留萌本線石狩沼田~留萌間が3月31日に最終運行日を迎えた。留萌駅では、JR北海道主催の「ありがとう留萌本線 お別れセレモニー」と題した式典が行われ、JR北海道や留萌市の関係者らが参加。留萌駅長の合図とともに4両編成の普通列車が発車した。

  • 留萌本線石狩沼田~留萌間の最終運行日にお別れセレモニーを開催。留萌駅長の合図で普通列車が発車した(筆者撮影)

留萌本線の深川~留萌間が開業したのは1910(明治43)年である。開業から長きにわたって地域輸送を支えてきたが、利用者減少にともない、2016年に留萌~増毛間が廃止となった。その後は深川~留萌間で列車を運行してきたが、2021年に利用の少ない列車を減便し、2022年に石狩沼田~留萌間の沿線自治体が同区間の廃止を了承。2023年3月31日限りで運行終了することが決まった。

3月31日の朝、筆者は札幌駅から特急「ライラック」に乗車し、深川駅へ。途中、車内から白鳥の群れを多数見かけた。

札幌~旭川間は個人的に何度も往復しているが、いつもは人がまばらな深川駅で、これだけ多くの乗客が特急列車から降りる場面を見たことがない。4番線ホームの前にはカラーコーンが設置され、係員が誘導して列を作っている。小雨模様の深川駅で、留萌本線の列車を待った。

  • 2023年2月、雪の中を走る留萌本線の普通列車(筆者撮影)

深川駅7時59分発、留萌行の普通列車に乗る。通常は1両だが、最終運行で多くの利用が見込まれることを考慮し、この日は4両編成で運行された。キハ150形2両の両側からキハ54形が挟み込むという編成で、キハ54形の両先頭車に「ありがとう留萌本線 石狩沼田~留萌」と記したヘッドマークが取り付けられている。

最終運行日とはいえ、朝早い列車だったこともあってか、車内は想像していたほど混雑していなかった。しかし、警戒のためか北海道警の警察官が添乗しており、車内はどことなく物々しい雰囲気である。発車を待つ間に周囲を観察すると、乗客はビデオカメラや大きな荷物を持った人ばかり。よく見ると航空会社とJR北海道が連携して発売している企画乗車券や、「青春18きっぷ」を携帯している人が多かった。

留萌行の普通列車は深川駅を1分遅れで発車。混雑や視界不良の影響もあり、遅れが少しずつ拡大していく。石狩沼田駅で数名が下車し、恵比島駅で多くの乗客が下車。恵比島駅で下車した人たちは、13時から行われるセレモニーに備えている様子だった。同駅は「明日萌駅」という名でNHK連続テレビ小説『すずらん』のロケ地として使用され、当時はSL列車の運行とともに話題となった。列車交換が可能な設備を持つ峠下駅でも数人が下車し、終点の留萌駅へ向かう乗客が残る。

幌糠駅のホームに目をやると、残った雪を使って留萌本線への感謝を伝える言葉が刻まれていた。路線が地元住民に愛されていたことが伝わってくる。札幌はほとんど雪が溶けたが、留萌本線の沿線はまだまだ残雪が多い。走っていくうちに霧が濃くなり、先行きが不安になったが、終点が近づくと少しずつ晴れ間が見えてきた。

  • 最終営業日を迎えた留萌駅。出入口付近の行列は立ち食いそば店の待機列(筆者撮影)

  • 駅前広場では混雑に備え、待機列を作るコーンが設けられた(筆者撮影)

終点の留萌駅には、定刻より10分ほど遅れて9時5分に到着した。改札で下車印をもらい、駅舎内に入ると、すでに多くの人で混雑していた。「みどりの窓口」や、留萌名物のひとつである立ち食いそば店に長い列ができている。1カ月ほど前に食べた美味しいごぼう天そばをもう一度味わいたかったが、スケジュールを考えると断念せざるをえなかった。

港町でもある留萌は、ニシンやカズノコの全国シェアが高い。中でもカズノコは国内シェアの半数を占める。駅舎周辺では、カモメの仲間であるウミネコが空を舞い、他では聞くことのできないさわやかな駅メロディが鳴り響いていた。

留萌駅構内では、立ち食いそば店の他に留萌観光協会も物産品を販売。駅舎の外では、地元の飲食店がアップルパイをはじめとしたスイーツ類やランチメニューを販売していた。にぎわいを見せた一方で、「これだけの人がいつも来てくれれば、汽車もなくならずに済んだのに……」という嘆きの声も耳に入る。旧羽幌線の沿線に住んでいるという男性も、「こどもの頃からよく通ってきた路線。なくなるのは寂しい」と話していた。

留萌駅でのお別れセレモニーは11時50分に開始予定だったが、12時7分に到着予定だった普通列車が遅れたため、10分遅れの12時開始となった。主催者を代表してJR北海道代表取締役社長の綿貫泰之氏が挨拶した後、来賓を代表して留萌市長の中西俊司氏が登壇した。両氏ともこどもの頃から留萌に思い出があるようで、挨拶の中でも廃止は苦渋の決断であることが強調されていた。少子化や東京一極集中の課題、地方の現状を考えずにはいられない。

  • 留萌駅構内で配布されていたポストカード(筆者撮影)

  • お別れセレモニーで挨拶するJR北海道の綿貫社長(筆者撮影)

  • 留萌本線の利用者から花束贈呈(筆者撮影)

関係者が留萌駅のホームに移動し、普通列車の到着を出迎える。留萌本線を利用していた若者たちから留萌駅長と乗務員に花束が贈呈されると、構内は拍手に包まれた。

深川方面の先頭車付近に移動すると、車内はすでに超満員となっていた。駅長が手を上げると、列車は鋭い汽笛を鳴らしながら留萌駅を発車。普通列車は30分ほど遅れて石狩沼田・深川方面へ向かっていった。

4月1日以降、石狩沼田~留萌間はバス路線が公共交通の主役となる。留萌本線が果たしてきた役割を補完するべく、地域の移動に困らないよう配慮がなされるとのことだった。深川~石狩沼田間は4月以降も列車の運行を存続するが、2026年3月に廃止されることが発表されている。ニシンと石炭で栄えた留萌周辺の公共交通が、留萌本線の廃止によってひとつの区切りを迎えた。