JR九州の代表取締役社長執行役員、古宮洋二氏の講演会(日本記者クラブ主催)が9月9日に都内で行われた。講演のテーマは「九州における2つの新たな出発 - 西九州新幹線と日田彦山線」。開業が目前に迫った西九州新幹線と、BRT(バス高速輸送システム)方式により復旧が進められている日田彦山線に関して、古宮社長が語った。
■開業目前の西九州新幹線、概要や各種企画を紹介
講演会では、まず西九州新幹線について紹介と説明を行った。JR九州は9月23日にダイヤ改正を行い、同日に西九州新幹線武雄温泉~長崎間(69.6km、全5駅)が開業する。起点となる武雄温泉駅では対面乗換方式が採用され、同じホームで在来線特急列車から新幹線へ乗換え可能に。博多~武雄温泉間の在来線特急列車、武雄温泉~長崎間の新幹線を利用することで、博多~長崎間の所要時間が従来の約1時間50分から約1時間20分となり、約30分の大幅な短縮が実現する。一方、長崎本線の肥前山口(9月23日から「江北」に改称)~諫早間は上下分離区間となる。
西九州新幹線の5駅の駅舎は、各地域の文化・歴史を題材とし、自然素材や伝統を取り入れつつ、建設主体の鉄道・運輸機構が地域とともにデザインした。新設の嬉野温泉駅では、地元の「肥前吉田焼」のタイルを用いたアートを設置。地域の中学生(約200名)が花・木の模様を掘ったタイルも一部取り入れるという。
在来線ホームがすでに供用開始されている長崎駅では、新幹線の駅として初めて膜屋根を採用した。なお、鉄道・運輸機構の公式サイトに西九州新幹線のパンフレットのデータが公開されており、各駅舎の外観や、デザインイメージなど閲覧できる。
西九州新幹線の車両はN700S(6両編成)、愛称は「かもめ」。「九州らしいオンリーワンの車両」をコンセプトに、JR九州コーポレートカラーの赤をエクステリアに配色しつつ、「かもめ」のシンボルマークやロゴも配置した。インテリアデザインは和洋折衷、クラシックとモダンを組み合わせ、懐かしくて新しい空間を表現したという。1~3号車は横4列(2列+2列)の普通車指定席。4~6号車は横5列(2列+3列)の普通車自由席となる。
武雄温泉~長崎間の部分開業となる西九州新幹線だが、その計画は国鉄時代の1973年11月、福岡・長崎間を「全国新幹線鉄道整備法」にもとづく整備計画路線として決定したことに始まり、1986年11月に短絡ルート(武雄市から大村・諫早市を経由して長崎市に至るルート)を決定した。2007年12月、JR九州、佐賀県、長崎県の3者で基本合意した後、2008年3月に武雄温泉~諫早間、2012年6月に武雄温泉~長崎間の工事実施計画が認可され、それぞれ着工した。
西九州新幹線への導入をめざし、フリーゲージトレインの耐久走行試験も行ったが、2014年12月に一時休止。これを踏まえ、2016年3月、JR九州、佐賀県、長崎県、与党検討委員会、国土交通省、鉄道・運輸機構の6者間で、西九州新幹線開業の在り方について合意した。新鳥栖~武雄温泉間については、2020年6月以降、国土交通省および佐賀県との「幅広い協議」が続いている。
では、西九州新幹線の開業がどのような効果をもたらすだろうか。古宮社長は九州新幹線(2004年に新八代~鹿児島中央間、2011年に博多~新八代間が開業)を例に、交流人口の増加、通勤・通学利用、定住人口の増加の3点で説明した。
九州新幹線の全線開業で、関西との交流人口が大きく拡大。熊本・関西間の1日あたりの交流人口について、全通前の2010年度は2,561人(航空機1,593人、JR968人)だったが、2017年度は3,358人(航空機1,257人、JR2,101人)に増えた。鹿児島・関西間の交流人口も、2010年度は1日あたり3,489人(航空機3,008人、JR481人)で、ほぼ航空機が占めていたが、2017年度は4,892人(航空機3,632人、JR1,260人)に。どちらも交流人口が全体的に増え、とくにJRの利用者が増加傾向にあった。
九州新幹線は新幹線の中でも駅間距離が短いことから、通勤・通学の利用者も多いという。新八代~鹿児島中央間が部分開業した2004年度、新幹線定期券の利用者は501人(通勤372人・通学129人)だった。その後も通勤利用者を中心に新幹線定期券の利用者が増加し、2019年度の時点で3,635人(通勤2,894人・通学741人)だったとのこと。
住拠点化に関して、鹿児島中央駅では2004年3月から2013年3月までの間に駅周辺の新規ホテルが約2,400室増加。久留米駅、熊本駅、川内駅の各駅周辺では、マンションの開業により定住人口が増え、各駅の乗車人員も増加した。このように、他地域への移動や、実家からの通勤・通学がしやすくなること、定住人口や宿泊者の受け入れが増加したことを新幹線開業の効果として説明した。
地域の住民らとともに開業を盛り上げる市民参加型プロモーション企画として実施した「かもめ楽団」の話もあった。第1弾として、N700Sの海上輸送中に唐津東港に立ち寄った輸送船を歓迎する企画を7月29日に実施。第2弾として「かもめ」の特別運転を各駅で祝う企画を8月7日に行った。「非常に盛り上がり、『かもめ』を歓迎してくれた」と古宮社長。その他、沿線自治体や観光団体にJR九州社員が出向し、地域と協力して受け入れ態勢の整備や魅力発信に努めているという。
講演の途中、8月7日の「かもめ楽団」を各駅で記録したスペシャルムービーも公開された。車両の海上輸送シーンから始まり、各駅にて異なる楽器で「Happy Birthday」を演奏。大人からこどもまで参加者全員で歌って踊りながら、特別運転で入線する「かもめ」に手を振り、「かもめ楽団」オリジナルタオルを掲げてお祝いする様子がまとめられていた。このスペシャルムービーはJR九州「かもめ楽団」公式サイトに公開され、JR九州公式Youtubeチャンネルでも視聴できる。
西九州新幹線の開業効果を「線」から「面」へ広げるべく、9月23日のダイヤ改正から新たなD&S列車「ふたつ星 4047」も運行開始する。午前便は武雄温泉駅から長崎本線経由で長崎駅へ、午後便は長崎駅から大村線経由で武雄温泉駅へ、1日2便を運行予定。内陸部を走行する西九州新幹線に対し、「ふたつ星 4047」は有明海と大村湾沿いを走行する。車内で地元の食やお酒を楽しめるほか、各駅で地元名産品の販売やおもてなしをお願いしているとのことだった。
新幹線開業に伴う駅周辺開発も進める。長崎駅では商業施設・オフィス・ホテル・駐車場を有する駅ビル、嬉野温泉駅では旅館を建設しているという。いずれも2023年秋の開業をめざしており、これらによる雇用の創出と交流人口の増加で、西九州新幹線の開業効果を拡大させるとしている。
■日田彦山線BRT、愛称は「BRTひこぼしライン」に
続いて「日田彦山線の新たな出発」と題し、BRT方式で復旧を進めている日田彦山線の状況について説明した。日田彦山線は城野~夜明間を結ぶ68.7kmの路線で、運行系統上は城野駅から小倉方面、夜明駅から日田方面へ乗り入れている。自然豊かな風景とめがね橋が特徴的で、地域住民や鉄道ファンらに親しまれていた。
しかし2017年7月の北部九州豪雨で、添田~夜明間29.2kmが被災。復旧費は70億円を超える見込みとなり、JR九州単独での復旧は困難との判断が下り、復旧について地域と話し合いを求めた。被災区間はJR九州の発足以降、運行本数をほぼ維持していたが、1日あたりの平均通過人員は1987年の665人に対し、2016年は131人と著しく減少していた。
これらを踏まえ、2018年4月からJR九州、福岡県、大分県と沿線3自治体により、復旧会議が6回にわたって行われた。その結果、添田~夜明間をBRT方式で復旧することが2020年7月に決定した。
BRT方式での復旧にあたり、日田彦山線BRTに「BRTひこぼしライン」の愛称が付けられた。開業予定は2023年夏。沿線地域の思いを乗せ、未来に向けて駆け抜けていく「日田“彦”山線の“星”」になるようにとの願いを込め、命名したという。
コンセプトは「ひと、地域、みらいにやさしい」。ロゴマークは沿線の緑豊かな景色を想起させるフォレストグリーンをベースに、ひこぼしの「ひ」の字を模したラインで山並みを表現した。地域の星となるように願いを込めて「ひこぼし」を配置し、その下にめがね橋をデザインしている。このめがね橋には、装飾として「HIKOBOSHI LINE」の文字が浮き出ている。ロゴマーク、BRT駅、車両デザインなど、社内でコンペを実施し、社員が提案したデザインを採用したという。
駅数は被災前からの12駅に加え、沿線住民を対象に行ったアンケート調査をもとにBRT駅を25駅増設し、全37駅とする。添田~彦山間と宝珠山~日田間は一般道、彦山~宝珠山間はBRT専用道を走行。光岡~日田間に新設される林工西口駅、昭和学園前駅、日田市役所前駅は朝夕の一部便のみ停車するとのこと。運賃・ダイヤ設定等は検討中だが、朝夕に本数を増やしたいとしている。
一部のBRT駅で待合ブースを設置予定。駅ごとにデザインを変えつつも、木材を活用して温かみを感じられるデザインとし、オリジナルの路線図とロケーションシステムを設置する。それ以外のBRT駅には、添田町、東峰村、日田市をイメージした「BRTひこぼしライン」オリジナルの駅サインを設置する予定となっている。
BRT車両は小型電気バス4台と中型ディーゼルバス2台を導入予定。沿線地域の要素を1台1色ベースにし、おりひめの羽衣をイメージしたラインを配する。電気バスのベースカラーは、添田町町花のしゃくなげ、東峰村の棚田、日田市の水郷、東峰村特産品のゆずをイメージ。ディーゼルバスのベースカラーは、英彦山の山並みと、日田市の花であるあやめをイメージしている。コンセプトにもある「やさしい交通機関」をめざし、ノンステップバスを導入するほか、電気バスは自然環境への配慮に加え、災害時の非常用電源としての活用も検討している。
「BRTひこぼしライン」の2023年夏開業に向け、沿線住民らとの連携も強化している。講演会では、沿線の小中学校の生徒らと行った七夕の飾り付けや、日田市の地元酒蔵と共同で行った酒米の田植えや稲刈りを例に、JR九州社員が沿線と協力して取り組んでいる様子が紹介された。
最後に古宮社長は、「BRTひこぼしライン」(日田彦山線BRT)がJR九州にとって初のBRTになることを踏まえ、「『BRTひこぼしライン』を成功させて、これが今後のローカル線の形にもなりうるのかなと考え、チャレンジしていきたい」と表明した。
JR九州の鉄道車両といえば、水戸岡鋭治氏(ドーンデザイン研究所代表)デザインの車両がよく知られているが、「BRTひこぼしライン」については社内でデザイン等をブラッシュアップし、取組みを進めてきたという。地元との連携も強化しつつ、開業に向けた準備が引き続き進められる。
西九州新幹線については、いよいよ開業が来週に迫った。これに伴う在来線列車の変化や、一部区間の上下分離化など、いままでの運行形態と大きく変わるところもあると思われるが、新幹線の開業で鉄道利用にさらなる活気が生まれることを期待したい。