東京都都市整備局は9月30日、多摩都市モノレールの延伸(上北台~箱根ケ崎間)に関する都市計画素案説明会を開催すると発表した。発表資料は約7kmの延伸ルートと駅の予定地のみ掲載され、詳細は10月18日から開催される沿線住民向け説明会で明らかになる。地元の人々の期待は大きいだろう。「乗り鉄」としても楽しみな「全線高架区間」になる。

  • 多摩モノレールの箱根ケ崎延伸区間は狭山丘陵の南側をなぞる(地理院地図を加工)

多摩モノレールは多摩センター駅(東京都多摩市)と上北台駅(東京都東大和市)を結ぶ16.0kmの路線。途中でJR立川駅の真上を通るため、同駅から南北へ向かう路線と言ったほうがわかりやすいかもしれない。多摩モノレールの駅はJR立川駅の真上ではなく、北口に立川北駅、南口に立川南駅を置いている。沿線の人々が立川駅周辺の目的地にアクセスしやすく、気の利いた設計といえる。

今回の計画素案は、北側の終点である上北台駅から西へ延伸し、JR八高線の箱根ケ崎駅に到達するルートで、駅の数は箱根ケ崎終点を含めて7つ。駅の位置は東大和市、武蔵村山市、瑞穂町が2018年にとりまとめた「モノレール沿線まちづくり構想」で示した地点とほぼ一致しており、沿線自治体の要望が採用されたといえそうだ。東京都で唯一、鉄道駅のなかった武蔵村山市にも4つの駅ができる。東大和市の境界部を含めると5駅になる。

完成時期が気になるところだが、まだまだ時間がかかりそうだ。素案説明の後、環境影響評価、特許の手続きが必要になる。モノレールは新青梅街道の直上に建設する計画で、必要な道路拡幅工事も進行している。現在の新青梅街道はセンターラインの両側に2車線の車道が6.5m、その外側に2.5mの歩道があり、全幅は18m。この道路を幅30mに広げ、中央分離帯として幅4mを確保し、モノレールの高架橋脚を設置する予定としている。中央分離帯の両側に幅8mの車道、幅5mの歩道と自転車道ができる。

この道路拡幅工事は上北台寄りから第1工区、第2工区の順に、第5工区まで5つに分けられた。第1工区の整備完了は2023年度、第2工区・第4工区の整備完了は2028年度、第3工区の整備完了は2027年度、第5工区の整備完了は2024年度を予定している。多摩モノレールの既存区間は、着工から営業開始まで8年以上かかった。道路部分の完成を待つとすれば、2028(令和10)年度の8年後、2036(令和18)年度以降になるだろう。道路整備中に中央分離帯の工事を先行できるなら、もう少し短縮できるかも知れない。

■高架区間の見晴らしに期待

多摩モノレールの既存区間は、立川駅でJR中央線・南武線・青梅線に乗り換えられる。立川駅から北へ向かうと、玉川上水駅で西武拝島線に乗換え可能。立川駅から南へ向かうと、高幡不動駅で京王電鉄の京王線・動物園線、多摩動物公園駅で動物園線、多摩センター駅で京王電鉄の相模原線、小田急電鉄の多摩線に乗り換えられる。東京都心から放射状に伸びていく鉄道路線を結ぶ「タテ糸型」の路線といえる。

多摩モノレールの開業前は、沿線から立川に行く、あるいは放射状に伸びる路線同士を乗り継ぐために、JR武蔵野線やJR横浜線まで迂回する必要があった。上北台~箱根ケ崎間の延伸区間が開業すると、八高線沿線から立川駅周辺と多摩動物公園、多摩センターまで、箱根ケ崎駅での乗換え1回で済む。武蔵村山市に限らず、沿線の人々にとってさらに便利な路線となる。

沿線外の人々にとっても利便性は高い。桜街道駅付近に森永乳業の工場があり、乗換え1回の広範囲な通勤圏を獲得している。通勤利用者にとって重要というだけでなく、レジャー用途としても、小田急線、JR中央線、西武拝島線から多摩動物公園にアクセスできる。立川北駅付近に、爆音上映で人気の映画館「立川シネマシティ」もある。

「乗り鉄」にとっては全線高架区間の車窓が魅力的。立川駅付近を除けば高層建築が少なく、眺望も良い。緑地や公園が多く、春になれば眼下に満開の桜が広がり、遠く富士山も望める。11月中旬から下旬にかけて、富士山の頂上に日が没する「ダイヤモンド富士」も見られる。多摩動物公園は車窓からだと少ししか見られないが、反対側の車窓なら「京王れーるランド」の展示車両が見える。高幡不動駅付近に京王電鉄の車両基地もある。

中央高速道をまたぐ部分も、車の流れが楽しい。ドライバーには申し訳ないと思うが、渋滞しているときの夜景はきれいだ。多摩川を渡る景色も車窓から見られるし、昭和記念公園も少しだけ見える。玉川上水駅付近に転がる広大な墓地は、普段は灰色だが、お盆や彼岸になると墓石に供えられた色とりどりの花が見え、線香の煙が立ち上る。風物詩といえる。

延伸区間となる上北台~箱根ケ崎間の見どころは2つ。ひとつは住宅地の向こうに狭山丘陵が見えるはず。Googleマップの航空写真を見ると、撮影は木々が秋色を深めていた頃に行われたようだった。新青梅街道の街路樹は何色になるだろう。桜と紅葉を見られるとなれば、まるで観光鉄道のような趣もある。

もうひとつは、高架区間から米軍横田基地を眺められる。国道16号側は目隠し柵がないため、基地の滑走路がよく見える。モノレール側もどうか目隠しをしないでほしい。時期が合えば、飛行機越しの「ダイヤモンド富士」を見られるかもしれない。

ただし、基地に関しては諸問題あって、軍用機の飛行ルートの直下となる瑞穂町は騒音や墜落、落下物の不安を訴え続けている。一方、東京都は軍民共用を推進し、旅客機を発着させたい考え。乗り物好きとしては、まず車窓の景色を楽しんだ上で、そこに住まう人々の思いを感じ取れたら、横田基地を考えるきっかけになるのではないかと思う。

■東京都の優先整備6路線のひとつ、次は町田延伸か

上北台~箱根ケ崎間は、開業済み区間を建設中の1992年、東京都の多摩島しょ振興推進本部会議で事業化すべき路線に決定した。これを受けて、2000年の運輸省(当時)運輸政策審議会答申第18号「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について」にて、「2015年までの着工が望ましい」と記載された。

目標年度の2015年着工は叶わなかったが、2016年の国土交通省交通政策審議会答申第198号「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」で、「導入空間となりうる道路整備が進んでおり、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において具体的な調整を進めるべき」と記されている。これを受けて、東京都は平成30年度予算案で「東京都鉄道新線建設等準備基金」を発足させ、都の重要施策と位置づけた。

「東京都鉄道新線建設等準備基金」では、東京都に関わる新規鉄道路線計画のうち、次の6路線を重点的に取り組むとしている。

  • 羽田空港アクセス線 (田町駅付近~羽田空港)
  • 新空港線 (東急蒲田~京急蒲田)
  • 東京8号線(有楽町線延伸) (豊洲~住吉)
  • 東京12号線(大江戸線) (光が丘~大泉学園町)
  • 多摩都市モノレール (上北台~箱根ケ崎)
  • 多摩都市モノレール (多摩センター~町田)

羽田空港アクセス線と新空港線、東京8号線(有楽町線延伸)は最近も進捗が報じられており、東京都は着実に取り組んでいる様子。東京12号線は東京都市計画道路補助230号線の地下に建設される予定で、道路部分の延伸と拡幅が進んでいる。今度は多摩モノレールの番。町田方面の延伸についても、前出の交通政策審議会答申第198号にて、「事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において具体的な調整を進めるべき」とされている。

2018年に町田市が公開したパンフレットによると、こちらも導入空間となる道路と一体化して整備する予定で、延長約13kmのうち約7kmについて導入空間を確保済み。道路拡張を要する区間は約2kmとなっている。しかし、道路がない区間が約4kmもあり、このうち約2kmは道路計画もない。道路が整う見通しがないと、モノレールの計画も立てられない。こちらも多摩丘陵に高架の線路をつくることになるから、眺望が楽しみだ。東急田園都市線沿線に住む筆者としては、もう少し伸ばして南町田グランベリパーク駅まで結ばれたら良いのに……と思うが、「我田引鉄」が過ぎるか。

  • 多摩モノレール構想は約93km。黒線が開業済み。赤線が交通政策審議会答申第198号で「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」とされた路線。紫の点線は構想路線(地理院地図を加工)

多摩モノレール構想はこれだけにとどまらない。1981年度の「多摩都市モノレール等基本計画調査報告」では、羽村市、あきる野市、八王子市にまたがる約93kmの構想路線があり、多摩センター~八王子~箱根ケ崎間を結ぶ環状のルートも想定されている。

八王子市は八王子駅・京王片倉駅・八王子みなみ野駅・南大沢駅・唐木田駅・多摩センター駅を結ぶ約17kmについて、「多摩都市モノレール八王子ルート整備促進協議会」を設置し、要望活動を実施している。

あきる野市は市民団体「モノレールを呼ぼうあきる野の会準備会」が延伸を求める署名2万2,320筆を集め、市議会議長名で都知事、国土交通大臣などに意見書を提出した。羽村市も早期整備路線化および早期事業化の要請書を都知事に提出。八王子市長、あきる野市長、瑞穂町長に連携を依頼した。都内25市3町1村で構成される「多摩地域都市モノレール等建設促進協議会(モノ促協)」も要望活動を実施している。

構想路線の全線開通まで、かなりの年月が必要に見えるものの、着実に進捗している。ひとまず箱根ケ崎延伸と町田駅延伸が実現すれば、多摩モノレールの総延長は約40kmとなり、大阪モノレールの約28kmを超えて日本最長のモノレールとなる。この時点で世界第2位でもある。ちなみに、世界一は中国・重慶モノレールの約98kmで、多摩モノレールの構想路線93kmが完成しても届かない。しかし、僅差で堂々の世界第2位となる。

町田~南町田グランベリーパーク間は都道経由で約5.5km。これも加えれば僅差で世界1位になれるかも。やっぱり構想に加えてほしい。さらに伸ばして、神奈川県や横浜市と連携し、話題の上瀬谷米軍通信施設跡地を経由して相模鉄道の瀬谷駅に……。おっと、妄想が過ぎた。このあたりで筆を止めておこう。