小栗旬主演の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第39回で、柿澤勇人演じる鎌倉幕府3代将軍・源実朝は女性を愛せないということが明らかに。さらに実朝が、北条泰時(坂口健太郎)に想いを寄せていることも判明。LGBTQをテーマにした大河ドラマは珍しいが、それも時代の潮流を読んだ三谷幸喜氏の脚本ならではの展開だ。「新しい実朝像を描きたい」という三谷氏の思いに応えた柿澤に撮影秘話を聞いた。

  • 『鎌倉殿の13人』源実朝役の柿澤勇人

なかなか世継ぎが誕生しない実朝がついに、自分は側室を持たないし、妻の千世(加藤小夏)にも、そういう気持ちになれないと、心に抱えていた葛藤を涙ながらに吐露。また、泰時に恋の和歌を贈り「返歌を楽しみにしている」と告げるも、のちに源仲章(生田斗真)に歌の意味を教えられた泰時から、贈る相手を間違えているのではと言われて悲しそうな表情を見せる切ないシーンも描かれた。

「三谷さんが実朝に対してかなり思い入れがあり、『新しい実朝像、本当の実朝みたいなものを描きたい』とおっしゃっていたので、すごくプレッシャーを感じました」と打ち明けた柿澤は、実朝の葛藤について「それはきっとどの時代でもあったことかなと。現代でももちろんそうですし、国も関係なく普遍的なことなのかなと受け止めて演じました」と語る。

「回を追うごとに、実朝のパーソナルな部分が明るみになってきました」と言う柿澤だが、確かにこれまでにも、そういうシーンがいくつか描かれてきた。妻・千世との心ここにあらずなやりとりしかり、泰時に向けられる熱い眼差ししかり。

特筆すべきは、大竹しのぶ演じる歩き巫女に、実朝が悩みを打ち明けるシーンだろう。妻の千世をめとったことについて「私の思いとは関わりないところで、すべてが決まった」と憂鬱そうに言うと、歩き巫女から「お前の悩みはどんなものであっても、それはお前1人の悩みではない。遥か昔から、同じことで悩んできた者がいることを忘れるな」と、懐の深い助言が返ってきたのだ。

誰にも相談できなかったことを初めて歩き巫女に打ち明けた実朝は思わず涙したが、ここで彼の心が少し軽くなったのはその表情からも読み取れたと思う。また、このやりとりは、実朝のパーソナルな悩みだけではなく、誰もが抱える様々な苦悩についての普遍的なメッセージとも受け取れて、視聴者の心を大いに揺さぶった。

思い返せば、同じ鎌倉時代を描いた大河ドラマ『草燃える』(79)でも、実朝(篠田三郎)と、御台所(多岐川裕美)の冷め切った夫婦関係が描かれた。そこには実朝が、世継ぎを作ることが、政争の火種となることだと嘆き「子は作らぬ」と宣言したという背景があったが、今回は三谷氏が令和の大河としてアップデートしたわけだ。

とはいえ、日本の歴史を振り返れば「男色」を好む人々が多くいたことは、歴史書などにも残っているし、大河ドラマでも何度かそれらしきシーンが描かれてきた。江戸期以降の武家社会では「衆道」「若衆道」、歌舞伎の世界では「陰間」という言葉で表現されてきたそうだ。

柿澤は大河ドラマ『軍師官兵衛』(14)では森蘭丸役を演じていた。そういうシーンは描かれなくても、見目麗しい蘭丸が、織田信長に身も心もゆだねた小姓であったことはよく知られている。

また、同じく柿澤出演の『平清盛』(12)では、松山ケンイチ演じる平清盛を疎ましく思う藤原頼長(山本耕史)が、弟の家盛(大東駿介)に取り入ろうと家に招き、深酒をしたあとで、家盛を寝所に連れ込んで押し倒すというシーンが描かれた。当時の大河ドラマとしては、かなり攻めた表現だとされ、視聴者をざわつかせたのだ。

そういう流れがあっての令和4年放送の『鎌倉殿の13人』だが、多様性を重んじる現代だからこそ、実朝に寄り添って描かれた。