「シングルマザー、シングルファザーでも大切な子どもたちと幸せに暮らすことはできる。そのためには、将来の準備と見えないリスクに備えること」と話すのは、ファイナンシャル・プランナーとして、5000名以上のクライアントに運用指南を行ってきた杉原隆さん。

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養育費、遺族年金の仕組みとともに「計画的な対策」について、杉原氏がわかりやすく解説します。

■シングルマザーの負担とは

シングルマザーやシングルファザー(以下:一人親)」の生活にどんなイメージを持ちますか?

早朝、慌ただしく準備をしたら子どもを保育園に預け、その足で職場に向かい働いて、延長保育の時間ギリギリの迎えの後は、食事、洗濯、お風呂、片づけ、一日はあっという間に過ぎていく…。 一方、経済面での困窮なく、ホームヘルパーをうまく利用し、子どもの世話も生活も不自由がない。
どちらも”一人親”の一日です。

金銭面の事情はどうでしょう。子どもと生活していくうえで、一人親の経済基盤は、自身の収入に加えて、以下3つのパターンがあります。

1.元配偶者からの養育費がある。
2.元配偶者からの養育費がない。
3.遺族年金を受給している。

経済的に比較的豊かなのは「配偶者が厚生年金に加入していて(自営業者の場合は異なる)」他界され、遺族年金に加えて、民間の生命保険でまとまったお金や生活資金を残した場合です。一方で、厳しい生活を強いられるのは「元配偶者からの養育費がない」場合です。

肉体的、経済的、心理的負担は、両親、肉親からのサポート、職種、職場、自治体の状況で違っています。とはいえ皆さんに共通していることがあります。どんな環境であれ、上記の負担は、子どもの年齢によって異なっていくということです。

たとえば、
A)子どもが保育園や幼稚園に通っている間は、働く時間は制限され、経済的な弱小化は免れません。
B)子どもが小学校入学から中学校卒業までの期間は、少し手が離れます。働く時間は回復し、金銭的にも少し楽になります。
C)子どもが高校生や大学生になると、子ども自身がアルバイトを始められ、自立する準備を始めます。とはいえ、学費負担は、大学への進学準備から負担は急激に増えていきます(最大の支出は大学入学前の1年間と大学の4年間。浪人や留年、留学など)。

■養育費の相場は

自身の収入と、元配偶者の収入、子どもの年齢により養育費の相場は異なります。過去の家庭裁判所の判例(東京・大阪)に基づいた目安をお伝えします。
1.子ども1人、収入300万円、元配偶者の収入600万円⇒(0~14歳)4~6万円/月、(15歳以上)6~8万円/月
2.子ども2人、収入300万円、元配偶者の収入600万円⇒(0~14歳)6~8万円/月、(15歳以上)8~10万円/月
3.子ども1人、収入240万円、元配偶者の収入1000万円⇒(0~14歳)10~12万円/月、(15歳以上)12~14万円/月
4.子ども2人、収入240万円、元配偶者の収入1000万円⇒(0~14歳)14~16万円/月、(15歳以上)16~18万円/月

■遺族年金の仕組み

配偶者が加入していた「年金制度」により年金額は異なります。遺族年金も他の年金(老齢年金、障害年金)同様「二階建て」になります。国民年金に加入している方が亡くなった場合は「遺族基礎年金」、厚生年金に加入されていた場合は遺族基礎年金に加え「遺族厚生年金」を18歳年度末まで受給できます。

たとえば、子ども1人と2人の場合、
遺族基礎年金
子ども1人の場合:基本年金額78万900円+22万4700円(子ども分)
子ども2人の場合:基本年金額78万900円+44万9400円(子ども2人分)

遺族厚生年金…他界された時の平均月収により異なる(30万円の例)
子ども2人の場合:約37万円/年

(注)他界された方の所得や、遺された配偶者の年齢により金額等の条件は異なるので、自身の状況に応じた金額の確認が必要です。

■最大の支出は大学生時

上記を踏まえて経済面での対策を考えてみましょう。子どもの教育費で最大の支出はやはり大学前の1年間と大学の4年間です。17歳から現在へ逆算し、残された期間で効果的に準備できるよう工夫を凝らすことが大切です。

まず、預金、金利、保険、税金と金融リテラシーを上げることで、「労働で得られる何百時間の対価」以上のものを手にできます。労働所得と並行して、「不労所得」を得る術を少しだけでも身に着けてください。たとえば、投資で、毎月1万円を年利4%、複利で17年間コツコツ積み立てると、元本204万円に利息が91万円ついて295万円になります。

銀行の普通預金と比べてみましょう。元本204万円に対し利息は177円(年利0.001%で計算)ですので、ほぼ元本のままということになります。毎月2万円にしたら元本、利息共に2倍になりますから、必要資金と残された年数を考慮して計画的な準備を始めてください。

税の仕組みを知ることも大切です。銀行預金や株式、投資信託で得た利益は「金融所得」、源泉分離課税で20.315%の税金を納めますが、生命保険で得た利益は「一時所得」となり、「積み立てた保険料+50万円までは非課税」です。

この金額を「超えた部分も1/2課税」ですので大変優遇されていますが、このことをご存じの方はいまだ多くはありません。

医療保険やがん保険の給付金や保険金、損害保険の損害賠償金などはすべて非課税です(所得税基本通達9-21)。費用対効果を考え、お財布に無理のない金額で早めに手にしておくことが良いでしょう。

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■「見えないリスク」を知る

多くの方は「健康で働ける」という前提で子どもとの生活設計を立てます。しかし、「まさか」のときの準備も欠かせません。たとえば、「がんに罹患して医療費が嵩み、労働時間も減少し収入も減ってしまう」。対策としては、「無条件」で手にできる健康なうちに、医療保険やがん保険を購入することが肝要です。

ご自身の老後の生活資金を準備することも大事です。生活資金や子どもの教育資金を準備している時から、金額は小さくても「時間」と「複利」を活用した資産形成、資産運用を行いましょう。たとえば、将来のインフレにも備えて、「銀行で米ドル積み立て預金」とか、「保険会社で変額年金」等を購入しておきましょう。

すぐにすべての「見えないリスク」に備えることは不可能ですが、優先順位をつけて、いつまでに幾つとゴールを決めてください。

上記の対策を一つずつ実践し、経済的な安心の度合いを高めていきながら、最愛のお子さまとともに幸せな時間を過ごしてほしいと思います。

文/杉原隆