昨年放送されたNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でトキューサこと北条時房を演じて話題を呼び、同年公開の映画『愛なのに』で「第44回ヨコハマ映画祭」主演男優賞に輝いた俳優・瀬戸康史。現在、舞台『笑の大学』で全国を巡っている真っただ中だが、4月7日・8日には主演を務めるテレビ朝日系スペシャルドラマ『私小説-発達障がいのボクが純愛小説家になれた理由-』(前編:7日23:15~ ※一部地域で異なる、後編:8日23:00~)が放送される。発達障害を抱える夫と、寄り添い続ける妻の物語を描く本作に、瀬戸はどのように向き合い、どのような気づきがあったのか。さらに、『鎌倉殿の13人』での反響や三谷幸喜氏とのエピソードも聞いた。

  • 瀬戸康史 撮影:蔦野裕

■発達障害を抱える恋愛小説家・市川拓司をモデルにした主人公役

本作は、『いま、会いにゆきます』を生み出した恋愛小説家・市川拓司氏が、発達障害であることを公表したエッセイ『私小説』を原案にした夫婦の愛の物語。発達障害を抱え、社会生活で数々の困難に直面しながらも、傾いた個性があったからこそ強くなり、小説家になれたという市川氏と、高校時代に出会い支え続けた妻が育んできた愛のかたちを描くドラマで、市川氏をモデルにした主人公・伊佐山ジンを瀬戸、その妻・優美を上野樹里が演じる。

人一倍繊細であるがゆえ、無作為に人々から発せられる悪意に耐えきれず、突発的に心身が乱れてしまうという難しい役どころに挑んだ瀬戸だが、特に不安はなかったという。

「以前に自閉症の役を演じたことがあったというのもあるかもしれませんが、障害を抱えている方を演じることに関して不安は全くなかったです。障害にスポットを当てると大変なイメージはありますが、それよりも小説を読んだときに、市川さんが持っている優しいエネルギーのほうがすっと入ってきました」

そして、「障がい者を演じるというより、障害を個性と捉えて演じようと意識していました」と明かす。

「繊細でいろんなことを受け取ってしまうというのはすごく大変だなと、演じてみて思いました。うれしさも何倍になるけど悲しさも何倍にもなる。だから人が怒っている場所とか、悲しくなったりする場所には行かなかったり、そういうことが起こりそうだったらその場から逃げたり、大変なことだと思いますが一つの個性だと捉えました」

繊細だからこそ、多くの人の心を動かせる物語を生み出してきた市川氏。瀬戸も「市川さんにしかあのファンタジー級の実話は書けないと思います」とその才能を称える。

演じる際に大事にしたことは、突発的な心身の乱れをどのくらいの強弱で表現するか。「監督とも話し合いながら丁寧に演じましたが、丁寧にやりすぎて表現できなかったら意味がないので、思い切るところは思い切って演じました」。また、「奥さんのことが本当に大好きな人なので、そこも大事にしていました」と加えた。

市川氏は妻と子供とともに撮影現場を訪問。そこで瀬戸は初対面を果たし、自身が演じているところも見てもらえたのだという。「喜んでくれていましたが、市川さんの実話をもとにしたつらいシーンだったので、そのときのことを思い出して悲しくなったとおっしゃっていました」

そして、市川氏の印象を「今60歳ですが無邪気で子供心を忘れていなくて、楽しむことをいつでも忘れていない人だなと感じました」と述べ、「最初に感じた感動をずっと覚えているんです。例えば、奥さんと出会ったときのキュンとした気持ちを結婚して45年経った今も感じるそうで、朝起きて奥さんの顔を見るとキュンとするって。すごく素敵だなと思いました」とリスペクト。

瀬戸自身は「ずっと覚えていたいと思う気持ちもありますが、アップデートしてどんどん幸せになっていければいいかなと思います」と話した。

市川氏との共通点を尋ねると、「思ったことをちゃんと言うところ」を挙げる。「日本人はあまり『好き』とか言わない気がしますが、僕はちゃんと言います。昔からそうで、そういうところは似ているかもしれません」

■いい夫婦関係を保つコツとは? 妻役・上野樹里との共演も語る

また、市川夫婦の関係について、「奥さんが支えている部分ももちろんありますが、奥さんにとってはそれが普通なんです」と語る。

「市川さんと奥さんはご飯が毎回違う。市川さんは食べられないものが多いし、一気に普通の人の量が食べられないので、違うご飯を作るのですが、彼らにとってはそれが普通で、障害が特別ではなく普通の日常。どちらかが一方的に支える、引っ張るのではなく、お互いがお互いを必要としていて支えている夫婦関係で、それがとてもいいなと思いました」

  • 左から瀬戸康史、上野樹里=テレビ朝日提供

  • 膝枕シーンの場面写真=テレビ朝日提供

そして、市川夫婦を演じたことで「平等な関係でいることが夫婦にとって大切なこと」だと実感したと言い、「何でもやれるときにやれる人がやればいい。それが支え合うということだと思うし、いい夫婦関係を保つコツだと思います」と語った。

続けて、「お互いをリスペクトして、何してくれたら『ありがとう』とか、『これすごいじゃん』とか、そういう会話やコミュニケーションがとても大事だということも改めて感じました。僕もそれはずっと続けていて、ちゃんと思ったことは言うようにしています」と述べた。

妻役の上野樹里とは、NHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』(11年)以来、12年ぶりの共演となった。「楽しかったです。いろんなことに対してうそがつけない方で、お芝居もそうなのですが、だからこちらもさらけ出すことができて、やりやすかったです」

なかなかカットがかからず、アドリブで会話を続ける場面もあったそうで、リアルな夫婦関係が築けていたからこそ、自然なやりとりができたという。

「『これジン好きだったよね』とか、樹里さんが奥さんとして台本にないセリフを発するんですけど、それがとってもナチュラルで、セリフがなくてもずっとやれそうな気がしました」