保険業界への就職を考える時、現状や将来性が気になりますよね。「保険業界に就職しても大丈夫? 」「今後、保険業界はどのように展開していくのだろうか」とさまざまな疑問があるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、生命保険業界、損害保険業界の現状や将来性、今後の課題などについて、詳しく解説しました。

■生命保険業界、損害保険業界の現状

まず、保険業界の現状として、保険会社の仕事概要や需要、市場規模・市場動向などを見ていきましょう。

<生命保険業界の現状>

・仕事概要

生命保険会社では、「第一分野」と呼ばれる終身保険や養老保険、個人年金保険などの保険商品を作り、販売しています。

契約者から保険料を受け取り、契約内容に応じて保険金を支払う「保険業務」がメインとなりますが、このほかにも、顧客から集めた保険料を運用して資産を増やし、保険金や配当などの財源に充てる「資産運用(金融業務)」も行っています。

なお、生命保険会社では、「第三分野」に区分されるがん保険や医療保険、介護保険なども取り扱うことができます。

・需要

生命保険文化センターの「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、生命保険(個人年金保険を含む)の世帯加入率は、89.8%と高い水準です。しかし、国内での需要は飽和しつつあり、1996年をピークに、国内の生命保険市場は縮小傾向が続いています。

その理由として、専業主婦世帯が減少して共働き世帯や単身世帯が増加し、「一家の大黒柱を失うリスク」が減ったことが挙げられます。また、少子高齢化で高齢者の割合が増えていること、そして、日本人の平均寿命が延びていることから、「死亡リスク」よりも長生きした場合の「生存リスク」への意識が高まっていることも一因でしょう。

こうした時代の変化を受け、生命保険業界では、本来、生命保険が担っていた「死亡保障」のみならず、「医療保障」や「老後の保障」まで保障領域を広げています。時代のニーズに合った保険商品の開発や、多様化していく顧客一人ひとりのライフスタイルに合わせた提案が求められており、各社生き残りをかけた戦略を展開していくとみられます。

・市場規模、市場動向

日本の生命保険業界の市場規模は、約39兆円(年間の生命保険料ベース)と、世界第3位の規模を誇っています(生命保険協会「生命保険の動向(2021年度)」および日本共済協会「日本の共済事業ファクトブック2021」より)。しかし、生命保険は国内では広く行き渡り、飽和状態になりつつとある言われています。

一方、世界を見渡すと、アジアや中南米、中東・アフリカ等の新興国では保険普及率が低く、市場成長の可能性を秘めています。Swiss Re社発行の「sigma NO.3/2021」によると、保険普及率は先進国で9.9%ですが、新興市場では3.4%にとどまっているのです。

こうした状況から、近年の生命保険業界は世界へ目を向け、積極的な海外進出に乗り出しています。

<損害保険業界の現状>

・仕事概要

損害保険会社では、「第二分野」と呼ばれる火災保険や自動車保険などの保険商品を作り、販売しています。また、生命保険会社と同じく、損害保険会社でも「第三分野」の保険を取り扱うことができるため、第三分野に該当する医療保険やがん保険、介護保険なども販売しています。

損害保険は、自然災害や事故、盗難など、偶然のリスクによって生じた損害をカバーするための保険です。万が一、保険加入者が被害を受けた場合には、損害保険会社は、査定を行い保険金を支払うまでの一連の業務を行います。

また、保険業務のほか、顧客から集めた保険料を運用する業務も行います。しかし、損害保険はいわゆる「掛け捨て」であり、長期積立型の運用をあまり必要としないため、運用総額は生命保険会社よりはるかに小さな規模です。

なお、損害保険特有の業界内構造としては、「保険代理店との業務委託契約」があります。損害保険業界には、保険代理店と業務委託契約を結び、保険代理店が顧客に損害保険を販売するという流れが存在しているのです。

そのため、損害保険会社では、保険代理店の販売や経営をサポートすることも重要な業務の一つです。

・需要

損害保険にはさまざまな種類がありますが、業界全体の保険料収入で最も多くの割合を占めているのが自動車関連の保険です。自動車関連の保険(自動車保険と自賠責保険)で全体の約6割を占め、その次に多いのが火災保険で、こちらは約2割弱となっています。

そして、損害保険の中で3番目に割合の多い保険は「新種保険」と呼ばれる保険で、これは名前の通り新しい種類の保険です。新種保険には、たとえば、ガラスの破損時に支払われる「ガラス保険」などがあります。

1960年代頃にさかのぼると、損害保険の主力は火災保険であり、自動車保険は損害保険全体の13%程度しかありませんでした。その自動車保険が今では最も多くの割合を占めているように、今後、損害保険の主流となる保険商品が新種保険から誕生する可能性もあるでしょう。

時代の流れやニーズによって新しい保険商品が生み出され、保険の内容や割合も変化していくのが損害保険業界の大きな特徴の一つです。

・市場規模、市場動向

日本損害保険協会の「ファクトブック2021」によると、国内の損害保険業界の市場規模を表す正味収入保険料は、2020年度において、8兆6,927億円でした(日本損害保険協会会員会社ベース)。

2010年前後まで収益が減少傾向にあった損害保険業界ですが、近年では業績が上昇傾向にあり、今後も市場規模は拡大すると予想されています。

一方、最近では、世界的な異常気象による自然災害が相次いだことで、保険金の支払いが増えています。同様に、大型台風やコロナ禍による損害に対する支払いもかさんでいる状況です。

なお、生命保険業界と同様、損害保険業界も世界へ目を向け、アジアやBRICsを中心に、積極的な海外事業拡大を図る企業が増えています。

■生命保険業界、損害保険業界の将来性や今後の課題

<生命保険業界の将来性、今後の課題>

・将来性

日本は少子高齢化が急速に進んでおり、国内の生命保険市場が将来的に大きく拡大していくことは考えにくい状況です。こうした理由から、各生命保険会社では、海外事業へ本格的に乗り出しています。大手生保の中には、数年後をめどに、「海外事業の比率を大きく引き上げる」と掲げているところもあります。

また、先ほどもあったように、生命保険業界は、需要が頭打ちになりつつある死亡保障に代わり、医療や介護分野へさらに進出していくと考えられます。

長寿命化や少子高齢化、人口の減少といった時代の変化に目を向け、海外市場に活路を見出すこと、そして、人々のニーズに適した保険商品を充実させることが、生命保険業界の将来的な発展に欠かせないポイントとなるでしょう。

・今後の課題

大手企業を中心に海外進出が進む一方、国内を見渡すと、生命保険会社の再編や集約はほとんど進んでいない状況です。これは、多くの生命保険会社がとっている「相互会社」という企業形態が要因と言われています。相互会社とは、株主が存在せず、契約者を社員と見なす企業のことです。

今後もこのような状態が続けば、大手のように海外進出できない中小規模の生命保険会社は厳しい状況に陥ることが予想され、生命保険業界の大きな課題の一つとなっています。

こうした中、他業種の企業との連携により、新たなサービスを模索する生命保険会社も存在しています。たとえば、「住友生命保険」は通信会社の「ソフトバンク」と提携し、健康増進プログラム「Vitality」を展開しています。これは、契約者がより健康になるため、健康改善ツールなどを提供するプログラムです。

こうした契約者のニーズ、社会課題に応えるような新たな価値を生み出すことは、縮小傾向にある国内市場で各生命保険会社が生き残るための重要な課題となるでしょう。

<損害保険業界の将来性、今後の課題>

・将来性

現代は、異常気象による自然災害やコンピューター犯罪、テロ行為のほか、リコール問題や個人情報漏えいに対する賠償責任など、新たなリスクのほか、以前と比べて拡大しているリスクも多く存在しています。

時代の移り変わりとともに需要が減少していく保険もありますが、その分、ドローン保険、サイバー保険といった新しいタイプの保険が登場するのが損害保険業界です。人々の求める保険を開発することで、損害保険業界は今後も継続的に市場規模を伸ばしていくでしょう。

また、先述の通り、損害保険会社は海外事業の拡大を促進させています。保険需要の高まりが期待できるアジアのほか、アメリカやイギリス、スイス、ブラジル、インドなどの国々において、子会社や合弁会社による保険事業を行っている損害保険会社もあります。

中には、海外事業の純益が国内事業を上回っているグループもあり、今後も、海外の保険会社の買収や提携による海外事業の拡大は続くと見られています。

・今後の課題

損害保険業界の課題としては、「保険代理店のサポート強化」が挙げられるでしょう。日本の損害保険は、ホールセール(法人取引)の一部を除き、保険代理店が営業の前線に立つ役割を担っています。そのため、損害保険会社の営業は、保険代理店の営業、業務サポートがメインとなります。

乗合代理店(複数の保険会社の商品を扱う代理店)の自社シェアの向上や専業代理店(特定の保険会社の商品だけを扱う代理店)の開拓、囲い込みは営業の重要な目標です。

また、最近は、保険代理店に高度な保険知識や質の高い助言をともなう営業力が求められ、廃業や事業存続が難しい状況になる代理店が目立っています。こうしたことから、損害保険会社は保険代理店に対しての支援を強化するとともに、研修による人材育成、有力な専業代理店の組織化などに取り組む必要があります。

■保険業界の最新情報をチェックしよう

今回は、保険業界の現状や将来性、今後の課題などについて解説しました。生命保険業界、損害保険業界に共通する動きとして、特に、今後はますます海外志向が高まると考えられます。

新しい時代に対応するため、これまでにはない戦略を展開する保険会社も多くあります。保険業界への就職を検討しているなら、志望する企業の情報収集を欠かさずに行い、就職活動に生かしていきましょう。