「BPO設立20周年記念セッション」が14日、都内で行われ、TBSの情報バラエティ番組『サンデージャポン』の久我雄三チーフプロデューサー、カンテレのドラマ『エルピス ―希望、あるいは災い―』などの佐野亜裕美プロデューサー、読売テレビのバラエティ番組『ダウンタウンDX』で22年にわたり演出に携わった西田二郎コンテンツ戦略局専任部長が登壇した。

池上彰氏の司会で、BPO放送倫理検証委員会委員長の小町谷育子弁護士とともに、「オワコン化しないために難題山積の放送業界が取り組むことは何か」というタイトルでトークを繰り広げた3人。話題は、BPOと制作現場の関係性、コメンテーターのあり方、多様な意見の大切さ、『エルピス』の成立背景、ドラマを巡る環境変化、海外への意識など、多岐にわたった。

  • (左から)読売テレビ・西田二郎氏、TBS・久我雄三氏、カンテレ・佐野亜裕美氏

■BPOと制作現場の“すり合わせ”の場を

西田氏はBPOの取り組みを通して、バラエティの現場で「本当にリアルに意識はすごく高くなったと思います」と語るが、小町谷氏は首を傾げながら、「バラエティの皆さんって、そもそもBPOを意識してますか?」と疑問。久我氏は「制作者も結構意識していて、BPOの一個手前で、“これは倫理的にいいのかな”と考える機会や意識は出てきています。芸人さんがふざけ合って強めにツッコミで叩くというのをやるときに『これ、いいですかね?』と聞いてくるようになってきてるんです。これが良いか悪いかは僕もすごく迷うんですけど、演出する人間たちが、ある種萎縮という形で感じ取ってるのかもしれないなと思うと、楽しい・面白いという空気をちゃんと出し切れない場面はあるなと思います」と明かす。

これに対し、小町谷氏は「もしもBPOがあるから、表現が萎縮の方向に行ってるとしたら、残念でたまらないです」とした上で、「BPOの意見書が出ると、結局その数が増えていくことになるので、いっぱい悪いことが起きてるんじゃないかとか、いろんな論点が出てるんじゃないかと受け取る方は思うかもしれないけど、実はよく見ると同じ論点なんです。事実の調査が足りないというのが一番多い案件なので、そんなに意見書を出しているからといって、表現が萎縮したり狭まったりというのは、法律家的に言うと“因果関係あるの?”と思う」と見解を述べた。

  • BPO放送倫理検証委員会委員長の小町谷育子弁護士

西田氏は「今、(小町谷)委員長がおっしゃった思いが誤解されて、伝わりきってない人もいる。それは、現場はすごく仕事のボリュームが多くて、働き方改革が言われる中で自分のスキルを上げるためにものすごく時間を費やさなければいけないときに、このBPOさんの課題をしっかり捉える時間を入れるとしたら、対症療法的にならざるを得ないから。だから、“BPOが言ったぞー”“聞いたぞー”で終わるのではなく、本当に伝わってみんなが納得しながら歩んでいくためにすり合わせる感じがあったらいいと思います」と希望し、小町谷氏も「BPOは放送局の上にあるんじゃなくて、一緒に走ってると思ってるんです。だから、そういう“すり合わせ”の場ができればすごくいいと思いました」と共感した。

■背景を徹底把握した上でコメンテーターを構成

池上氏は「ワイドショーにはいろんな人がコメンテーターとして出ますよね。専門ではない人が例えば国際ニュースについて感想を言ったりすると、見てる人の中にはすごく違和感を覚えることもあるんだろうと思うんですね。これについてどうお考えですか?」と切り出した。

久我氏は「深刻なニュースを扱う際に、そういう声はSNSでよく目にするんですが、シンプルに“ニュースって誰に向けて出してるんだ”ということを考えると、世間一般の全員に向けて発信している限り、それを受け止めて考えることも発言することも、全員がやっていいことだと思うんです。そこに知識がある・なしは関係ないし、実際にいろんなことを享受するのはそれぞれの人たちなんで、その指摘は全然違うなと思って、あまり気にしないというのが正直なところです」と考えを提示。

さらに、「『サンデージャポン』はほぼ専門家という人がいない状態で番組をやる中で、大事なのはその人がどういう生い立ちで、どういう環境で、どういう考え方をしてる人なんだろうということがちゃんと伝わることだと思うんです。“僕はこういう経験があるから、このニュースや出来事に関してはこう思うんだ”と、自分に湧き上がるものから言えば、どんな発言だってその人が感じたことだから、それは言ってしかるべきだし、感じてしかるべきではないかと。そこに批判される余地はあまりないと思うので、そういうところは番組としても大事にしています」と説明した。

それを実践するため、『サンジャポ」ではコメンテーターとして出演してもらう際に、「必ずどんな文化人でも、家族構成、小さい頃どんな子供だったか、いじめられたことがあるか、あったらそれを乗り越えたときにどんな支えがあったのか、恋愛で告白するほうか、恋愛は長続きするほうかなど、全部聞くんです。その人の環境だったり、今に至るところの背景を知った上で出演してもらうので、その人の発言を視聴者の9割が反発しても、1割はしっくりくる人がいてくれるだろうという気持ちで出てもらっています。そうやって重ならないタイプの人たちが集まって、いろんな意見が出て、どれかにきっと共感してくれるという状態を作ろうと心がけています」と、構成しているそうだ。