異例の6月末スタートとなった『オールドルーキー』(TBS系)から1カ月あまり、ようやく2022年の夏ドラマが出そろった。「配信視聴が普及・定着したことで、今春に各局でドラマ枠が新設される」などの追い風が吹く中、今夏はどんな作品がラインナップされ、どんな傾向が見られるのか。

主要ドラマがそろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」をドラマ解説者の木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2022年夏ドラマ計23作の傾向とおすすめ5作(第1弾)、目安の採点付き全作レビュー(第2弾)を挙げていく。

2022年夏ドラマの主な傾向は、【[1]「かぶりなし」挑戦作で勝負の夏】【[2]「庶民のヒーロー&ヒロインが続々誕生】の2つ。

  • 『競争の番人』(左から加藤清史郎、小池栄子、坂口健太郎、杏、大倉孝二、寺島しのぶ)

傾向[1]「かぶりなし」挑戦作で勝負の夏

今夏は過去記憶にないほど各ドラマ枠の作品テーマがバラけた。下記にゴールデン・プライム帯の新作をあげていくと……

『競争の番人』(フジテレビ系)は、公正取引委員会が企業の不正を暴く。
『魔法のリノベ』(カンテレ・フジ系)は、住宅リノベーションで家と家族を再生する。
『ユニコーンに乗って』(TBS系)は、スタートアップ企業と若き女性CEOの成功物語。
『家庭教師のトラコ』(日本テレビ系)は、謎めいた家庭教師が各家庭の問題を解決していく。
『テッパチ!』(フジ系)は、自衛官候補生たちの成長を描く熱血青春ドラマ。
『六本木クラス』(テレビ朝日系)は、壮絶な復讐劇を描いた韓国ドラマのリメイク。
『純愛ディソナンス』(フジ系)は、教師と生徒の禁断愛からはじまるドロドロ純愛劇。
『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』(TBS系)は、マチベンが庶民の悩みを解決。
『初恋の悪魔』(日テレ系)は、警察署勤務だが捜査権がない4人のミステリアスコメディ。
『オールドルーキー』は、元アスリートがセカンドキャリアでマネジメントに挑む。
『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』(読売テレビ・日テレ系)は、武将クローンの学園天下取りバトル。

深夜帯を見ても、

『赤いナースコール』(テレビ東京系)はホラーサスペンス。
『消しゴムをくれた女子を好きになった。』(日テレ系)は実話をベースにした13年間の純愛。
『みなと商事コインランドリー』(テレ東系)はボーイズラブ。
『量産型リコ-プラモ女子の人生組み立て記-』(テレ東系)はOLがプラモデルをきっかけに人生を見つめ直す物語。
『NICE FLIGHT!』(テレ朝系)は空港が舞台のラブストーリー。
『雪女と蟹を食う』(テレ東系)は人生に絶望した強盗とセレブの逃避行。
『トモダチゲームR4』(テレ朝系)は謎のゲームに挑む高校生の心理戦。

1つもかぶらず見事なまでに色分けされていることがわかるだろう。では、なぜこれほどバラけたのか。

そもそも「長期休暇や大型イベントのある夏は、最も継続視聴が難しい季節であり、だからこそ手堅く数字を獲りに行くような作品テーマを選ばず、『半沢直樹』(TBS系)のようなチャレンジングなヒット作が誕生しやすい。今夏も過半数が原作のないオリジナルであることから、多少の「ダメ元」という意識も含め、「この企画で勝負したい」という作り手たちの強い思いが伝わってくる。

また、「昨夏は東京オリンピックがあったため、今夏のような挑戦ができなかった」という背景もあるだろう。各局の編成担当やプロデューサーが温めてきた企画に挑んでいるからこそ多彩なラインナップになり、視聴者にとっては選ぶ楽しみが生まれる。もちろんクオリティの問題こそあるが、少なくとも作品テーマという点で今夏は、どんな人でも自分好みの一本が見つかるのではないか。

  • 『六本木クラス』(左から香川照之、新木優子、チョ・グァンジン氏、竹内涼真、平手友梨奈)

傾向[2]「庶民のヒーロー&ヒロイン」が続々誕生

作品テーマがバラけた一方、不思議なほど共通しているのが、視聴者にとって身近な設定を選び、主人公が庶民のヒーローやヒロインであること。

たとえば、『競争の番人』の1~3話では、小勝負勉(坂口健太郎)と白熊楓(杏)が栃木県のホテルで行われているウェディング費用のカルテルと下請けいじめを解決する様子が描かれた。次に『魔法のリノベ』は、真行寺小梅(波瑠)がリノベーションを通してさまざまな夫婦のすれ違いを改善している。

『ユニコーンに乗って』は、成川佐奈(永野芽郁)が「全ての人が平等に学べる場所を作る」ために起業。『家庭教師のトラコ』は、家庭教師の根津寅子(橋本愛)がお金の使い方も教えて家の問題を解決していく。

『六本木クラス』は、小さな居酒屋を営む宮部新(竹内涼真)が巨大飲食企業に挑む。『石子と羽男』は、石田硝子(有村架純)と羽根岡佳男(中村倫也)がカフェでの電源使用、職場のパワハラ、スマホゲームの課金、ファスト映画などの身近なトラブルを解決。

いずれも主人公が一般市民の目線を持ち、誰にでも当てはまる身近な問題に挑んでいる。コロナ禍の深刻度が増す中、視聴者に元気や希望を与えるようなコンセプトの作品が選ばれたのではないか。「主人公を自分に置き換えて見る」「だから見るたびに感情移入が進み、最後まで見たくなる」だけに、最終話が放送される9月には「ロス」の声が飛び交いそうだ。

  • 『魔法のリノベ』(左から金子大地、原田泰造、波瑠、間宮祥太朗、遠藤憲一、吉野北人)

  • 『家庭教師のトラコ』(左から美村里江、中村蒼、橋本愛、鈴木保奈美、板谷由夏)

これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『雪女と蟹を食う』『魔法のリノベ』の2作。

まず『雪女と蟹を食う』は、初回のインパクトで視聴者の心をガッチリつかみ、蟹と死を目指して北へ向かう逃避行から目を離せない。内田英治監督の演出でロードムービーとしての旅情もたっぷり楽しめる。

次に『魔法のリノベ』は、映像化の難しいビフォーアフターにトライし、それぞれのエピソードもハートフル。ヒロインの共感度が高く、リノベの知識も得られるなどハイブリッドな魅力がある。

その他では、『僕の姉ちゃん』は「これぞ黒木華」と言いたくなる毒気あるOLが魅力的。『ユニコーンに乗って』は会社のムードがよく、元気をもらえる作品。『六本木クラス』はリメイクの是非を抜きにして見れば十分楽しめる作品。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。

■おすすめ5作

  • No.1 雪女と蟹を食う (テレ東系 金曜24時12分)
  • No.2 魔法のリノベ (フジ系 月曜22時)
  • No.3 僕の姉ちゃん (テレ東系 水曜25時)
  • No.4 ユニコーンに乗って (TBS系 火曜22時)
  • No.5 六本木クラス (テレ朝系 木曜21時)