何を今さらと言われそうだが、サブスクで恋愛リアリティーショーを鑑賞することにハマっている。テレビドラマオタクではあるけれど、時には他人の恋愛事情を眺めて楽しみたいこともある。小学生の頃、帰宅道で「○○ちゃんって、○○くんのこと好きなんだって!」という噂話に興じていた。あの頃の延長線のような感覚である。

『バチェラー・ジャパン』、『バチェロレッテ』(Amazonプライム・ビデオ)のような、1 人のターゲットへ一斉にアプローチを仕掛けていくパターンもいい。でもそろそろ(個人的に)中年には、このテンションが消化不良では? と思っていた。もう同性とバチバチする元気は減少している。できれば穏やかに心を耕しながら、恋愛模様を感じたい。そんな希望の延長線に登場したのが『未来日記(※)』『あいのり(※2)』(ともにNetflix)である。

※ 番組に選ばれた男女が日記に書かれた通りに行動、お互いの気持ちを育んでいく『未来日記』。TBS系列にて1998年~2002年まで『ウンナンのホントコ!』内でコーナーにて放送

※2 ワゴン車に男女数人が乗り込み、限られた予算で海外旅行を続けていく『あいのり』。フジテレビ系列にて1999年~2009年まで放送

両番組、配信から時間は経過しているけれど、いつ見ても鮮度は落ちていないのがサブスクのいいところ。まずは若かりしあの頃、毎週夢中になって見ていた番組を回顧してみたい。

青春期を引き戻してくれる、平成バラエティに心躍る

  • Netflixシリーズ『未来日記』シーズン2 Netflixで全世界独占配信

『未来日記』といえば、今から約24年前にTBS系列で放送されていた『ウンナンのホントコ!』のコーナー。選ばれた男女が、番組から渡される日記通りに関係を育んでいく。恋愛に発展するのかどうかは、もう二人にしか分からない。このコーナーのテーマソングは福山雅治さんの『桜坂』。若者のみなさま、けして"坂道"の女性グループの曲ではありません。このシングル、実は約229.9万枚も売り上げることのなったヒット作だ。

テーマソングの売り上げと同じように『未来日記』の人気も上昇した。日記という、言葉としては柔和さを感じさせているのに、中に書かれているのは指令である。日記の言うことは絶対。でも少しずつ男女の間に浮上してくる恋心。このそこはかとないもどかしさに、当時悶えていたことを思い出す。

そして同時期にフジテレビ系列で放送されていた『あいのり』。男女数名が異国の地で知り合い、ラブワゴンに乗り込み、低予算で旅行を続けていく。皆、恋愛がしたい若者同士。毎週繰り広げられる小さなラブバトルに、夢中だった。旅が終盤に近づくと行われる告白は、テレビに向かって「あ〜っ!」と一喜一憂。友人と会うと「見ている?」と話題になることが普通だったほど、深夜放送とは思えない人気を博していた。

両番組が現代版となって、令和に復活。配信しているのは、次々にヒット作を仕掛けているNetflixである。この番組だけではなく『ラブ・イズ・ブラインド JAPAN』『トークサバイバー! ~トークが面白いと生き残れるドラマ~』と、多くの恋愛リアリティー番組を制作している。なんだろう、この多さは何か狙いがあるのだろうか? ふと芽生えた疑問を解消するべく、直接日本支社へ向かうことにした。

Netflixに聞いた、恋愛リアリティーショーの往古来今

Netflixの小林みつこエグゼクティブ・プロデューサー

私の図々しい好奇心に対応してくださったのは、Netflixプロデューサーの小林みつこさん。長年、テレビ番組制作に携わり、数々のヒット作を日本に産み落としてきた……いわばエンタメの母である。そんな大物にお会いできるとはと、恐縮しながら質問を進めていく。

――『未来日記』『あいのり』に関しては、四半世紀ほど前に制作されています。当時と比べると、スマホなどのデバイス事情などもだいぶ変わりました。制作されるうえで、苦戦したところがあったのでは? と思うのですが。

「そうですね、例えば『ラブ・イズ・ブラインドJAPAN』では、参加者全員のデバイスもすべて回収をします。一旦、何も情報が見られない状況にしているのです。

現代にはSNSもありますから、参加者たちが相手に向き合うためにも、インターネット上の情報から離れる必要があります。でもこの行為こそ、相対的に見ると参加者にとってとても影響が大きかったです」

――どのような影響があったのでしょうか?

「インターネットで気軽に検索ができない、自分の考えですべて決断していかなくてはいけないという環境からくるものです。ある一定期間離れたことで、良いデトックスになったと参加者から聞きました。

もちろん、参加者には他にも多方面からケアは常に続けています。安心して番組に臨んでもらえるようにするのが一番ですから」

――『ラブ・イズ・ブラインド JAPAN』などアメリカ発の恋愛リアリティーショーを日本に持ち込む……というのは、事前にある程度の数字は見込めると思うのです。私たちには視聴データもありますから、大きな冒険ではない。でもDX化の2番組に関しては、なぜ今なのだろう? と思います。

「視聴傾向やリサーチから、恋愛リアリティーショーを見たいという意見は非常に多かったんですよ。そこで日本の番組を見渡すと……実は『ねるとん紅鯨団(※3)』のように、昔から日本において、恋愛リアリティーショーは人気があったんです。そこからさまざまな番組を掘り下げていくと『未来日記』『あいのり』がありました。

※2 とんねるずが司会の一般人参加によるお見合い番組。フジテレビ系列にて1987年~1994年まで放送

Netflixシリーズ『あいのり』Netflixで全世界独占配信

特に『未来日記』に関してはですが、日記に書かれた通りに男女が行動したらどうなるのか……? という、かなり新規性の高いフォーマット。エポックメイキングのあるものだったという視点がありました。まさに恋愛リアリティーショーの元祖と言える存在ですし、放送当時は大ヒットしていた。それが今、見返しても全然古びていないんです。そういう視点を持って、作品のトリビュートをピックアップさせていただきました」

――今後も恋愛リアリティーショーの配信を増やしていく予定はあるのでしょうか?

「もちろんあります。何を制作していても……そうなんですけど。私たちは自分の生身ではできない経験を、擬似的に(Netflixの)メンバーへ差し出すことができます。何かを見たことで楽しくなったり、参考になったり。と受け止め方は多様ですが、自分はひとりじゃないんだ、ということを実感してほしい。そういう気持ちをいつも念頭に置いています」

――まだ世界ではパンデミックが収束する傾向が見えないのですが、どんな対策を立てながら継続されていくのかを教えてください。

「特に『あいのり』はコロナの影響で、小さなワゴンで、海外で移動をするというのが困難になってしまいました……。でもそこであきらめずに、新しい企画を模索する中で、出会った企画があったんですよ。中心街から離れた場所で、里山の広い空間を利用した『あいの里』という作品です。旅ではなく、共同作業というシチュエーションで大人たちが恋愛を育んでいくんです。

"共同生活"と"関係性を育む"というのは『あいのり』同じですけど、新鮮さは十分に感じられました。制作していくうえでの"器"は時代に合わせて、変えながら、今後も制作を続けていく予定です」

――困窮した状況を逆手に取る、とは素敵です。

「番組作りとは"人に近づいて、触れるもの"です。そしてお互いに心を開いて、距離感を縮めていくものです。それが物理的にできなくなった数年間でしたし、これからも続いていくでしょう。

でもこう考えません? 例えば画面越しのインタビューもすべての製作者においてチャレンジであり、経験のひとつだったと。それにオンライン取材は本来であれば会えないような存在の人も、会うことができるようになりましたよね。そんなふうに視点を転換させて、また新しい作品を届けたいと思っています」


小林さんの話を聞いていると、私たちがまだ見ぬエンターテイメントはたくさんある。そう遠くない将来、自宅のテレビ、PC、スマホ、タブレットで会うことができそうな気がしてきた。コロナによる心許ない日々がまた襲ってきているけれど、楽しめるものはまだまだある。