80年代初め、『機動戦士ガンダム』のプラモデル(バンダイ)が引き金となり、全国の小学生、中学生の間でプラモデルブームが勃発した。ガンダムやザク、グフといったモビルスーツのプラモデルは各関節が可動し、普通に組んでもプレイバリューのある優れたキットだったが、やがてアニメの名シーンを再現するべく巧みな改造を施したり、リアリティを出すため塗装にこだわったり、プラ板を加工してフルスクラッチに挑戦したりと、腕に自信のある少年たちがさまざまなテクニックを磨くようになっていった。そんなガンダムプラモブームから派生した流れで、ゴジラをはじめとする東宝怪獣やウルトラ怪獣を「映像作品のイメージそのまま」に立体化するという動きも活発化していた。従来のポリパテやエポキシパテによる人形改造のほか、ファンドやフォルモといった優れた造形材料が出てきたことも、この流行を後押ししていた。
1983年12月に模型店などで売られていたこの小冊子は、バンダイ発行の『模型情報』の別冊。その内容は、人気モデラーの速水仁司氏、白井武志氏、原詠人氏たちが手がけた超リアルな東宝怪獣フィギュアや、バンダイより発売されて間もないプラモデルシリーズ「The特撮Collection」から「ゴジラ(&モスラ幼虫)」「メカゴジラ」を用いた迫力満点のディオラマで構成されている。
速水氏や白井氏が製作した怪獣は、大阪・門真市の模型店「海洋堂ホビー館」から無発泡ウレタン樹脂製のキットとして発売され、好評を博していた。いわゆる「ガレージキット」のことである。それまでの怪獣ソフビ人形は、映像作品のキャラクターを参考にしてはいるものの、「イメージの再現」にはこだわっておらず、玩具独自のアレンジやディフォルメが施されるケースが多かった。そんな状況の中で、スクリーンからそのまま飛び出てきたかのような超絶ディテールとプロポーションを備えた「怪獣ガレージキット」は、怪獣ファンの心をわしづかみにするような魅力に満ち溢れていた。やがて、このガレージキットの「リアルを極める」という考え方が、大手玩具業界の方向性をも変えていくことになるのだ。
1983年2月上旬に発売された「リアルホビー バルタン星人」は「映像作品に出てくるキャラクターのイメージを忠実に再現する」という、ガレージキットの方法論を採り入れた新感覚のホビーとして、特撮ファンから注目を集めた。『ウルトラマン』第2話「侵略者を撃て」に登場した宇宙忍者バルタン星人は今も昔も変わらず人気の高いウルトラ怪獣(宇宙人)。これまでにも幾度となくソフビ人形として商品化されてきたキャラクターだが、ここまで劇中のバルタン星人のシルエットを尊重し、リアルに造型することを目的とした商品はなかった。両手両足が針金の入った軟質素材で出来ていて、関節を曲げてある程度のポーズが付けられるほか、目に仕込まれた電球が点灯(デラックス版のみ)するなどのギミックがたまらない。また、無彩色の状態で販売され、購入者が塗装を施すことでオンリーワンのバルタン星人が完成するというプラモデル的な楽しさも特筆しておきたい。
ガメラに続く第3弾の「ウルトラマン」は、クリア素材のウルトラマンフェイスが3タイプ(A、B、C)あるほか、カラータイマーが青から赤に切り替わるなど、心憎いギミックが仕込まれていて好感が持てる。リアルホビーは超精密ディテールとプロポーションの良さが印象的な「大魔神」、そしてシリーズ最大級のボリューム造型と、目、口、背びれが発光するギミックを仕込んだ「ゴジラ」が発売された。
マルサン、ブルマァクといったメーカーが発売したウルトラ怪獣のソフビ人形は、怪獣ブームを象徴するヒット商品として人々の記憶に残っている。1960~70年代の怪獣ソフビは全体的に丸みを帯びていて、玩具ならではの愛らしいアレンジを施されており、そこがひとつの味わいでもあった。
ウルトラマンシリーズ(ウルトラQ~ウルトラマンレオ)の人気が再燃した1978年には、バンダイ(ポピー)から従来よりも小ぶりで、リアル風味のディテールが施された怪獣ソフビ「キングザウルス」が発売され、新作シリーズ『ザ★ウルトラマン』(1979年)や『ウルトラマン80』(1980年)の怪獣も商品化された。
そして月日は流れて1983年秋、これまでの怪獣ソフビのイメージを一新するかのような新シリーズが登場。それがバンダイ「ウルトラ怪獣シリーズ」である。ウルトラマンシリーズの中でも特に人気の高い『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の怪獣・宇宙人28体が、ガレージキットもかくやと思わせるリアル造型となって甦ったほか、ヒーローのウルトラマン、ウルトラセブンもこの時点での「決定版」と言いたくなるほどの完成度だった。
時期を同じくして、東宝怪獣のゴジラ(キングコング対ゴジラ仕様)が20数cmのビッグサイズソフビとして発売された。このゴジラについては、原型製作を速水仁司氏が手がけているというニュースにも驚かされた。ガレージキットを強く意識したバンダイが、現行商品の方向性を「リアル」という部分に求め。ついに人気モデラーを原型師に迎え、しかもそれをセールスポイントのひとつにしているのも、この年が特撮玩具商品の「転換期」であることを証明しているかのようだ。