フォルクスワーゲン(VW)が電気自動車(EV)の「ID.4」を日本で発売した。同社がEV専用モデルを日本で発売するのは今回が初めてだ。すでに日本ではたくさんのEVが発売済みだが、なぜVWほどのメーカーがEVを今まで導入していなかったのか。ちょっと遅いような気がしたので、VWに聞いてみた。

  • フォルクスワーゲンのEV「ID.4」

    ついに日本上陸! フォルクスワーゲンのEV「ID.4」

日本勢と近い価格帯で勝負

VWは車名の最初に「ID.」が付くEVのシリーズを展開している。コンパクトカーの「ID.3」、SUVの「ID.4」、クーペの「ID.5」、ワーゲンバスの現代版「ID.BUZZ」といった具合だ。この中でVWが「ワールドカー」と位置付けるのが、日本上陸第1号となったID.4である。

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    「ID.4」のボディサイズは全長4,585mm、全幅1,850mm、全高1,640mm、ホイールベース2,770mm。乗車定員は5人、最小回転半径は5.4m

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    「ID.4」はリアにモーターを積みリアタイヤを駆動する「RR」のクルマだ

日本導入に合わせてVWが用意した「ローンチエディション」は「ライト」と「プロ」の2グレード展開。ライトは499.9万円、プロは636.5万円だ。各グレードのスペックは下記の通り。

ライト プロ
フル充電での走行距離(WLTCモード) 388km 561km
バッテリーの総電力量 52kWh 77kWh
車両重量 1,950kg 2,140kg
最高主力と最大トルク 170ps、310Nm 204ps、310Nm
タイヤサイズ 235/60 R18 前:235/50 R20、後:255/45 R20

少しだけ運転してみたのだが、さすがはEV、アクセルペダルを踏んだ時の加速はスムーズでしっかりと速い。とはいえ、ぐっと踏み込んでもテスラのように瞬間移動しているような強烈な加速感にはならない。エンジンを積んだクルマから乗り換えても、動きに違和感を覚えることは少なそうな仕上がりだった。

メーターは小さくて、シフトセレクトはメーターの右側に付いている……なんとも表現しにくい形状のパーツを前後にひねって行う。普通のクルマであれば、乗ったらキーを差し込んで回すか、エンジンをかけるためのボタンを押すかするものだが、ID.4は乗り込んでブレーキペダルを踏むと走り出す準備が完了。そのままシフトを「D」に入れれば出発できる。

  • フォルクスワーゲンのEV「ID.4」
  • フォルクスワーゲンのEV「ID.4」
  • インテリアはブラウンのレザレット(人造皮革)がアクセント。「ID.4」はVWのSUV「ティグアン」と近しいボディサイズだが、全長はティグアン比65mm、ホイールベースは同95mmも長いので、室内がより広々としている。荷室容量は通常時543L、リアシートを倒すと1,575Lでクラス最大級とのこと

  • フォルクスワーゲンのEV「ID.4」
  • フォルクスワーゲンのEV「ID.4」
  • 小さなメーターディスプレイ。右側にはドライブモードセレクター(シフトノブに代わる新装備)が付いている

  • フォルクスワーゲンのEV「ID.4」

    ペダルには「再生」と「一時停止」のマークが

  • フォルクスワーゲンのEV「ID.4」

    VWジャパンでは158の販売店に急速充電器を設置する方針。さらにはアウディ、ポルシェの「プレミアム チャージング アライアンス」に加盟して、急速充電器の相互利用も可能とする計画だ。VWのお店は全国津々浦々にあるはずだから、ID.4は長距離の旅行にも使いやすいのでは

サイズはちょうどいいし、価格は意外なほど安いし、プロならフル充電で500kmくらいは走りそうだし、先進的な雰囲気も感じられるID.4はけっこうよさそうなEVなのだが、いかんせん日本上陸がちょっと遅かったような気もする。日産自動車「アリア」やテスラ「モデルY」はもちろん、BYDの「ATTO3」やヒョンデの「IONIQ5」まですでに上陸している日本市場において、明らかにVW製EVは後発だ。なぜ今になったのか。これからでもシェアを獲得する自信はあるのか。フォルクスワーゲン ジャパン ブランドディレクターのアンドレア・カルカーニさんの回答はこうだ。

「ID.4の日本導入には今が『ライトタイミング』でした。日本市場でEVはニッチな存在でしたが、ここ数カ月、EVに興味を持つお客様が増えているのを日々実感しています。ボディタイプは最も需要のあるSUVですし、日本政府もEV購入に対する補助金の延長を決めたので、ちょうどいいタイミングだと思います」

「ID.4は欧州、米国、中国ですでに発売していますが、全世界で約25万台が売れていて、購入したユーザーが実際に乗っているということは、日本の皆さまにとってグッドニュースなのではないでしょうか。この事実がクルマの信頼性の高さを証明しています」

生産体制が整わないなどの理由で導入が遅れたのではなく、日本のEV市場が拡大することに確信が持てたから、このタイミングでID.4を導入した。そんなイメージだ。EV市場の見通しについてカルカーニさんは、「確かに日本では、登録台数に占めるEVのシェアが1.2%とまだまだ低いですが、今後は市場拡大が加速すると見ています。クルマの供給不足という問題があるので、実際に納車された台数よりも需要はもっとあると思います」と話していた。

ID.4は価格設定も絶妙で、競争力がありそうだ。「今回は初めて、国産メーカーと同じ土俵で勝負できる価格設定ができました。これまでであれば、VWは国産車に比べると25%くらい価格が高くなっていたのですが、ID.4は近しい価格帯です。それに残価設定ローンもあるので、月額料金も抑制できます」とカルカーニさんは自信ありげな様子だった。