AIの登場や社会情勢の変化などにより、将来的に、さまざまな職業がなくなると言われています。保険業界への就職を志望している人は、「保険の仕事もAIに取って代わられる」といった情報を見聞きすると、「保険業界の仕事はなくなってしまうのだろうか」と不安になりますよね。

本当に、保険業界の仕事がなくなることはあるのでしょうか。今回は、保険会社の業務についてまとめたうえで、保険業界の動向や将来性について解説しました。

■保険業界の種類

保険業界にある会社を大まかに分けると、「生命保険会社」「損害保険会社」の2つに分類できます。はじめに、生命保険会社と損害保険会社の役割や、「生命保険」「損害保険」の内容を簡単に理解しておきましょう。

<生命保険会社の役割、生命保険の内容>

生命保険とは、保険の対象となる人(被保険者)が死亡したり、高度障害や病気、ケガ、介護状態になったりしたときに、保険金や給付金が支払われる保険です。生命保険会社は、そうした生命保険を取り扱う会社であり、死亡や病気など人生で起こりうるリスクに備えるための保険商品を作り、個人や法人などの顧客に販売しています。

生命保険には、「死亡保険」「死亡保障付き生存保険」「介護保険」「医療・疾病保険」などの種類があります。また、この中でも死亡保険や死亡保障付き生存保険は「第1分野の保険」と呼ばれており、生命保険会社だけが取り扱える保険です。第1分野の保険には、死亡保険や定期保険などの種類があります。

一方、最近では、少子高齢化による介護需要や長生きリスクに対応するものとして、「介護保険」や「医療保険」も多く登場しています。「介護保険」や「医療保険」などは「第3分野の保険」と呼ばれ、生命保険会社でも損害保険会社でも取り扱いが可能です。第3分野の保険には、他にも「傷害保険」や「がん保険」などがあります。

生命保険は、国内では幅広い人に行き渡り、多くの会社が海外市場への展開を積極的に進めています。そのため、「海外営業に興味がある」という人にとって、生命保険会社は魅力的な就職先候補の一つとなるのではないでしょうか。

<損害保険会社の役割、損害保険の内容>

損害保険とは、偶然の事故や災害などで発生した損害をカバーするための保険です。損害保険は、一定の保険金が支払われる生命保険と異なり、損害額によって保険金額が変わる「実損払い方式」がメインとなっています。

損害保険には、自動車保険(任意保険・自賠責保険)、火災保険(地震保険含む)、賠償責任保険、旅行保険などの種類があります。これらは「第2分野の保険」と呼ばれ、損害保険会社のみが取り扱い可能です。

こうした損害保険を販売するのが損害保険会社ですが、個人だけではなく、法人向けに特定の分野の保険を販売することもあります。たとえば、「貨物・運送の保険」などです。

損害保険業界では、近年多くなった災害に対応するものなど、さまざまなリスクに応じて新たな保険が登場しています。なお、損害保険会社も、生命保険会社と同様に第3分野の保険を取り扱うことができます。

■保険会社の業務内容

次に、保険会社の業務内容を確認してみましょう。ここでは、保険会社の主な業務として「営業」「事務」「商品の開発企画」「資産運用」「アクチュアリー」の5つの業種の概要をご紹介します。

<営業>

保険会社の営業職は、「個人営業」「法人営業」「代理店営業」の3つに大別できます。個人営業は、個人の顧客のライフプランをヒアリングし、その顧客に適した保険商品を提案・販売する仕事です。一方、法人営業は法人が顧客となり、企業の団体保険や企業年金など、福利厚生に関わる分野の保険を提案・販売します。

そして、代理店営業は、顧客に保険を営業する「代理店」を相手にする営業職です。代理店に対して保険の営業をしたり、自社の保険の商品知識や保険の売り方を提供したりします。

同じ営業職でも相手が違えば求められる能力も異なりますので、営業職の中でもどの分野を選ぶのかあらかじめ考えておく必要があるでしょう。

<事務>

保険会社の事務職は、保険商品の契約確認、書類作成、契約後のアフターフォローなど、多岐にわたる業務を行います。保険料の領収、入金処理などお金を扱う業務も多く、責任感の問われる仕事です。

大手企業ともなれば業務量が膨大になることもありますし、保険契約に関わるさまざまな知識を身に付けなければなりません。そのため、事務処理能力やコミュニケーション能力のほか、学び続ける意欲も求められる職種です。

<商品の開発企画>

保険会社では、既存の保険を販売するだけでなく、時代やニーズに合った新しい保険商品を作ることも大切です。既存商品については、過去の統計などをもとに、保険料が適切かどうか検証し、保険の改良を行っています。

保険会社における開発企画は、社会情勢や市場のトレンド、需要などの要素を考慮し、新たな保険商品を生み出すことが仕事です。常にアンテナを張り、将来的なニーズを察知する能力が求められます。

<資産運用>

保険会社では、得られた利益の一部を長期、安定的に運用しています。保険とは、保険事故が発生した時に自己資産から保険金を支払う仕組みですが、「原資がなくなって保険金が支払えない」という事態を避けるため、資産運用をして備えておくのです。

この資産運用により、保険会社の運営に関わる費用などが賄われていますので、資産運用部門は非常に重要な業務と言えるでしょう。顧客からは見えにくいですが、保険会社を支える欠かせない仕事の一つです。

<アクチュアリー>

アクチュアリーは、保険会社の資産運用のリスクや保険のリスクなど、保険が性質上抱えるリスクに関する統計をとる仕事です。確率や統計の手法を用いてさまざまなリスクを数字化し、商品開発部門、資産運用部門とも連携しながら、業務の改善を行っていきます。

アクチュアリーは、将来の不確実な事象の評価を行う数理業務のプロフェッショナルであり、人数も少なく難関な専門職です。保険会社では、今後ますます社会の変化に応じた新しい保険商品が増えていくと考えられており、さまざまなリスクを検討する必要があります。そのため、アクチュアリーはこれからさらに重要性の増す職種となるでしょう。

■保険業界の動向、将来性

保険業界は、「国内では飽和状態になりつつある」といった情報を見聞きしたことがあるかもしれません。しかし、だからといって保険業界や保険の仕事がなくなるわけではなく、今後も新たな道を開拓する余地のある業界です。

次に、保険業界の動向や将来性について見ていきましょう。保険業界全体のほか、生命保険業界、損害保険業界についてもそれぞれまとめました。

<保険業界全体の動向、将来性>

・新興国を中心とした海外市場へ積極的に進出

国内市場が成熟したことにより、保険業界は、今後は海外事業基盤の拡大を積極的に進めていくと考えられます。Swiss Re社発行の「sigma No.3/2021」によると、先進国の保険普及率(保険料合計の対GDP比)は平均9.9%です。それに対し、アジアや中南米、中東・アフリカ等の新興国市場の普及率は平均3.4%にとどまり、今後、市場が大きく成長する可能性を秘めています。

<生命保険業界の動向、将来性>

・AIの台頭による人員の削減

AIの台頭により、保険業界では、「業務員や人員の数を削減する」と宣言している企業もあります。これにより、カスタマーサポートなどAIが担える業務は、今後人員が減っていく可能性が高いでしょう。

ただし、保険会社の全ての仕事がAIに取って代わられるわけではありません。AIが不得意とする「非論理的な思考」を活用する業務には、やはり人間しか対応できない部分が多く含まれているからです。

たとえば、顧客の表情やちょっとした言葉尻から顧客自身も気付いていないリスクや不安を読み取ることは、営業職の大事な仕事の一つです。また、商品開発にも人の力が欠かせません。これからの業務は今後も人が担うべき仕事として、そう簡単にニーズはなくならないと考えられます。

・医療・介護分野へさらに進出

少子高齢化の進む日本では、将来的に人口が減少し、さらに、高齢者の割合がこれまで以上に高くなります。国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来人口推計によると、日本国内の総人口は2053年には1億人を下回ると予想されています。

一方、65歳以上の高齢者の割合は、2015年に26%だったものが、2065年には38%まで増加するとの予想です。

こうした背景により、長生きによる経済的なリスクや生活費の確保に対応するため、新たなニーズが増えると考えられます。医療・介護保険にも、そうしたニーズに応えるような新たな商品が登場しており、生命保険業界は今後もこの分野へさらに進出していくでしょう。

<損害保険業界の動向、将来性>

・新種保険の登場

損害保険業界は、2010年前後までは収益が減少傾向にありました。しかし近年では、業績は上昇傾向にあり、今後も収益は拡大することが予想されています。

また、損害保険にはさまざまな種類がありますが、業界全体の保険料収入の約60%を自動車関係の保険(自動車保険+自動車損害賠償責任保険)が占めています。

次いで、火災保険が約17%と続きますが、その次に多いのは「新種保険」で約16%の割合です(一般社団法人日本損害保険協会「種目別統計表(2021年4月~2022年3月)」)。

新種保険とは、その名の通り新しい種類の保険のことで、建設工事中に起こった事故に対応する「建設事故保険」やガラス破損時に支払われる「ガラス保険」など新しい保険の総称です。

このように、損害保険業界では、時代の流れとともに新しい種類の保険や新たなリスクに対応する保険が生まれるという特徴があります。また、ニーズの変化によって業界内の保険の比率も変わっていくでしょう。

・地震保険のニーズの高まり

地震保険は、損害保険の中で近年注目を集める保険の一つです。地震保険は火災保険に含まれる保険で、通常の火災保険では補償されない地震・噴火・津波を原因とする火災・損壊・埋没・流出による損害を補償する保険のことです。

1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災など大規模地震を経験した日本では、火災保険の中で地震保険を適用させる人が増えており、2021年度では、火災保険を契約する人のうち約69%が地震保険にも加入しています(損害保険料率算出機構「地震保険 都道府県別付帯率の推移」)。

損害保険業界では、地震保険のように、リスクの高まりとともに人々の注目を集める保険が急成長することもあるのです。

■新規開拓や新たなニーズの可能性も多い保険業界

今回は、生命保険会社や損害保険会社の業務を解説するとともに、保険業界の動向や将来性について解説しました。保険業界の仕事は、特にAIの影響を心配する人が多いですが、一方で、新規開拓の可能性も大きく、保険に対するさまざまなニーズも存在しています。

客観的な視点で保険業界の見通しを判断し、就職活動にもぜひ役立ててください。