話題性では近年記憶にないくらいの意欲作、異色作がそろった2023年の夏ドラマ。異例のスロースタートとなる『何曜日に生まれたの』(ABC・テレビ朝日 8月6日から)と『ブラックポストマン』(テレビ東京 8月18日から)を除く主要作がそろい、全体の傾向が見えてきた。

昭和の時代から夏は「最も季節性のあるジャンルが放送され、多彩な作品がそろう」と言われてきた季節。今年も後に「2023年の夏は……」と語り継がれそうなほど、多彩なジャンルのヒット作候補がそろった。

主要作がそろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」をドラマ解説者の木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2023年夏ドラマ18作の傾向とおすすめ5作(第1弾)、目安の採点付き全作レビュー(第2弾)を挙げていく。

2023年夏ドラマの主な傾向は、【[1]各局のストロングポイントを生かした大勝負 [2]徹底した配信対策と成果】の2つ。

  • 『VIVANT』主演の堺雅人

傾向[1]各局のストロングポイントを生かした大勝負

今夏は民放各局の強みを生かすような力作がそろった。

まずTBSは、看板枠・日曜劇場の主演経験俳優を集結させ、同枠で『華麗なる一族』『南極大陸』『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』『ドラゴン桜』などを手がけた福澤克雄監督が原作から担う『VIVANT』を放送。約250名のキャストとスタッフで2カ月半にわたるモンゴルロケを行うなどのスケール感は、日曜劇場のさらなる進化を感じさせる。

次にフジテレビは、1990年代の月9ドラマを彷彿させる江の島が舞台の恋愛群像劇『真夏のシンデレラ』を放送。森七菜、間宮祥太朗ら男女8人の若手俳優が当時さながらの三角関係などバチバチの恋愛バトルを繰り広げている。近年のラブストーリーは恋のライバル(当て馬)を作らず静かな恋模様が描かれるようになっていただけに原点回帰という感が強い。

日本テレビは、『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』のスタッフが手がける学園サスペンス『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』を放送。現在の学校問題を掘り下げるシリアスな作風は、これまで『伝説の教師』『女王の教室』『野ブタ。をプロデュース』『35歳の高校生』『学校のカイダン』『先に生まれただけの僕』など異色の学園モノを土曜ドラマで放送してきた同局らしさを感じさせる。

  • 『最高の教師』主演の松岡茉優 撮影:望月ふみ

テレビ朝日は、得意のミステリーに田舎町の美しい風景を絡めた『ハヤブサ消防団』を放送。長年、木曜夜に視聴者を楽しませてきたミステリーというジャンルに加え、原作は池井戸潤の小説を選んでさらなる魅力を加えている。また、手堅い一話完結の職業モノである『シッコウ!! ~犬と私と執行官~』もテレ朝の得意分野と言っていいだろう。

各局が強みを生かした作品で勝負している背景にあるのは、夏という季節。以前から夏は「定番ジャンルの刑事・医療・法律がハマりにくい」「学生も社会人も長期休みがある一方で外出率が高い」「大型スポーツイベントの中継などで放送が流れやすい」など連ドラにとっては難しい季節と言われてきた。

しかし、2010年代から現在にかけて夏ドラマには、『半沢直樹』(TBS)、『昼顔 ~平日午後3時の恋人たち~』(フジ)、『義母と娘のブルース』(TBS)、『私の家政夫ナギサさん』(TBS)、『ハコヅメ ~たたかう!交番女子~』(日テレ)などさまざまなジャンルのヒット作を生んだ実績がある。今夏ものちに2020年代を代表する夏のヒット作が生まれるのではないか。

  • 『ハヤブサ消防団』主演の中村倫也 撮影:加藤千雅

傾向[2]徹底した配信対策と成果

昨年から今年にかけてドラマを配信視聴する人々の数が右肩上がりで増え続けている。昨年は『ミステリと言う勿れ』(フジ)と『silent』(フジ)が記録的な配信再生数を叩き出したが、今年も冬ドラマの『ブラッシュアップライフ』(日テレ)や、春ドラマの『あなたがしてくれなくても』(フジ)などを多くの人々が配信視聴していた。

ドラマの配信視聴が若年層だけでなく上の世代にも広がっている上に、外出率が高く放送が流れやすい今夏は、「配信でどれだけ見てもらえるか」がより重要になる。

たとえば『VIVANT』は事前情報を伏せたほか、謎だらけの物語で視聴者に考察を呼びかけるなど、配信でのリピート視聴を狙う仕掛けが見られた。考察という点では、『ハヤブサ消防団』と『CODE~願いの代償~』(読売テレビ)も、制作サイドからの積極的な仕掛けが見られる。

『真夏のシンデレラ』は、キュン、笑い、ツッコミなどの要素を盛り込んで、ネット上の書き込みを誘発。男女8人の恋を同時進行させ、2組の三角関係を描くなど、配信視聴につながりそうな設定が目立つ。さらに『こっち向いてよ向井くん』(日テレ)は、女性目線からの答え合わせを主人公に突きつける終盤の演出が配信でのリピート再生をうながしているという。

実際、公表された主な見逃し配信再生数は以下の通り。

・『VIVANT』第1話TBSドラマ初回歴代最高の約400万回
・『トリリオンゲーム』第1話200万回突破
・『ハヤブサ消防団』第1話テレ朝ドラマ歴代3位の300万回突破
・『最高の教師』第1話2日間で100万回突破
・『CODE』第1話~第4話で計1,000万回突破

このところ急激に全体の水準が上がっているため、「あのドラマに負けている」という負の印象を残さないために発表を控える作品も多いが、その大半が1話あたり100万回再生を超えているという。

喫緊の課題としては、上がり続ける配信再生数に合わせてどのように収入を上げていくのか。配信での広告、有料会員、海外……視聴率の低下を嘆くより、ここに注力できるかが未来を左右するだろう。


  • 『ばらかもん』主演の杉野遥亮

  • 『初恋、ざらり』出演の小野花梨 撮影:泉山美代子

これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『VIVANT』『ハヤブサ消防団』の2作。

『VIVANT』は、「見ればわかる」という徹底した映像重視の制作スタンスが圧巻。すべてに全力投球して世界を目指す志の高さと労力を惜しまない姿勢は、他の作品と比べることすらできないレベルにある。放送前から情報を伏せ、スタート後もテーマやゴールを見せないなどの大胆さも前代未聞で、もし失速しても挑戦の価値は色あせない。

『ハヤブサ消防団』は、深夜帯の名作『民王』に続く池井戸潤とテレ朝のタッグが好相性。キャスティングから脚本、演出まで、「池井戸小説はTBSの日曜劇場よりこちら」と思わせられるところが多い。田舎町の風景に曲者ぞろいのベテラン俳優たちがなじみ、ミステリーらしい不穏なムードがたっぷり。

その他では、『ばらかもん』は五島列島をはじめとする自然と、やたら距離の近い住民たちに癒される夏の視聴に最適な作品。『初恋、ざらり』は小野花梨の繊細な演技を見るだけでも価値あり。恋の切なさ、もどかしさ、あやうさなどをストレートに感じられる。『彼女たちの犯罪』は、あわてずさわがず“彼女たち”の背景と過ちを描く落ち着いた構成に好感が持てる上に、結末への期待値も高い。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。

■2023年夏ドラマのオススメ5作

  • No.1 VIVANT (TBS 日曜21時)
  • No.2 ハヤブサ消防団 (テレ朝 木曜21時)
  • No.3 ばらかもん (フジ 水曜22時)
  • No.4 初恋、ざらり (テレ東 金曜24時12分)
  • No.5 彼女たちの犯罪 (読売テレビ 木曜23時59分)