20日に開幕を迎える「FIFA ワールドカップ カタール 2022」全64試合を無料生中継するABEMA。開局6年半が経ち、先日大きな盛り上がりを見せた『THE MATCH 2022』といった格闘技に、米メジャーリーグ、大相撲など、スポーツ中継の実績を重ねてきたが、ここまで大きな大会を手がけるのは初めて経験だ。

そこでタッグを組むことになったのが、ともに中継権を獲得した関係会社のテレビ朝日。ただ、開局65年の中で数々の大型スポーツ大会を手がけてきたテレ朝にとっても、前例のない挑戦に様々な苦労があるようだ。ABEMAスポーツエンタメ局長の塚本泰隆氏と、テレビ朝日スポーツ局プロデューサーの長畑洋太氏に話を聞いた――。

  • ABEMA FIFAワールドカップ2022プロジェクト・ゼネラルマネージャー(GM)の本田圭佑氏 (C)AbemaTV, Inc

    ABEMA FIFAワールドカップ2022プロジェクト・ゼネラルマネージャー(GM)の本田圭佑氏 (C)AbemaTV, Inc

■テレ朝放送の試合もABEMA独自の中継番組を制作

今回のタッグが実現した経緯について、塚本氏は「全64試合無料生中継をやることが決まったものの、制作・技術体制、現地での展開、海外大会の配信の経験について、基本的に我々は素人なので、テレビ朝日のみなさんの経験やお力をお貸しいただくという形で連携することになりました」と説明。

単に64試合の国際映像を流すだけでなく、全試合に独自の実況と解説を付け、視聴者が見たいカメラを選択できる「マルチアングル映像」を導入し、試合前後には東京のスタジオから見どころ/ハイライト番組を編成する。その狙いについて聞くと、「全64試合を中継するからには、ワールドカップ全体を楽しんでもらうことが大切だと思っていまして、1つずつの国の紹介や今後の動向なども、きちんと解説するということをやっていきます」(塚本氏)と明かした。

全試合中継となると、同時間帯で複数の試合が行われるケースもあるが、例えば日本がいるグループEで同時刻にキックオフとなる12月2日午前4時からの「日本×スペイン」「コスタリカ×ドイツ」の場合は、1つのスタジオでグループEの見どころ番組を編成し、試合が始まると2チャンネルに分かれて中継。終了後はまた1つのスタジオに戻って試合の見どころやハイライトを交えた番組という流れになる。

11月27日の「日本×コスタリカ」など、テレ朝地上波でも放送する試合については、映像や実況・解説を流用せず、ABEMA独自の中継番組を制作。「“テレビで見られないからネットで見る”という形ではなく、今回はマルチアングルやコメント機能、試合データなど、いろんな角度からサッカーに触れて楽しんでもらうことを想定しているので、テレビの中継とプログラム自体が一緒だったら、世の中に対してABEMAの価値を提示できない。だからこそ、64試合をオリジナルでしっかり作ることによって、ユーザーの熱狂やワールドカップというコンテンツを扱う価値が出てくると考えています」と強調する。

■地上波でも「真似できるところは真似したい」

いわば、すべての試合に地上波の日本戦レベルの労力をかける必要がある今回の取り組み。それを1日何試合も毎日作っていくというのは、百戦錬磨のテレ朝スポーツスタッフとしても、相当カロリーの高い仕事だ。

このオーダーを受け、長畑氏は「(テレ朝も中継がある)10試合分くらいは楽できるんじゃないかと思ったんですけど(笑)」と冗談めかしながら、「放送媒体が変われば、やっぱり実況の話し方も変わるし、その媒体に合った中身にしなければいけないというのは、これまでテレビをやってきた身としても感じます」と同調。

それを踏まえ、「単に64試合の中継に実況を付けるというだけでも相当大変なのですが、ABEMAのみなさんはより高みを目指して、良いものを作ろうという志を持っているので、そこに応えなきゃいけないという思いを強くしました。テレビ朝日から来ている以上、何か持ち帰らないといけないという意識の中で、そうしたスピリットもそうですが、複数のチャンネル編成やマルチアングルカメラといった非常に柔軟な姿勢を目の当たりにして、マスに向けて安定した放送を提供することを重視する地上波においても、真似できるところは真似したいなと思いますね」と感化されたそうだ。