1978年の東宝レコード『日本の映画音楽4 伊福部昭の世界』および『ゴジラ オリジナル・サウンドトラック』を始まりとする「特撮音盤商品」の流れは、キングレコード『ウルトラ・オリジナルBGMシリーズ ウルトラQ/ウルトラマン』~『同 ウルトラマンレオ』(1978年)へ受け継がれたほか、『ゴジラ』『ラドン』『地球防衛軍』など数々の作品で優れた音楽を発表した作曲家・伊福部昭氏の映画音楽を集めた『伊福部昭映画音楽全集』(全10集/1981年)に発展していった。
映画音楽のレコード商品化にあたっては、鑑賞用にステレオで新規に演奏・録音するというスタイルが一般的だったころ、たとえモノラルであっても作品中で使われたオリジナルの音楽が聴きたい……というファンの思いを汲み、すべてオリジナル音源を用いたこれらの商品は、まさに特撮ファンの心の“渇き”をうるおすという表現がピッタリの役割を果たしていた。
そして1983年春、次第に高まってきたゴジラ&特撮怪獣映画ブームを察知したキングレコードは、すべての東宝特撮映画音楽を10枚のレコードに網羅するという、とてつもない企画を実現させた。それが『SF特撮映画音楽全集』(1~10集)である。
「ゴジラシリーズ」の括りには入らないが、伊福部昭氏の魅力全開で人気の高い『海底軍艦』や『宇宙大怪獣ドゴラ』の音楽や、伊福部氏以外の作曲家による珠玉の映画音楽(宮内国郎氏の『ガス人間第一号』、古関裕而氏の『モスラ』など)も余さず収録され、ファンを感激させている。その一方で、当時テクノポップバンド「ヒカシュー」に属し、東宝特撮映画と伊福部音楽に強烈な影響を受けたミュージシャン・井上誠氏が、『ゴジラ』シリーズで伊福部氏が手がけた代表的な音楽をテクノアレンジしたアルバム『ゴジラ伝説』(1983年)を発表。新感覚のゴジラミュージックとして各方面から高い評価と人気を獲得した。開田裕治氏によるジャケットアート(鏡面状のビル壁面にゴジラが映り込む)にも、強烈なインパクトがあった。
1983年8月5日、東京・日比谷公会堂で開催されたコンサート『伊福部昭 SF特撮映画音楽の夕べ』は、LPのライナーノーツに竹内博氏が寄せた言葉「この日を一体何十年と待ったであろうか。ついに長年の夢が実現したのである」のとおり、多くの特撮ファンにとっての長年の夢=「伊福部氏の東宝怪獣・SF映画音楽をフルオーケストラで聴く」が叶った日であった。伊福部氏はコンサートのために、自身が作曲を手がけた東宝怪獣・SF映画音楽を組曲にアレンジし、「SF交響ファンタジー(第一番、第2番、第3番)」を書き下ろしたという。竹内氏は演奏(東京交響楽団/指揮:汐澤安彦)の素晴らしさを評して、「今後、最低50年間、我々伊福部ファンはどんなことがあっても悲しみに耐えて生きていくことができるだろう。このライブ盤がある限り」と綴っている。