就任挨拶でもう1つ言ったのは、「入口」と「出口」を話し合ったら、あとは自由にのびのび野放しでやらせる。その分、自由には責任も伴うということを忘れないでほしいと。

――港さんが制作現場の第一線にいらっしゃったときは、「野放し」でやらせてもらった経験があったのですね。

企画が成立してタイムテーブルに載るまでには、企画書を出すなど、いろんなことがありますが、決まるときはノリであっさり決まって、後は任されていましたね。現場は守られていて、大きく面倒を見てもらっているという感覚でした。その分、「返さなきゃいけない」「恥をかかせるわけにいかない」という責任みたいなものを、自然と強く感じていました。

石田弘プロデューサーをモデルにしたキャラクター“ダーイシ”に扮したとんねるず・石橋貴明

――『みなさん』が始まるときは、まさに「ノリで決まった」事例ですよね。

あの頃のフジテレビは、『火曜ワイドスペシャル』という枠があったのですが、その直前に放送していた『サザエさん』の再放送が、(世帯視聴率)15%をとります。そうすると、15%持ったまま番組を始めることができるので、最低でも番組全体で20%はとらないと次のチャンスはないというくらいハードルの高い枠でした。我々で何回か企画を出したのですが、なかなか通らない。

そのころ、そんなタレントさんはあまりいないのですが(笑)、編成の大部屋にあった僕のデスクに貴明さんがしょっちゅう遊びに来ていたのです。「この中で一番偉い人は誰なの?」って聞かれたので、「あそこに座っている日枝(久)さんっていう編成局長だよ」って教えたら、レポート用紙に「火曜ワイドスペシャルやらせてください。30%とれなかったら、石田(弘プロデューサー)さんを彫刻の森(※)に飛ばしても構いません」って書いて、それを日枝さんに渡したのです。僕らは、どうリアクションするのかな…と思って見ていましたが、「ガハハハ!」って笑って、編成部長に「おーい、これやらせてやれ!」と言ってくれて、そうしたら部長がすぐに「おい港、これだけの予算でやれ」って、あっという間に決まったのです。もう「やったー!」って大喜びですけど、20%とらないとパート2はないから、そこから3カ月くらいで、全力で作って、幸いにして20%を超えました。そんなことを繰り返して2年間『火曜ワイドスペシャル』で4回やってからレギュラーになったので、足腰もだいぶ強くなっていたと思いますよ。

(※)…フジサンケイグループが運営する箱根彫刻の森美術館

――本当におおらかな時代を象徴するようなお話です(笑)

もうノリノリでしたね(笑)

■深夜に新企画枠「来年4月、10月と新しい看板番組に」

――社長に就任されて「フジテレビ港賞」を創設されました。この狙いは、何でしょうか。

社員の自由なアイデアを募集するというもので、これは共同テレビの社長になったときに始めたものと同じです。テーマは3つありまして、1つ目は番組企画です。制作現場にいないとなかなか出す機会がありませんが、どのセクションでも考えている人は考えていますから。2つ目は、新規事業のアイデア。3つ目は、「こういうふうにしたら、いい会社になるのでは?」という会社への提案。共テレでは半年に1回実施して数十~100本くらいの企画が集まったのですが、必ず面白いものがありました。

その経験をもとに、フジテレビでも実施したところ、450本もの提案が集まりました。社員の3分の1が、考え抜いた企画を出してくれて、どれを最優秀にするか、うれしい悩みです。こうやって自由なアイデアがどんどん集まってくるのは心強いし、やっぱりみんなちゃんと考えているのだな、という手応えがありました。

――就任挨拶では、「まずは看板番組を作ることが大事だ」というお話もされていました。

これまで、『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』『めちゃイケ(めちゃ×2イケてるッ!)』『みなさん』とフジテレビを支えてくれた看板番組がありましたが、いつかは終わってしまいます。それが今なくなってしまっている状況なのですが、看板番組があって、そこを中心にテレビを見てもらえるわけですから、次の看板番組を作っていこうというのは当たり前の号令ですね。

そのためにどうしていくか。先ほど『みなさん』の例がありましたけど、あの番組はどこの土俵でも戦えるように単発のスペシャルを重ねて、『ザ・ベストテン』(TBS)という驚異の視聴率をとる番組の裏でも人気番組になることができたわけです。そうやって足腰を強くしてからゴールデンのレギュラーに出てほしいと思っています。この10月改編は、開局以来、初めて、GP帯バラエティの改編をゼロにしましたが、新しいヒットクリエイターや、新しい芽になる企画を生み出すために、深夜の6枠を「ストリームゾーン」と名付けました。ドラマとバラエティとアニメの新企画を投入していきます。土曜の午後帯にもバラエティの開発枠を作りましたから、ここでいい番組が出てきたら、育てて、来年の4月、10月と新しい看板番組になっていけばいいなと思います。

  • 深夜帯でスタートするトライアル枠の番組(上段左から時計回りに 『コムドットって何?』『恋愛トキワ荘』『私のバカせまい史』『アイゾウ 警視庁・心理分析捜査班』) (C)フジテレビ

――「看板番組」というのは、ドラマだと大ヒットしても1クールで終わってしまうので、やはり息の長いバラエティを想定しているのでしょうか?

両方ですね。ドラマは3カ月で終わりますが、人気があればシリーズものになりますし、今おかげさまで大ヒットしている『ガリレオ』のように、映画化という展開もある。何か明確な根拠があるわけではありませんが、1つ看板番組が生まれると次が出てくるものなんです。

――やはり1つヒットすると社内でそれが刺激になるというのもあるのでしょうか。

そうですね。同じクリエイター同士のライバル心というのは絶対あるわけですから、「あいつが当てたのなら、俺だって」となって、ヒット番組が1個、2個と生まれていくものだと思います。