もともと、アーティスト志望でこの世界に足を踏み入れたという廣野。しかしデビューは2016年に上演された『ハイキュー!!』。俳優としての活動だった。

「音楽をやりたくてくすぶっていたとき、ありがたいことに『ハイキュー!!』のオーディションに合格して。そこからがちゃんとした芸能生活の始まりだったのですが、そこで出会った俳優さんたちを見て『こんなに格好いい人たちがいるんだ』と思って、俳優という仕事に前向きになれました」

それでも、まったくの未経験からスタートした舞台は、困難なこともたくさんあった。心が折れそうになったことも当然あった。

「まずついていくことで精一杯。しかも現場で皆さんが話していることはまったく分からないんですよね。正直、何を聞いたらいいのかも分からない状態。しかも当時18歳ぐらいだったので、稽古や舞台が終わったあとも、みんなでお酒を飲みに行くこともできませんでした。最悪だな……と思うこともたくさんありました」

そこから7年、一つずつ作品を重ね、経験も積んできた。ある程度自信もついてきたというが、本当に俳優として「しっかりやっていくんだ」と思えたのは、今年3月に上演された舞台『鋼の錬金術師』だったという。

「それまでも、責任感を持って臨んでいましたし、うまくいったなと思ったこともありました。でもそれは感覚的なことで、ちゃんと頭で理解できていたわけではなかったんです。だからうまく乗っていけるときはいいのですが、引き出せないときは全然ダメで。差が激しかったんです。でも『鋼の錬金術師』では、しっかりと言葉の大切さに向き合えて、セリフの持つ意味やパワーを考え、コントロールすることができたなと感じられました。それは脚本・演出の石丸さち子さんがいたから。彼女の存在は大きかったです」

手応えを感じることができてから、すぐにやってきた本作。廣野自身も、その巡り合わせには運命的なものを感じているようだ。

「自分のなかで“つかめた”と感じたタイミングで『ヴァグラント』に出会えたのは大きかったです。その意味で本当に楽しみなんです」

一方で、シビアな視点も忘れずに持っている。

「僕らはプロなので、作品が自分を成長させたり、試す場であってはいけないと思っているんです。できて当たり前。お金を払ってレッスンするのなら分かりますが、お金をいただいて作品を観てもらうのですから」