アニメ『風都探偵』の主題歌として吉川晃司が作曲・プロデュースを手がけ、話題を呼んだ「罪と罰とアングラ」(作詞と歌唱は松岡充)。この曲の歌詞を、吉川が“仮面ライダースカル”の世界観で再構築した「ギムレットには早すぎる」が配信中だ。同曲は11月2日発売の吉川のニューアルバム『OVER THE 9』にも収録される。

ニューアルバム『OVER THE 9』をリリースする吉川晃司

そもそも『風都探偵』とは、2009年~2010年にかけて放送された『仮面ライダーW』の正統な続編として、2017年より「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて連載中の漫画作品であり、スタート直後から大ヒット。アニメ版も高い評価を得ており、さらに舞台化(2022年12月より上演)も決定するなど、ジャンルを超えた展開が続いている。もはや『仮面ライダーW』『風都探偵』は、「仮面ライダーシリーズの1作品」にとどまらない広がりと奥行きを持ったひとつの物語として定着し、年を追うごとに新たなファンを増やし続けているのだ。

『仮面ライダーW』は、ハードボイルドに憧れる私立探偵・左翔太郎(桐山漣)と、謎の少年フィリップ(菅田将暉/本作がデビュー作品だった)が、「2人で1人」の仮面ライダーWへと変身して、架空の街・風都で起こる怪事件を解決していく物語。この作品において、「ハードボイルド」の象徴となっている存在が、翔太郎の師匠であり、フィリップにとっては「命の恩人」でもある名探偵・鳴海荘吉だ。物語のイメージや「格」を決定づける、この重要キャラクターは『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』にて初登場。製作サイドは、2人の主人公に多大な影響を与えることになる鳴海荘吉を登場させるにあたり、「ハードボイルドを体現できる人物」として吉川晃司にオファー。仮面ライダー世代でもあり、「男の生きざま」を若い世代に背中で示すという鳴海荘吉のキャラクターに惚れ込んだ吉川は、これを快諾した。

鳴海荘吉=仮面ライダースカルは好評を得て、後には「鳴海荘吉」名義による『仮面ライダーW』挿入歌「Nobody's Perfect」も誕生(吉川は作曲と歌唱を担当)。さらに、初登場の1年後には『仮面ライダー×仮面ライダー オーズ&ダブルfeat.スカル MOVIE大戦CORE』において、鳴海荘吉を主人公とした一章『仮面ライダースカル メッセージforダブル』が作られるに至った。数多くの映画やテレビドラマで印象的な役を演じてきた吉川だが、中でも「鳴海荘吉」というキャラクターに対しては格別の想いがあることを、さまざまな機会に公言している。『風都探偵』がアニメ化されるにあたり、主題歌プロデュースのオファーを受けたのも、当然の流れだろう。

「罪と罰とアングラ」は、映画『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』で初登場した仮面ライダーエターナル=大道克己を演じた松岡充が作詞を担当し、「スカル」と「エターナル」のコラボとしても注目を集めた。その曲が今回、吉川による新たな歌詞を得て、「ギムレットには早すぎる」へと生まれ変わった。

鳴海荘吉が劇的な最期を遂げる寸前、謎の少年に与えた名前・フィリップとは、レイモンド・チャンドラーの探偵小説シリーズの主人公、「フィリップ・マーロウ」から採ったものだ。そして「ギムレットには早すぎる」とは、シリーズの1作『ロング・グッドバイ(長いお別れ)』の中で、マーロウに対し、友人のレノックスが告げた言葉。探偵小説史に残る、名ゼリフのひとつとして知られている。

「ギムレットには早すぎる」の歌詞には、このほかにもチャンドラーへのオマージュが随所で捧げられている。まさに吉川晃司=鳴海荘吉らしい、ハードボイルドかつセクシーな「大人の1曲」が、ここに完成したのである。

  • 2022年11月2日発売『OVER THE 9』