一方の父親に対しては、「認知症でいろいろなことをどんどん忘れていってしまうことへの葛藤がすごく見えました。フジタさんがお金の管理をどうするのか、お父さんに何回も聞いてあげて、『まだ自分でやりたい』と言うときの表情も印象的で、またすごいものを見てしまったという気持ちです」と感想。
そんな父が息子の前で涙を見せる場面も登場するが、「認知症になったことを徐々に自覚させられていくことが、とてもつらいことなんだろうと思いましたし、フジタさんに対する負い目もあったのではないかと思いました」と推察する。
フジタの立場からすれば、父は“自分を捨てて女と楽しんでいた”という許せない構図だが、父と内縁の妻の姿や、明かされた2人の思い出などを通して、「お父さんにとっては人生においてかけがえのない存在だったのだろうなと思うと、お父さんが入り浸ってしまったのも、絶対に悪いとも言えないのかなと思いました。人を好きになるということは、きっとそういうことなんですよね」と理解。また、「誤解がどんどん膨らんでしまうことは、普通に生活をしていてもたくさんあることだと思います」と受け止めた。
■憎しみ続けることは、自分自身が一番つらい
今回のドキュメンタリーを通して改めて感じたのは、“憎しみからは何も進まない”ということ。
「フジタさんがずっとお父さんを恨んでいたとしても、やはりその憎しみからいいものは生まれないし、フジタさんはそれに気づいているから、その先に進んでいける人なんだろうなと思います。今、憎しみの中にいる人は世の中にたくさんいると思いますが、それは相手がいることだから、自分の力だけではどうしようもできないことがほとんどだと思うんです。だから今回のように、いろいろな人の力があって少し次に進めるのは、とてもラッキーなことじゃないかと。憎しみ続けることは、きっと自分自身が一番つらいですから」
そして視聴者に向けて、「私も毎週『ザ・ノンフィクション』を見ていますが、すごい前・後編がやってきます。ちょっと見逃しちゃいけない2回がありますということをお伝えしたいです」と呼びかけた。
●宮崎あおい
1985年生まれ、東京都出身。『NANA-ナナ-』『少年メリケンサック』『舟を編む』『怒り』などの映画、連続テレビ小説『純情きらり』『あさが来た』、大河ドラマ『篤姫』などに出演。23年度前期の連続テレビ小説『らんまん』ではナレーションを務める。『ザ・ノンフィクション』では番組最多回数のナレーションを担当し、昨年6月7日放送の『生まれてくれて ありがとう ~ピュアにダンス 待寺家の17年~』は民間放送連盟賞・テレビ教養部門の優秀賞を受賞。今回の『あの日 僕を捨てた父は ~孤独な芸人の悲しき人生~』で担当回は41回に達する。