大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第27回は「安土城の決闘」。織田信長といえば、どうしても壮絶な最期を迎えた本能寺の変が注目されるが、本能寺は信長の京都の宿泊先で、信長の本拠地は近江八幡にある安土城である。そして、本能寺の変のきっかけが生まれたのも安土城なのだ。

  • 『どうする家康』徳川家康役の松本潤(左)と織田信長役の岡田准一

第27回の放送当日、信長を演じた岡田准一のトークショーが近江八幡で行われ、筆者も取材した。そのときの記事にも記したが、岡田は「僕は第27回の方が大事だと思っていて」と語り、同席した磯智明チーフプロデューサーも「第27回は安土で信長と家康がガチでやりあう、前半戦のクライマックス。これに向けて我々が積み上げてきたということもあるので、緊張感も含めて、醍醐味を皆さんに味わってほしい」と語っていた(ヤフーニュース個人より)。

家康(松本潤)が信長を富士遊覧でもてなしたお返しに、信長は家康と穴山梅雪(田辺誠一)を安土城に招待する。幸若舞を見せたり、ご馳走したりともてなすが、その心づくしの料理の一品・鯉がなんだか臭うと、家康が演技をする。艱難辛苦を乗り越えて本音を隠せるようになった家康の名演技によって、饗応役を務めた、信長の信頼できる家臣・明智光秀(酒向芳)の立場は失墜。これで信長を本能寺で討つ準備が整った。

陥られた光秀もお気の毒な気がするが、彼も料理に毒を入れるか信長に事前に確認していたので、場合によっては家康が毒殺された危険性もあったわけで、どっちもどっち。やるかやられるか、戦国無情である。

信長は自室に家康を呼びつけ、本心を引きずり出そうとする。家臣のしくじりを決して許さない信長に対して、頼りない家臣も「友垣」のように大事にする家康。2人の違いがあらわになり、この違いこそが2人の運命を分けるのかもしれないと思わせられる信長と家康の対立は見ごたえがあった。

昔なら信長のアタックにすぐさま動揺した家康だが、いまや、落ち着いた対応をする。ところが、瀬名(有村架純)と信康(細田佳央太)の死を「くだらん」と信長が言うと我慢できず、逆上してしまう。

信長は、光秀に暴力を振るい、家康のことを挑発し、誰に対してもひたすら強めに出る。そうやって信長は、武田信玄(阿部寛)と並び、家康が乗り越えられない大きな存在でい続けた。ときどき、やり過ぎな印象もあったけれど、信玄とは、また違う圧を作り上げるのは並々ならぬ苦労であったろう。岡田は、ただの威圧感ではなく、ちょっと行き過ぎたところがあるくらいの人物に意識して仕上げていたようである。信玄が山とすれば、信長は嵐であろうか。家康を渦のなかに巻き込んで振り回した。

なぜ、信長がこうなってしまったのか。それは第27回に登場した子供時代の回想から、父・信秀(藤岡弘、)の厳しい教えが追い込んでいったのかなと想像させるが、もう少し詳しいことが第28回で描かれるに違いない。

大河ドラマでは、主人公が1年間、まんべんなく出演するなか、都度都度、主人公に大きな影響を与える人物が出てくる。信長もその代表的な人物である。演じた岡田は、圧倒的な存在感を放ち続け、序盤はアクションプランも自ら提案してドラマに寄与し、「俺の白兎」(脚本は古沢良太)や家康や娘の五徳(久保史緒里)に対するスキンシップなどでSNSも大いに盛り上げた。

岡田はかつて大河ドラマ『軍師官兵衛』(14年)で堂々主役を演じたからこそ、大河ドラマの勘所をつかんでいたと言えるだろう。大河ドラマの主人公は、物語の途中で激変することがあるが、岡田演じる黒田官兵衛もそのひとりであった。官兵衛は、豊臣秀吉、家康の側近として活躍した人物で、信長亡きあと、秀吉がぐいぐいと世に出てくるのは官兵衛のおかげでもある。

『官兵衛』での岡田の演技は高く評価された。序盤は真っ直ぐ明るい人物だったのが、幽閉をきっかけに身も心も影が落ち、人間の深みが増す。その変化を岡田は鮮やかに演じた。今回、『どうする家康』で家康が激変を始めているが、どれだけアタックを加えたら激変が劇的に起きるか、岡田は経験者として、松本潤に猛攻を加え続けたのであろう。大変な役割を見事にやり遂げたのではないか。

岡田は官兵衛を演じた3年後、映画『関ヶ原』(17年)では石田三成役で主演している。三成もまた秀吉に重用された人物で、やはり信長の死以降、めきめき頭角を現してくる。優秀ではあるが頭が固い官僚肌という印象の三成を、岡田が演じることで、文武両道であった人物に塗り替えた。

岡田は2002年、連続ドラマ『木更津キャッツアイ』(TBS系)で死期が迫った主人公(櫻井翔とダブル主演)を演じて、悲劇を前にしながらも、仲間たちとおバカな青春を過ごす、人生の切なさを演じた。その後、2007年放送の『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系)でアクションのできる俳優としての地位を確立。それからはアクションのある作品に多く出演するようになる。

作品への関わり方に極めて実直な印象があって、それが、武士役に合っている印象。黒田官兵衛、石田三成、織田信長となかなか最強な戦国武将を演じてきた岡田。次は誰を演じるか期待したい。

『どうする家康』では黒田官兵衛はまだ出てきていない。本能寺の変で信長が退場したら、官兵衛が登場するはず。岡田二役説もあるが、いや、まさか……。石田三成と二役は、中村七之助がすでに発表されているのでないことはわかっている。

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