を行いながら、手前の橋から茅葺き屋根の住宅を見上げるような視点をすすめていた。走行用車両のキハ181系「はまかぜ」がモジュール上を通過する場面も偶然見られたため、情景と車両の雰囲気も良くマッチしていた。

  • かやぶきの里をイメージした、白梅学園清修中高一貫部のモジュール

  • 川沿いの桜並木と、人それぞれのストーリーがある

  • 生徒おすすめの撮影ポイントから茅葺き屋根の町並みを見上げる

岡山理科大学附属高等学校は、昨年のコンテストで彦根城をリアルに再現し、話題になった。今回は見事に優秀賞へ勝ち上がった。同校は今回、地元生徒の提案で決定した姫路城のモジュールを制作。図面をもとに、屋根の瓦の数、窓配置や柱の幅・本数などを自作し、実物と同じになるように徹底して再現。見えない箇所までこだわって作っていた。

城はカラーボード、瓦や窓の柱はプラ棒で自作しているが、黒色を下塗りした後、茶色・白色と塗り重ねた上で漆喰調の塗料で塗装することにより、重厚感を出すとともにカラーボード感を消している。

城の外側に配置している石垣や観光客も見逃せない。本来は園芸向けに使用される100円ショップの「インテリアガラスサンド」を隙間なく積み上げ、何度も色を塗り重ねた石垣は絶妙な風合いになっている。人形は爪楊枝で作成され、その数なんと約2,100体。隙間時間を利用し、1~2カ月かけて制作したという。姫路城の入口・出口付近に観光客や学生グループが密集する一方、場内に入ると人形がまばらに配置されたことから、人の流れも意識して姫路城を再現したことがうかがえた。

  • 岡山理科大学附属高等学校による姫路城。城の再現だけでなく、人の流れも意識した作品になっている

モジュール部門、一畳レイアウト部門、HO車輌部門のいずれにおいても、参加校の生徒は自身の作品を来場者へ積極的に紹介していた。ステージで各校のプレゼンも行われ、会場に来られなかった参加校もオンラインでプレゼンに参加。当記事に掲載できなかった参加校も含め、筆者が取材した生徒からも、自身の作品や鉄道に対する熱意の高さが伝わってきた。

■列車が行き交う一畳レイアウト、広島電鉄とジブリ映画が優秀賞に

続いて一畳レイアウト部門の作品を紹介する。この部門では、600mm×900mmから910mm×1,820mmの範囲で、車両が走行可能なレイアウトを制作する。作品全体の高さは700mm以下に抑えなければならないが、他のモジュールと接続することはないため、線路のメーカーや配線は各校で自由に決めることができる。

  • 岩倉高等学校の広島電鉄レイアウト

  • 原爆ドームと路面電車

  • 小さな車庫だが、路面電車だから収まる

一畳レイアウト部門の最優秀賞は、昨年に続いて岩倉高等学校が受賞した。同校は今回、昨年の合宿で訪れたという広島電鉄のレイアウトを制作。市内線をベースに作り込んでいたが、外周の延長部分に宮島線の要素を盛り込んでいる。市内線のセクションには、原爆ドームや平和記念公園など市内の名所を再現。広電本社前電停付近には、その名の通り広島電鉄本社ビルも再現していた。スペースは狭いが、千田車庫も取り入れた。

外周は宮島線のセクション。リニューアルした広電宮島口駅や、フェリーターミナルと厳島神社などが特徴的だった。広電宮島口駅付近で『西部警察』の要素も表現している。瀬戸内海の制作には、波の付いたジオラマ素材を使用し、カキの養殖風景も再現。5200形「Greenmover APEX」などが海沿いを走行する様子は、実際の風景を思い起こさせる。

  • 宮島線の情景も盛り込み、風光明媚な区間を路面電車が走る。ちなみに、「Greenmover APEX」は部員が塗り替えて作ったという

厳島神社鳥居と原爆ドームは3Dプリンターで作成しつつも、大部分の建物は自作しており、照明も仕込まれている。いつも以上に建物が多い分、いつも以上に建物にこだわったと生徒は話しており、市内線・宮島線の両方を取り入れたにぎやかな情景が見事に再現されていた。

一畳レイアウト部門の優秀賞も白梅学園清修中高一貫部で、スタジオジブリ制作のアニメ映画『ハウルの動く城』をイメージしたレイアウトを出展した。さんけい「みにちゅあーと」シリーズで発売されている「ハウルの城」「ハッター帽子店」のペーパークラフトを組み立て、前者は丘の上に、後者は街の中に配置。丘の草原に「芝生の達人」を使うことで、芝生が立体的に作られている。

  • 『ハウルの動く城』をイメージしたレイアウト。作中のさまざまなシーンを思い起こさせる

町の地面には、石のタイルを細かく切って貼り付けたとのこと。作中のシーンを再現できるように、建物の配置も考えられている。列車が通る部分は切通しになっており、レイアウトでもグリーンマックスの石垣を使ってそれを再現。機関車の煙による汚れを再現すべく、ホルベイン「パンパステル」でウェザリングも行っており、作中の情景を上手くNゲージレイアウトに落とし込んでいた。

■HO車輌部門優秀作品、マニアックな車両を紙やプラ板で制作

続いてHO車輌部門の作品を見ていく。HOスケール(80分の1)で車両を自作し、出展するこの部門で、最優秀賞に輝いたのは岡山理科大学附属高等学校だった。かつて鉱山の坑道を走り、現在は柵原ふれあい鉱山公園で静態保存されている電気機関車EB403形を制作した。

地元の人や熱心なファンでないと知らない人も多いであろうマニアックな車両だが、同校はこの車体を工作用紙で作成。大型のパンタグラフはプラ棒と針金で作ったという。車軸にはボールペンの芯、車輪には押しピンや工作用紙といった身近な素材を使用している。塗装の際、もともとの塗装を行った後、写真をもとに赤色や茶色をこすりつけ、保存車の錆びた風合いを演出。実物を再現する技術力の高さが光っていたように感じた。

  • 岡山理科大学附属高等学校によるEB403形

  • かわいらしくポップなイラストを交えて解説

  • 攻玉社学園高等学校は福井鉄道のデキ11・ホサ1形を出展

優秀賞の攻玉社学園高等学校は、福井鉄道デキ11・ホサ1形を制作。デキ11は、福井鉄道の前身である福武鉄道が1923(大正12)年に製造した電動貨車で、100年経った現在も除雪作業のために使用されることがあるという。ホサ1形は、1967(昭和42)年に国鉄から福井鉄道に払い下げられた無蓋貨車で、福井鉄道ではバラスト輸送などに使用されたが、2001(平成13)年に廃車となったとのこと。

デキ11の車体は、厚みの異なるプラ板を使い分けてフルスクラッチ。そこに真鍮線で手すりやドアノブなどディテール表現をプラスし、屋根にウェザリングを施している。デキのスノープロウとホサ1形は3Dプリンターで作成したとのこと。解説によると、ホサ1形にゆがみや造形不良が見られたため、紙でカバーを作って被せたとのことだが、これが地方私鉄らしさをより演出していたように見受けられた。

最終日の結果発表で、審査委員長を務めたジオラマ作家の諸星昭弘氏が講評を行った。モジュール部門の最優秀賞・優秀賞3作品を例に、屋根や構造など、制作の非常に難しい城を毎年作ってくる凄さ(岡山理科大附属)、制作技法を自ら考えながら情景を作り上げたことと、上位常連校ならではの技術力の高さ(白梅学園)、木の種類や植生などに気を遣いながら、本来は非常に難しい緑一面の情景を制作したこと(灘校)を評価。全体的な評価として、各校のプレゼンテーションのクオリティが年々上がっていることも語った。

最優秀賞・優秀賞の他にも、加藤祐治賞、ベストクオリティ賞などの各賞や、今回モジュール部門に新設された「旅する江戸川乱歩賞」などが用意され、多くの参加校が受賞を果たした。

  • 只見線全線運転再開当日の会津川口駅を再現(桐蔭学園中等教育学校)

  • 新幹線と豊肥本線のスイッチバックの共演(熊本県立熊本工業高等学校)

  • Zゲージのトロッコがある紀州鉱山風のモジュール(大阪府立佐野工科高等学校)

筆者は今年も鉄道模型コンテストを取材できたが、今回が初参加、あるいは6年ぶりなど、まだ見たことのない参加校の出展も見られた。掲載の都合上、詳細に取り上げることはできなかったが、桐蔭学園中等教育学校は只見線の全線運転再開当日(2022年10月1日)、にぎわう会津川口駅の様子を再現したほか、紙で作ったとは思えないほど精密で重厚なHOスケールの「SL大樹」を出展。熊本県立熊本工業高等学校が制作した新幹線と豊肥本線のスイッチバックの共演、大阪府立佐野工科高等学校が制作したZゲージのトロッコがある紀州鉱山風のモジュールなど、優秀賞でなくても筆者が強く心を打たれた作品は多い。生徒らの熱意の高さに筆者も共感し、尊敬している。

ここで掲載できた作品や、筆者が個別に取材できた参加校は全体のひと握りでしかない。他の参加校の作品が気になったら、ウェブ版も閲覧可能な「鉄コンアプリ」をぜひ見てみてほしい。