市民グループ「芸備線魅力創造プロジェクト」が、6月30日に三次市役所で記者会見を実施した。会見の中で、芸備線と木次線に関するシンポジウムを開催し、団体貸切列車の運行に向けたクラウドファンディング(CF)を行うことも発表した。

  • JR芸備線の魅力を生かすため、9月にシンポジウムの開催や団体貸切列車の運行を予定。イベント開催に向けたクラウドファンディングを実施する

芸備線は備中神代駅(岡山県新見市)と広島駅を結ぶ全長159.1kmの路線。列車の運行形態としては、新見~備後落合間、備後落合~三次間、三次~広島間の3区間に大きく分けられる。備後落合~広島間はかつて「ちどり」「たいしゃく」などの急行列車が運行され、山陰・山陽を結ぶ陰陽連絡線のひとつでもあった。しかし、その役割を終えた現在、備後落合駅で接続する木次線とともに、利用者数の減少に悩むローカル線として報道されることが多くなっている。

JR西日本が昨年11月に公開した「輸送密度2,000人/日未満の線区別経営状況」によると、芸備線は備中神代駅から下深川駅までの144.9km、じつに9割強の区間で輸送密度2,000人/日未満だったという。中でも東城~備後落合間はJR西日本管内で営業係数ワーストとされ、100円の収入を得るために2万3,687円を要する。同区間は今年3月に発生した落石の影響で運転見合わせとなっており、7月下旬頃の運転再開をめざすとしている。

JR西日本は今年5月、備中神代~備後庄原間の見直しについて、協議会の設置を国に要請することを示唆。一方、従来通り沿線自治体と議論を続ける姿勢も示している。

  • 芸備線の利用促進と活性化をめざし、キハ120形を使用した広島カープのラッピング列車も活躍している(林智雄氏撮影)

  • ラッピング列車は2023年3月末までの運行予定だったが、好評につき2023年12月末まで運行期間を延長するという(林智雄氏撮影)

このような厳しい現状において、芸備線をはじめとするローカル線を盛り上げようと、有志によるグループ「芸備線魅力創造プロジェクト」が結成された。

6月30日に行われた記者会見で、「芸備線・木次線 ~魅力を活かす方法を考える~」と題したシンポジウムを9月23日に庄原市で開催すると発表。パネリストとして俳優・ミュージシャン・鉄道愛好家の六角精児さん、鉄道ジャーナリストの杉山淳一氏らを招き、市民レベルで全国的な視点から芸備線・木次線の活用方法を考える。今後の検討材料をJR西日本や自治体に示すとともに、地域住民に対しても魅力発掘・創造に向けて意識し、理解してもらうようはたらきかけるという。

翌日の9月24日に、団体貸切列車「呑み鉄鈍行ちどり足」号を三次駅から備後落合駅まで往復で運行することもめざす。キハ40系2両編成を使用し、車内で利き酒会など催す計画としており、沿線の酒蔵会社が製造した日本酒を飲みながら、自動車では楽しめない「呑み鉄」を堪能する。ちなみに、列車名はかつて芸備線・木次線を走った急行「ちどり」にも由来している。

  • 団体貸切列車「呑み鉄鈍行ちどり足」号はキハ40系2両編成で運行予定(写真は芸備線の普通列車)

その他、小中学生・高校生・特別支援学校生らを対象にしたアイデアコンテストや写真展も行う予定。これらのイベントの開催費用や、「呑み鉄鈍行ちどり足」号の運転費用などに充てるため、クラウドファンディングを通じて事業費を募る。目標金額は200万円。クラウドファンディングサイト「READYFOR」に「芸備線・木次線を未来に繋ぐシンポジウム開催~どうする秘境駅備後落合」を開設しており、8月29日23時まで支援を受け付ける。

「芸備線魅力創造プロジェクト」の代表を務める横川修氏は、芸備線の現状を「備後落合~東城間は1日3往復しかない。全列車が満員で走ったとしても、輸送密度の改善にはつながらない」と説明。「乗って残そう」だけでは、もはや存続は難しいとの認識を示した上で、シンポジウムの開催によって沿線の潜在的魅力を引き出し、列車の利用促進につなげる方法を考えるとしている。

  • 芸備線と木次線が接続する備後落合駅。14時台に3方向(三次方面・新見方面・木次方面)から列車が集まっていた

「呑み鉄鈍行ちどり足」号の運行については、「楽しい列車とはどういうものか」との問いから生まれたと話す。昨年、地元の酒蔵会社が芸備線を走った急行列車のイラストをラベルにあしらった日本酒を販売したこともあり、車内で利き酒会の開催を計画した。

芸備線と木次線が接続する備後落合駅の存在も重要視する。駅周辺に広島県内で唯一という転車台が残っており、これを整備して鉄道遺産とし、観光資源化をめざす。転車台の活用方法のモデルとして、岡山県津山市の「津山まなびの鉄道館」や、因美線の美作河井駅での取組みを挙げた。

  • かつて蒸気機関車の方向転換に使用した転車台が現在も残る

  • 備後落合駅の転車台に載る蒸気機関車(1971年、清原正明氏撮影)

  • 多くの蒸気機関車が集まっていた備後落合駅(1970年、清原正明氏撮影)

広島市在住のローカル鉄旅ライター、やまもとのりこ氏は、「地元の方は意外にも芸備線沿線の魅力に気づいていない」と指摘。「このような呼びかけをきっかけに、地元の人に日常生活の中で少しでも芸備線を乗ってもらえば、地元の人なりの芸備線の良さが発見できると思います。それを教えてもらいたい」と呼びかけた。沿線住民と沿線外との交流の重要性も指摘していた。

なお、クラウドファンディングのリターンとして、支援額に応じてシンポジウムリモート閲覧権や当日会場参加券などが得られる。支援額1万円のコースの中に「『呑み鉄鈍行ちどり足』号 列車乗車参加権(シンポジウムリモート閲覧権あるいは当日会場参加権)」が設けられ、このコースを選択することで「呑み鉄鈍行ちどり足」号に乗車できるとのことだった。