大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)のラストがどうなるかネットで予想が盛り上がるなか、三谷幸喜氏がこれまでミステリーの女王アガサ・クリスティ原作もののドラマをいくつか手掛けてきたこともあるうえ、自身のコラムでアガサ・クリスティのある作品を参考にしたと書いていたので、あの作品だろうか、この作品だろうかと想像が広がり続けている。『オリエント急行殺人事件』か『そして誰もいなくなった』か『アクロイド殺し』か『死との約束』か『春にして君を離れ』か――等々。残り2回を前に、どの作品がラストに近そうか考えてみたい。

  • 『鎌倉殿の13人』北条義時役の小栗旬

孤島に集められた10人がひとりずつ消えていく『そして誰もいなくなった』は、第46回「将軍になった女」(脚本:三谷幸喜 演出:末永創)で政子(小池栄子)と実衣(宮澤エマ)が「みんないなくなっちゃった」と抱き合って嘆いていたことから、セリフとして早くも回収されたと考えていいだろう。つまり『そして誰もいなくなった』ラストはないと考えていいのではないだろうか。これでラスト候補がひとつ消えた、ということにしておこう。

『鎌倉殿』は10人以上いなくなっている。合掌。それにしても、実朝(柿澤勇人)亡きあと、4代目の鎌倉殿に自分の子・時元(森優作)をと野心を燃やしたため、義時(小栗旬)に厳罰を科せられる実衣は、これまでさんざん義時の怖さを見てきたにもかかわらず、彼を出し抜こうとしたのはなぜなのか。人間とは目先の欲望に突き動かされてしまうのか。そっちのほうがミステリーである。

次に『オリエント急行殺人事件』はどうか。三谷氏が日本を舞台に置き換えてテレビドラマの脚本を書いたこともある作品。雪で止まったオリエント急行のなかで起きた殺人事件、死体には12個の刺し傷があった……。『そして誰もいなくなった』は「10」、こちらは「12」。有名な作品なのでオチを書いてもいいのかもしれないが一応伏せる。容疑者が12人ということで、『鎌倉殿の13人』に数字が近い。『そして誰もいなくなった』よりも近い。

北条家の公式記録として残る『吾妻鏡』に書かれている伊賀の方(『鎌倉殿』ではのえ〈菊地凛子〉にあたる)、義時にすべての汚れ仕事を任せていた政子(小池栄子)、自分あるいは三浦家のことしか考えていないような三浦義村(山本耕史)か、三谷氏のオリジナル人物である殺し屋・トウ(山本千尋)か、まだほかにも義時を殺しそうな人物が12人浮かんできたら『オリエント急行殺人事件』説あり。まあ12人を挙げることは難しくはないだろう。それだけ義時は多方面に恨みを買っているはずだ。本当になんで義時はこんなに次々と人を殺めてしまったのだろう。これもまたミステリー。

『アクロイド殺し』はとある村で未亡人が亡くなり、自殺か他殺か、事件の真相を追う流れを「わたし」なる人物の手記スタイルで描いたもの。こちらも三谷氏は『黒井戸殺し』としてドラマ脚本を書いている。この手記を『吾妻鏡』と捉えてみることもできるかもしれない。そして、登場人物のなかに姉弟がいるので、政子と義時になぞらえることも可能であろう。

そして、ホテルに集まったあるお金持ちの一家の母の死にまつわるミステリー『死との約束』は三谷氏が一番好きな作品だとか。これもドラマ版の脚本を書いている。山本耕史、シルビア・グラブ、市原隼人、堀田真由、阿南健治、鈴木京香と最も『鎌倉殿』キャストが集結しているように感じる作品でもある。お金持ちの一家の母がなかなかクセもので家族全員に動機があって……。これまた北条家に重ねることも可能であろう。

最後に、『春にして君を離れ』は女性が主人公。3人の子供の母が、旧友と再会したことで人生を考えはじめるクリスティ作品の中では異色の心理ミステリー風味の物語である。3人の子供を持つ母が政子と重なっている(政子の子は4人)。また、この『春にして君を離れ』のタイトルはシェイクスピアの詩からとられている。『鎌倉殿』はシェイクスピア作品を思わせる部分もあり、実朝(柿澤勇人)が得意だった短歌に秘められた謎が……なんてこともありそうななさそうな。

あと2回、政子がまつりごとに目覚め、自分なりに行動しようとしたとき、義時はどうなるのか。筆者はまったく予想外の人物が義時を狙うことを想像し、巴御前(秋元才加)が和田義盛(横田栄司)の敵をとりに再登場することを期待しているのだが、この話をしても誰ひとりとして相手にしてくれない。最初から賛同者は誰もいなかった。

確実に言えることは、三谷幸喜氏は元ネタをものすごく面白く料理する才人であるということである。

(C)NHK