フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、18日に放送された『ボクと父ちゃんの記憶2022前編 ~母の涙と父のいない家~』。若年性認知症で施設に入った父と、父を介護してきた息子と家族の新たな生活を追った作品で、25日に『後編 ~18歳の夢 家族の夢~』が放送される。

2015年からこの一家と交流し、認知症の進行も見つめてきた山田貴光ディレクター(ドキュメンタリーSAMURAI)は、長年にわたる密着を通して、父のいた家と、いなくなった家に、どんな変化を感じたのか。そして、離れ離れになっても変わらない家族の姿とは――。

  • 父・佳秀さんとオンライン面会する大介さん(左)と母 (C)フジテレビ

    父・佳秀さんとオンライン面会する大介さん(左)と母 (C)フジテレビ

■父の姿から生まれた東京への反骨心

『ザ・ノンフィクション』では、昨年10月の放送でこの一家に密着した模様を放送。50歳の時に若年性アルツハイマー型認知症と診断された父・佳秀さんは15年経って病が進行し、いわゆる「ヤングケアラー」となっていた息子の大介さんをはじめ、家族による介護生活が限界に。しかし、施設に入所すれば、コロナ禍もあって半年以上、家族との面会は許されないため、父の頭の中から自分たち家族の存在は完全に消え去ってしまうのではないか――そんな不安を抱えながら、父を施設に入所させるという苦渋の決断の姿を映し出した。

佳秀さんが入所してからの家族の変化について、「みんなお父さんの介護にずっと時間を充てていたので、大介さんが部屋の中で寝ていたり、遊んでいたりと、それぞれに自由な時間ができているのが見て取れました。前回は“別れ”というのがテーマにあったのでつらいこともありましたが、今回久々にお会いしたら、穏やかな時間を過ごして、笑顔も多くなった印象でした」と語る山田D。その中でも、「みんながそれぞれに秘めている思いが、いろいろとあると思います」と想像する。

一方で変わらないのは、佳秀さんが認知症になる前から築いてきた、家族の明るさや団結力。そして、「離れていても、“父ちゃんは父ちゃん”という存在があるような気がしました。お別れしてしまったらガクッとなるわけではなく、離れていてもつながっている。こっちの勝手な印象で、当事者にしか分からない部分もあると思いますが、そんな感じを受けました」といい、それを象徴するのが、大介さんが高校の卒業式や初出社といった節目で出かける際に、「父ちゃん、行ってくるね」「お父さん、行ってきます」と、写真に声をかける姿だった。

また、大介さんが、高校卒業後に東京に行く同級生の話をして、「言ってくれれば止めたのにさ。『東京なんて行くとこじゃない』っていつも言ってます」と訴える姿も印象的だ。“父ちゃん”がストレスの多い東京での暮らしで認知症が進行し、千葉に移って田舎暮らしでその進行を遅らせた実感があることかから、「みんなに伝えたい、知ってほしいという強い思いや、反骨心があるんだと思います」と推察した。

  • 家族の思い出を語りながら涙する母親 (C)フジテレビ

■家族の思い出ビデオ活用…共同制作のような気持ちで

今回の番組は、映像ディレクターとして活躍していた佳秀さんがプライベートで撮っていた、家族の思い出のビデオ映像をふんだんに使用している。

「2階に棚があって、そこに子どもたちを撮ったテープがいっぱいあるんです。運動会から何から、子ども1人1人に何十本もあって、それを発掘するように見せてもらう中で、家族をすごく愛してるなと思う映像を使わせてもらいました。そこにあるお父さんのメッセージを感じたので」

中には、なかなか他人が見ることができない自宅出産の様子を定点で撮った映像も。「どの映像も、きっといつか見返してほしいという記録で撮っていると思うので、かなりの部分がお父さんの映像になっています」といい、佳秀さんとの共同制作のような気持ちで番組を編集した。

番組のBGMは、ドラマ『最愛』(TBS)のサウンドトラックから多く選曲されているが、「音効担当者が、家族愛が強い一家だというのを感じ取って、選んでくれました」とのことだ。