ビジネス文書で頻繁に見掛ける「貴殿」。使う相手が決まっている敬称であるため、使い方を間違えると失礼になり、オフィス内や得意先でトラブルを起こしてしまう可能性があります。
今回は「貴殿」が女性にも使用可能かどうかや例文、言い換え表現などをご紹介します。相手を敬う言い回しの使い方をしっかり身に付けましょう。
「貴殿」は女性にも使える? 「貴殿」の意味と使い方
「貴殿」は「敬語の二人称」の一つです。「二人称」とは、「あなた」や「君」のように、話し手に対して聞き手を指す言葉です。ここではまず、「貴殿」の意味や読み方、使える相手など、使い方のポイントについて詳しくご紹介します。
「貴殿」の意味と読み方とは
「貴殿」は「きでん」と読み、敬う必要のある相手に対して使用する敬称です。
やや硬い表現のため日常会話で使われることはあまりなく、基本的には手紙や辞令、賞状などの文書で使うことがほとんどです。ビジネス関連で受け取る手紙の中で「貴殿におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます」などという文章を見たことがあるのではないでしょうか。
なお貴殿にはこの言葉だけで相手を敬う意味があるため、さらに「様」をつけて「貴殿様」にする必要はありませんので注意しましょう。
「貴殿」は女性には使用できない敬称
「貴殿」を使う際、最も気を付けなければいけないのは「女性に対して」また「女性から」は使えないという点です。「貴殿」は基本的に「男性から、目上もしくは同等の男性に対して」使う敬称です。つまり「男性から男性」のみの使用が可能で、「男性から女性」「女性から男性」「女性から女性」の使用は基本的にできません。
ただし最近では、男女平等の観点からか、男女問わず「貴殿」と記載する例も見られます。言葉は時代とともに変化するものなので、今後このように男女の区別なく使用することがスタンダードになる可能性はもちろんあります。しかし使い方で悩んだら「男性が男性に対して使う」という基本に沿うと無難でしょう。
「貴殿」のは本来「目上」の男性に使用する敬称だった
「貴殿」はかつて、男性が「自分より目上の男性」に対して使う敬称でした。ただし、現代では使用範囲が広がり、前述のように目上だけでなく同等の立場の人にも、親愛の情を込めて使用するようになっています。
この変化により、男性同士であっても、ビジネスシーンでの「貴殿」の受け取り方に下記のような変化が見られます。
「貴殿」を使う際の注意点
「貴殿」は前述のように同輩にも使うようになったため、今では「親愛の情はこもっているもののやや軽い」「失礼だ」と考える人もいます。「貴殿」を目上の人に使う際には、相手や状況を見て注意して使用しましょう。
「貴殿」の例文
次は「貴殿」がどんなシーンでどのように使用できるのか、使い方の例について詳しく見ていきましょう。
ここでは、手紙、メール、辞令など、ビジネスシーンを想定したさまざまな状況別に「貴殿」の使用例を取り上げます。
個人に向けた手紙で「貴殿」を使う場合の例文
個人に向けた手紙において、「貴殿」は冒頭の挨拶文と結びの言葉でよく使用されます。それぞれの使い方の例を以下に記載します。
【冒頭の挨拶文での使い方】
・貴殿におかれましてはますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
・貴殿におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
【結びの言葉での使い方】
・末筆ながら、貴殿のご活躍をお祈りしております。
・末筆ではありますが、貴殿のご多幸をお祈りしております。
個人に向けたメールで「貴殿」を使う場合の例文
個人に向けたビジネスメールにおいて、「貴殿」は依頼時や感謝の気持ちを伝える際、呼び掛けとしてよく使用されます。
【依頼する際の使い方】
・今回のプロジェクトに関して、貴殿のお力添えを賜りたく存じます。
・次回のセミナー登壇者として、貴殿のお力をお借りできれば幸いです。
・次回のお打ち合わせにて、ぜひ貴殿のアイデアをお伺いできればと存じます。
【感謝を伝える際の使い方】
・本プロジェクトが成功したのは、貴殿のご尽力のおかげです。心より感謝申し上げます。
・前回のセミナーが成功したのは貴殿のご活躍あってのことです。
辞令や表彰で「貴殿」を使う場合の例文
「貴殿」は辞令や社内表彰の書類の中でもよく見掛ける敬称です。例文を見てみましょう。
【辞令での使い方】
・○○○○年○○月○○日をもって、貴殿を広報課 課長に任命します。
・貴殿を○○○○年○○月○○日をもって当校の職員として採用し、総務部総務課勤務を命じます。
【社内表彰での使い方】
・貴殿のこれまでの功績をたたえ、感謝状を贈ります。
・貴殿は永きにわたり当社の発展に尽力されました。よってここにその功績をたたえます。
女性に使える「貴殿」の言い換え表現
次は「貴殿」をビジネスシーンで女性に使えるよう、言い換えた言葉について詳しく考えていきます。
「あなた」は目上の人には使えないがポピュラーな言葉
現在「あなた」は、同等もしくは目下の相手を指す場合に使われるのが一般的です。皆さんも日常的によく耳にする言葉ですよね。ポピュラーではありますが、目上の相手に対しては使わないよう注意しましょう。なお漢字で書くと「貴方」ですが、女性に対しては「貴女」、男性に対しては「貴男」と書くこともあります。
「貴女(きじょ)」と呼ぶことも
女性に対する「あなた」を漢字で書くと「貴女」であるとご説明しましたが、同じ漢字で「貴女(きじょ)」読む場合もあります。こちらは目上、もしくは同等の女性に対して用いる敬称です。古い小説などを読むと時折見掛ける言い回しですが、近年は使われることが少なくなってきたようです。
「個人の名前+様」や役職で呼ぶ方法が無難
男女にかかわらず、二人称の代名詞ではなく「個人の名前+様」、「個人の名前+役職」で呼び掛けるのは無難な方法です。
例えば、「山田様」や「鈴木課長」といった具合です。「様」や役職の前に相手の名前をつけることで「あなたの名前を覚えていますよ」といったさりげないアピールにもなりますね。
「殿」を目上の人に使うのは避ける
前述の「様」と同じく「殿」もよく見掛ける言葉ですが、現在「殿」は自分と同等か目下の人に使う敬称とされています。迷ったら「様」を使うと安全でしょう。
「個人の名前+先生」も使用できる
相手が医者や弁護士、講師など、特定の専門スキルを持つ場合や指導的立場にある場合は、男女ともに「様」や役職の代わりに「個人の名前+先生」を使うこともあります。「先生」には敬称の意味が含まれています。
複数人の場合は「各位」や「皆様」の活用を
相手がグループの場合は「各位」や「皆様」を活用しましょう。例えば「経理部 各位」「経理部の皆様」「経理部の皆様におかれましては」のように使用できます。両方とも、男女関係なく使用できる敬称です。
正しい敬称を使うことで、ビジネスシーンにおける円滑なコミュニケーションを
今回取り上げた「貴殿」をはじめ、言葉の使い方は日々新しくなっています。いつも最新のものを確認し、正しく使えるよう心掛けましょう。
言葉を正しく使えることでスマートさが増し、得意先や上司とのコミュニケーションもより円滑になるかもしれません。