「『NISA』と『つみたてNISA』は、2024年から制度変更されます。うまく活用して、預金から投資へ舵を切っていくことが大事」と話すのは、ファイナンシャル・プランナーとして、5000名以上のクライアントに運用指南を行ってきた杉原隆さん。

新「NISA」の仕組み、「運用益」「資産運用」について、杉原氏がわかりやすく解説します。

■2024年の意味

毎年、この時期に騒がしくなるのが、翌年の「税制大綱(案)」。今年の目玉は大きく2つです。ひとつは「NISA」、「つみたてNISA」の制度変更。もうひとつは「相続税・贈与税大改革」です。 今回は「NISA」の改革が、なぜ必要なのか、どのような制度変更になるのかをお伝えします。

2024年は、日本の人口動態で重要な年になります。団塊の世代(1947年~49年生まれ)の方々がすべて75歳に到達します。医療費、介護費が必要となり、国の社会保障費も急激に増加することが予想されます。

今後20年間の社会保障費負担は、国家財政を弱体化させます。その後の世代の生活(医療費、介護費用、年金等など)を国が間違いなく保障します」と大きな声で言えなくなってきました。

「公助、共助、自助」と菅前総理大臣は国民に訴えましたが、公助の弱体化、働き方改革での「共助」の制度形骸化ゆえに、「自助」を強く求めざるを得なくなってきました。国は、超低金利の銀行預金から、多くの選択肢のある「投資」を後押ししています。「将来の公的年金の不足分、医療費や介護費用の相応分は、ご自身で作っていってください」ということです。

■非課税の恩恵

その上で「NISA」は、どのような制度変更を予定しているのかを説明します。
大きな変更点は2つです。

1.非課税となる投資枠の増額
「NISA」は年間120万円から倍増の240万円に、「つみたてNISA」は40万円から3倍の120万円に増額予定です。

2.非課税投資ができる期限撤廃
「NISA」は2023年12月まで、「つみたてNISA」は2042年12月までとなっている現行制度から「無期限」となる予定です。 この2つの変更により、投資金額の上乗せや、期間を気にすることなく人それぞれ無理のない投資金額や期間で「非課税」の恩恵を受けることができるようになります。

投資金額の年間非課税枠の範囲内で「NISA」や「つみたてNISA」を活用した場合、20年後、30年後にどのくらいの資産になっているかを試算してみました。金額は少し大きくなりますが、わかりやすい数字で試算しましたので、どのくらい増えていくのかと、あくまでも参考として見ていただければと思います。

投資金額を半分にすれば将来の資産もおおよそ半分に、1/3にすれば、溜まっていく資産も1/3になりますので目安にしてください。

たとえば、「つみたてNISA」で年間120万円を15年間で投資非課税枠の1800万円に到達し、その後は塩漬けにするとします。1年目から3%で運用できたとすると20年後には2660万円に、30年後には3580万円になります。

また、一時金で預けたお金を7.2%で運用すると10年で2倍になります。もし、7.2%で1年目から毎年120万円を投資した場合20年後に4640万円に、30年後には9310万円になります。感じていただいたように投資の金額だけでなく、運用率によって差が出てきます。

毎年投資に回せる金額も大切ですが「運用率と運用期間」も同様に大切です。世の中には多くの金融商品がありますが、相性の良い、そして少しでも将来手元に残るお金を増やせるよう、カラダとアタマを使いながら、オカネにも働いてもらいましょう。

■必要資金のゴール設定

一方で、一生涯で行える非課税枠の利用制限は無制限には至らず、合計1800万円という上限が残りそうです。 ご自身の頭にある「引退」前後で幾らの資産があれば、人生100年時代を生き抜けるのか、QOL(質の高い生活)がおくれるのかを大まかで良いので考え、必要資金を算出してください。

そして、現在手持ちの資産とのGAPを埋めていく時間(年数)がどれくらいあるのかを「見える化」することが大切であり、それは資産の形成や運用の一歩目を踏み出すモチベーションになるはずです。

今回の制度変更ですが、いくつか見落としがちな点もあります。

運用資金の引き出し
運用益は非課税ですが、引き出す際に「手数料」が生じます。運用している投資商品を売却して運用益を引き出しますので、その際にコストが発生することが要因です。

相続が発生した際の資産種類
銀行預金や株式、所有する不動産同様に「相続人の共有財産」となります。遺産分割協議を経て、しかるべき方へ資産移転となります。親兄弟姉妹といえども、この遺産分割協議が何の問題もなく完了することはまれです。

相続発生前に認知症になってしまった際の取り扱い
若い方には実感がないと思いますが、認知症になってしまうと契約行為ができなくなってしまいます。成年後見人を立てても資産の維持管理が職責なので、ご家族の希望で資産を減らして介護費用に充てたり、法定相続人で生前に分割贈与したりは非常に困難になり、天国に召されるまで「資産凍結」となってしまうことにもなりかねません。

ご家族の状況、資産形成や運用に対する考え方は十人十色です。2024年1月から制度変更になるであろう「NISA」「つみたてNISA」を含め、これからは預金から投資へ舵を切っていくことをおすすめします。

文/杉原隆