嵐の松本潤が主演を務める大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)。23日に放送された第15回で井伊虎松のちの井伊直政役の板垣李光人が初登場した。一見、匂い立つという表現がふさわしいほどの美少女が男性だったというインパクト大の登場。華麗なアクションで家康の懐に飛び込んだ。演じる板垣はこれまでの出演作でも「美しい」と言われる役を見事に演じてきており、今回も「井伊谷からやってきた美少年」とキャッチコピーがつけられた直政役を任された。

  • 『どうする家康』井伊虎松(直政)役の板垣李光人

第15回で、「乱世を終わらせるのは――誰じゃ」と言って、徳川家康(松本潤)の耳に噛みつきビクッとさせた織田信長(岡田准一)。この場面は視聴者をざわつかせた。

大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の信長の家康への接し方は意味深過ぎる。筆者は台本を元に『どうする家康』のノベライズを書いているのだが、耳を噛むシーンはノベライズにはない。信長の、本音を言わず、好きな人ほどいじめるような屈折を感じさせ、かつ濃密なコミュニケーションのとり方も気になったが、第15回の終盤、というかほぼ終わりに登場した美少年のインパクトが大きかった。

ラスト1分(もない数十秒だった)で注目を浴びた人物とは、井伊虎松(板垣李光人)。のちの井伊直政で、徳川四天王(酒井忠次、本多忠勝、榊原康政、井伊直政)のひとりとなる人物だ。

家康が引間城を建て直して浜松城とし、岡崎城から拠点を移したところ、土地の住人たちは家康にいい感情を持っていない。虎松は踊り子に扮して家康の命を狙う。凄腕のはずの本多平八郎(山田裕貴)と榊原小平太(杉野遥亮)の守りもすり抜ける素早さで、しかもくるりと回転する華麗なアクションで家康の懐に飛び込む場面は鮮烈だった。

一見、匂い立つという表現がふさわしいほどの美少女が男性だったという意外性は、フィクションにはよくある手法とはいえ、板垣は見事なまでに美少女だった。板垣が虎松(直政)を演じるとあらかじめ知ってはいたけれど、わからないくらいだった。

ルッキズムの観点から美しさにばかり着目することは憚られるが、美しいものは仕方ない。そして板垣李光人は化けずとも美しい。大河ドラマ『青天を衝け』(21年)で民部公子こと徳川昭武を演じたときも、プリンス感を大いに発揮していた。極めつけは、連続ドラマ『カラフラブル ~ジェンダーレス男子に愛されています。~』(21年)。女性と間違われてしまうほどで、「かわいい」「きれい」「とにかく顔がいい」と言われる役を演じていたのだ。世間(主に女性視聴者)の需要に見事に応えることができるという点では希少な存在である。

華奢で、眉毛の上と顎のほくろが印象的。最近では、大ヒットドラマ『silent』(22年)で川口春奈演じるヒロインと同居する弟役。洋服を自分で作るような器用さとセンスのいい、こんな弟がいたらいいなあと思うような役だった。いずれにしても、ジェンダーレスというか、男性はこうあるべき、女性はこうあるべきという先入観を覆す、型にはまらない、その人の個性を最大限に活かしている、極めて現代的な俳優だと思う。

板垣は子供の頃から芸能活動をしていて、大河デビューは『花燃ゆ』(15年)。吉田松陰の子供時代を利発そうに演じた。『どうする家康』の虎松(直政)は『花燃ゆ』『青天を衝け』以上に活躍が期待される。

虎松(直政)は暴れん坊とはいえ井伊家の当主となり、家康の四天王として活躍する武将である。いずれ、四天王仲間の本多平八郎(忠勝)や榊原小平太(康政)と絡む場面も増えてくるはず。合戦で活躍するのかも気になるところである。

『どうする家康』では虎松(直政)はどう描かれるだろうか。例えば、井伊家に着目した大河ドラマ『おんな城主 直虎』(17年)での直政(菅田将暉)は利発だが、かなりキレッキレでやんちゃな少年漫画の主人公のような人物であったが、そのなかで家康(阿部サダヲ)の色小姓になるのか――と視聴者をドキドキさせるエピソードがあった。家康と直政の衆道説をうまく料理していたケースだ(脚本は森下佳子氏)。

『どうする家康』での家康はただただ瀬名(有村架純)に夢中。歴史的には、家康が浜松、瀬名が岡崎(築山)と別居した理由に不仲説もあるが、ドラマではかなり仲がいいので、家康が虎松に興味を持つことは想像できない。あくまで家臣として信頼関係は強くなっていくと思うが。

『どうする家康』の家臣団――特に、平八郎、小平太と家康の関わりは、やんちゃな少年たちのわちゃわちゃという感じ(そこがいい)。今後、虎松も加わって、家臣団パートがますますパワーアップするだろう。

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