茨城県が設置した「TX県内延伸に関する第三者委員会」は、つくばエクスプレスの延伸について「土浦方面(8.4km)」を提言した。他の候補である「茨城空港(28.5km)」「水戸(45.5km)」「筑波山(13.5km)」と比較し、土浦方面は「概算事業費が最も低く」「費用便益比(B/C)が最も高い」と評価された。

  • つくばエクスプレスの延伸は最も短距離の「土浦案」が最適とされた

つくば学園研究都市は、県庁所在地の水戸市から見て「飛び地」に感じる。つくばエクスプレスが常磐線の駅に到達すれば、茨城県として一体化できる。茨城県第2の都市でありながら「東京圏」だったつくば市が「茨城圏」にもなる。

ただし、期待は大きいが課題も多い。現状の予測では年間3億円の赤字で、4方面のうち最も高いとされた費用便益比も「0.6」にとどまる。この数字が「1」を下回れば、「お金をかけても沿線にメリットが少ない」となる。「1」を上回れば「お金をかけた以上の投資効果がある」となり、国土の発展を期待する国から補助を得られる。

仮に茨城県が独自財源で費用を出せるとしても、県民の利点が小さければ県民は納得しない。実現に向けた今後の課題は「費用便益比をいかに上げていくか」。その方法は、おもに「社会的および経済的効果を高めていく」「総事業費を下げる」の2つとなる。

■「土浦案」の高評価ポイントは

第三者委員会の評価ポイントは多岐にわたる。茨城県政策企画部交通政策課が公開した評価項目は、「東京圏からの新たな人の流れの創出」「つくばと水戸の二大都市圏の交流拡大」「自動車からの転換に向けた公共交通のサービスレベルの向上」「TX延伸を起爆剤とした本県未来の更なる飛躍」「実現可能性(事業性分析)」の5項目だった。

調査の意図として、まずは東京圏のベッドタウンとして人口増に期待し、県都である水戸市との結びつきを強める。次に自動車交通からのモーダルシフトを推進し、渋滞解消とCO2削減をめざす。調査項目にはないが、マイカー利用の低下は渋滞ピーク対策の道路工事費用削減にもつながる。そして県の発展に寄与するか否か、となる。

部門ごとに調査細目があり、全部門合計で20項目。これを「土浦案」「茨城空港案」「水戸案」「筑波山案」ごとにまとめた。なお、「土浦案」には「土浦駅案」「神立駅案」があり、「神立駅案」のほうが事業費は低い。しかし特急停車駅の土浦駅のほうが採算性で優位となった。各方面の検討結果を要約した。

●「土浦駅案」の利点

  • 東京から2時間圏のエリアが広がる。沿線の居住人口や住宅開発面積が拡大し、企業誘致にも寄与。
  • 土浦付近の霞ヶ浦へ観光客増加に期待。
  • つくば~水戸間の時短効果が大きく、県央から60分圏域、県北から90分圏域が拡大。2大都市を結んだ都市圏を形成できる。
  • 延伸を高架構造とすれば、地平のJR常磐線と比較して河川氾濫の災害リスクを回避できる。JR常磐線の輸送障害の迂回ルートになる。

●「茨城空港案」の利点

  • 空港の着陸便数の制限が緩和されると、航空便の増便によって乗客数が増える。
  • JR常磐線の高浜駅を経由することで、土浦案と同様につくば~水戸間の時短効果がある。
  • 石岡市・高浜市および空港周辺の鉄道空白地帯を解消し、発展が期待できる。
  • 土浦案と同様に東京から2時間圏のエリアが広がる。
  • 土浦案と同様に高架構造による災害リスク、東京方面の迂回ルートになる。

●「水戸案」の利点

  • 東京圏から県都・水戸までの時短効果が最も大きい。東京~水戸間でTX利用の想定は約70分。JR常磐線の普通列車より約20分短く、特急「ひたち」より10分長い。
  • 水戸~つくば間の時間短縮効果が大きい。TXの想定は約50分。高速バスより30分短い。つくばから60分圏域・90分圏域の居住面積も最も大きく増加する。2大都市を結んだ都市圏を形成できる。
  • 自動車から鉄道への転換人数が多く、減少する延べ自動車距離も長いため、CO2削減量が最も多い。災害時に東京~水戸間で常磐線の代替輸送区間も長くなる。

●「筑波山案」の利点

  • 東京から鉄道で直行できるため、観光客の増加を期待できる。
  • 予定地に住宅・商業地域が少なく、難工事も想定されないため、キロあたり建設費が安い。

欠点として、どの案も単年度収支で赤字になり、実現に向けて課題が多い。「茨城空港案」は航空機の発着制限や航空会社の意向に左右されやすい。「水戸案」はJR常磐線およびバスと競合するため、JR東日本やバス会社にマイナスの影響を与えてしまう。JR東日本からの協力が得にくいだろうし、バス会社は路線存続や経営の危機に直面する。

「筑波山案」は他の案と競合しない。むしろ別枠で検討してもいいくらいだろう。観光客増大に加え、途中駅を設置すればつくば市の発展に期待できるものの、東京~水戸間の時短や二重化に寄与しないし、筑波山の観光受け入れ可能人数を超える(オーバーツーリズム)可能性がある。ケーブルカーやロープウェイの駅に隣接するには勾配の克服やトンネルが必要となり、難工事も予想される。

■「土浦駅案」の影響

「土浦駅案」が実現した場合に何が期待できるか。まず利用者の立場で試算を見ると、東京~土浦間の所要時間は65分になる。これはJR常磐線より5分早く、特急列車より20分遅い。この結果だと、土浦駅以北と都内の移動について、常磐線からの移動は少ないだろう。5分程度早く着いても、乗換時間で相殺されてしまう。そのせいか、資料には運賃の比較がない。TX沿線の人々の対東京・対茨城県主要駅の利点が主になる。

つまり、沿線の新たな開発が期待される。試算では、秋葉原駅から2時間圏の居住人口は10%増加して13.8万人となり、住宅用地面積は356万平方メートルが増加する。茨城県内で見ると、つくば市から60分圏域の居住人口は5.4万人増加し、住宅面積は190万平方メートル増加する。つくば市から90分圏域になると、居住人口は27.5万人増加し、住宅面積は276万平方メートル増加する。

つくばエクスプレスの既存区間は、輸送人員が1日あたり8,000人増える。輸送人キロは16.3万人の増加となる。一方、バスの需要は1日あたり300人の低下。競合となる常磐線は1日あたり1,000人の減少。輸送人キロで1日あたり11.6万人キロの減少となる。ただし、延伸地域が発展し、人口が増えた場合は、土浦駅乗換えで常磐線の利用も増える。茨城県の鉄道分担率が1%増えた場合、常磐線の輸送人員は1日あたり2万5,000人増え、輸送人キロは70.5万人の増加となる。

自動車への影響として、茨城~東京間の鉄道利用者は年間で3,000人増加する。つまりそれだけバス・マイカーの利用が減る。その結果として、CO2は年間で1,500トン減少する。自動車事故が減り、その経済利益は年間1.8億円。延伸予定地の自動車利用者のうち、1日あたり5,000人が鉄道に移る。

■実現に向けて何をすべきか

ただし、冒頭でも書いたように、いまのところ実現可能性は低い。概算事業費は約1,400億円。年間3億円の赤字。費用便益比は「0.6」で、「1.0」を超えるためには試算結果よりさらに1日あたり1万2,500人の輸送量と、11万人規模の開発が必要になる。

事業費はギリギリで見積もられているだろうから、これ以上のコストダウンは望めない。むしろ今後は上昇するリスクがある。理由は国内の建設労働者不足、人件費高騰、働き方改革による労働時間の適正化、そして不安定な国際情勢が及ぼす建設資材の高騰など。人口減による税収の低下も公共事業にブレーキをかける。そうなると、「社会的および経済的効果を高めていく」方向で検討を進める必要がある。

つくばエクスプレスを運営する首都圏新都市鉄道は、沿線自治体が設立した第三セクター鉄道であり、茨城県、東京都、千葉県、そして沿線の自治体が主要株主になっている。そこで乗客を獲得するため、沿線自治体と連携し、沿線開発と居住増進を行ってきた。過去に阪急や東急が実施してきたビジネスモデルを自治体が実施した形になる。1989(平成元)年に成立した「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」(宅鉄一体化法)によって可能になった。

延伸についても同様の開発が必須だろう。輸送量と開発想定面積をさらに増やすため、二次交通の整備やパークアンドライド設備、道路の整備も計画に織り込みたい。観光誘客についても、既存の観光地だけでなく、新たなレジャー設備の整備が必要となるだろう。2023年2月8日付の本誌記事「つくばエクスプレス茨城県内延伸構想、4方面のうち土浦案が有力か」で筆者が提案したように、大型商業施設や医療機関との連携、土浦からJR常磐線水戸方面の乗入れも検討してほしい。

  • 延伸の目的地は決まった。次はルートの検討だ。これは筆者の妄想ルート(再掲)

今回の提言から落選した「茨城空港方面」の小美玉市と石岡市は、次の延伸先に茨城空港を要望する方針としている。土浦駅から石岡駅までは常磐線に乗り入れ、石岡駅から茨城空港まで旧鹿島鉄道の廃線跡を利用する案も検討中とのこと。茨城空港の鉄道アクセスは、空港の振興策としてもいずれ検討する必要がある。相乗効果も期待できそうだ。

たとえば沖縄県の那覇と名護を結ぶ鉄軌道計画は、費用便益比の低さで着工に至らない。しかしルート変更や沿線の開発余地などを含めた調査を続けた結果、少しずつ費用便益比が上がっている。そこには国と沖縄県の「なんとしてでも実現したい」という強い意志を感じる。このように、つくばエクスブレスの延伸も粘り強く調査を継続し、実現性を探ってほしい。