今年デビュー20周年を迎えたシンガーソングライターの川嶋あいが26日、自身の公式サイトやSNSに直筆の文書を投稿し、育ての母の命日である8月20日に毎年開催しているワンマンライブを、声帯の不調により今年で最後にすると発表した。川嶋にとって1年で一番大切な日であり、母やファンへの思いを込めて毎年開催してきた同ライブ。その終了を決断した思い、そして今後の音楽活動について川嶋に話を聞いた。

  • 川嶋あい 撮影:加藤千雅

2003年2月14日にI WiSHのボーカルとして『あいのり』の主題歌「明日への扉」でデビューした川嶋。透明感のある声で「天使の歌声」と称され、幅広い世代から支持されている。

3歳のとき、極度の人見知りだった川嶋の心を歌で開かせようと、育ての母が音楽教室に通わせるようになったのが歌との出会い。そして4歳のときに初めて人前で歌い、その発表会が歌手を目指す第一歩となった。

「地元の音楽教室の発表会で歌って、歌い終わったあとに大人の人たちが大きな拍手や声援をくれたり、母が満面の笑顔で『頑張ったね』って迎えてくれたりしたときに、歌うことでこんな喜びが待っているんだという感動を初めて味わいました。そこから歌うという行為を続けたいと思うようになり、自然に歌手になりたいと思っていました」

母とともに二人三脚で目指した歌手への道。2002年2月から路上ライブを行い、支援の輪が広がり、『あいのり』のプロデューサーの目にも止まってデビューをつかみとった。路上ライブを始めて半年後くらいに母が亡くなり、「歌手になった姿を母に見てもらいたい」という思いでデビューを目指していた川嶋は一度目標を失うも、路上ライブを支えてくれていた仲間たちの期待に応えたいと、再び自分を奮い立たせて走り出した。

そして、デビューの夢が叶った2003年、母の命日に歌いたいとの思いで8月20日に渋谷公会堂(現・LINE CUBE SHIBUYA)にてワンマンライブを開催。「当初は2003年の8月20日で終わりだと思っていた」というライブが、気づいたら毎年恒例になっていった。

5、6年続けた頃から川嶋にとっては、8月20日が1年の始まりという感覚になるほど特別な日に。

「8月20日から自分の1年がスタートし、8月19日に1年が終わるという意識が芽生えたのは、8月20日公演をやるようになって5、6年ぐらい経った頃からです。最初は1回で終わりだと思っていたものが、こんなに長く母の命日にライブを続けられるなんて考えてもみませんでした」

そして、8月20日は「私の中では一番大切な日なんです」と言い、「この日に燃え尽きたいと思って、毎年セットリストを組み立てて演出を考えてリハーサルに臨んでいくという感覚があります」と愛おしそうに話す川嶋。「その情熱が伝わったのか、ファンの皆さんの認識の中でも8月20日の公演がすごく特別なものに変わっているんですよね」とファンの気持ちの変化も感じている。

「10回目ぐらい公演やって、もしかしてすごく大切に考えてくださっているのかなと感じるようになりました。お手紙や、実際に会ってお話したときなどに『8月20日だけは絶対に行きたい』と言ってくださって。コロナ禍前に行った公演で、『皆さんどこから来ているんですか?』と聞いたら、北海道から沖縄まで全部の地域、さらに韓国から来てくださっている方もいて驚いたのですが、この日だけは遠くても東京まで行きたいと思ってくださっている方がいるんだなとすごく感じました」

ファンの気持ちを感じて、川嶋の思いもまた変わっていった。

「最初は母の命日に母のために歌を捧げたいと思って歌っていたのですが、ファンの皆さんがわざわざ集まってくださっているこの空間をいかに楽しんでもらえるか、何か心に残してもらえるかということを考えてライブ作りをするようになりました」