第8期叡王戦(主催:株式会社不二家)は、本戦トーナメント準決勝の永瀬拓矢王座―山崎隆之八段戦が3月13日(月)にシャトーアメーバ(東京都渋谷区)で行われました。対局の結果98手で勝利した永瀬王座が、菅井竜也八段の待つ挑戦者決定戦への進出を決めました。

山崎八段の独創的な序盤

振り駒で先手となった山崎八段は相掛かりの作戦を採用。飛車を低い位置に構えておいて右銀を中央に腰掛けたのが用意の構想で、持久戦に持ち込んですべての駒を活用する狙いが見て取れます。対して後手の永瀬王座が右銀を活用したのは自然な駒組みに思われましたが、これに反応してすぐに7筋の歩を突っかけたのが山崎八段の驚きの構想でした。

山崎八段の方針転換に意表を突かれた後手の永瀬王座は慎重に持ち時間を投入して対策を練ります。まずは自玉を盤面右方に囲っておいてから自然に攻めの銀桂を活用したのが参考になる指し回しで、これで永瀬王座は自陣の憂いなく攻めに専念できます。局面は、山崎八段が左辺に築いた二枚銀の壁が後手陣を押さえ込む厚みとして働くかどうかがポイントになっています。

手筋を駆使して永瀬王座が快勝

手番を握った後手の永瀬王座は、満を持して先手陣攻略に乗り出します。8筋に手裏剣の歩を放って形を乱しておいてから6筋の桂交換を迫ったのが自然ながらもっとも厳しい攻め。「攻めは飛車角銀桂」の格言通りの流れるような手順で先手陣の二枚銀の厚みを崩すことに成功して、後手の永瀬王座の優勢が明らかになりました。

反撃を目指す山崎八段は飛車を4筋に転戦して後手陣攻略を目指しますが、有利を自認する永瀬王座の対応は冷静でした。先手の飛車が成り込んできても自玉に詰めろがかからないことを読み切って先手陣に馬を作ったのが最後の決め手。持ち駒の乏しい山崎八段は攻防ともに思わしい手段がありません。

終局時刻は16時7分、最後は自玉の詰みを認めた山崎八段が駒を投じて永瀬王座の勝利が決まりました。勝った永瀬王座は決勝で挑戦権をかけて菅井竜也八段と戦います。永瀬王座と菅井八段による叡王戦挑戦者決定戦は第4期以来の顔合わせ。永瀬王座にはその第4期以来となる叡王戴冠の期待がかかります。

  • 永瀬王座が豊島将之九段と演じた伝説の「九番勝負」(第5期叡王戦)は今もファンの語り草だ(写真は第70期王座戦五番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

    永瀬王座が豊島将之九段と演じた伝説の「九番勝負」(第5期叡王戦)は今もファンの語り草だ(写真は第70期王座戦五番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)