大人になった和彦の職業は新聞記者だが、内面にとても熱い情熱を秘めている。「和彦は学芸部の記者で、いろんなカルチャーを取材しながらも、いつか沖縄の歴史や文化みたいなものをライフワークにしたいという大きな夢を持っています。もちろん新聞社で与えられた仕事についてはきっちりとリサーチし、取り組んでいきますが、そのかたわらで大きな目標に向かって、地道に経験を積んでいきます」

新聞社のシーンでは、常に少しぴりついた空気を感じるという。「和彦が新聞記者として働いている時代は、社会的にいろんなことが動いた時代で、当時は新聞をはじめ、記事の力が今よりも強かった気がします。何回か新聞社のシーンを撮りましたが、戦場のような空気が常にありました。だからこそ、和彦のように『絶対にこれを成し遂げたい』という強い思いや夢がないと続かない仕事だったのではないかと。和彦も最初は真っ正面からぶつかっていくのでうまくいかず、上司に助けてもらうことも多いのですが、少しずつ自分の目標に前進していっていると僕は思っています」

アメリカ生まれで、生後すぐに日本での生活が始まった宮沢は、幼少期からインターナショナルスクールに通い、近所の子どもたちや環境に馴染めなかった経験も。新しい環境に馴染む難しさをよく知っているという点から、和彦について「自分にすごく近いものを感じました」とオフィシャルコメントを出していたが、実際に演じてみての発見や役との共通点などはあったのだろうか。

「和彦は優しくて穏やかで、人としてすごく愛されやすい人間だと思います。でも一見しっかりしているように見えて、ちょっと不器用なところやドジっぽいところがあって、僕はそういうギャップみたいなところをすごく気に入っています。僕もけっこう優柔不断だし、ちゃんとしているように見えるかもしれないけど、ぼーっとする時もあるので、そういうところは和彦と似ているような気がします」

また、沖縄は幼少期からよく訪れていて、慣れ親しんできた場所のようだ。「初めて行ったのはたぶん3~4歳の時で、年に1回、もしくは1年おきに行っていたこともありました。全部で何回行ったのかは覚えてないですが、少なくとも14~15回は行っていると思います。子どもの頃は海で泳ぐのが楽しかったのですが、大人になってからは、ひめゆり平和祈念資料館など、いろんな記念館などを巡ると勉強になるので、最近はよく行くようにしています。また、ここ1~2年で『ちむどんどん』とは関係のない別の仕事でも沖縄に行く機会があったので、沖縄との縁をすごく感じています」

それだけに、沖縄を描く本作には、特別な思い入れがあると言う。「沖縄にはまだ戦後の傷跡というか、戦前から虐げられてきたつらいものが今もなお少し残っている感じがします。僕は今20代なので、短い時間ではありますが、沖縄の変化というか、沖縄が日本をはじめ世界でどう認知されてきたかという過程をしっかり見てきたつもりです。だから本土復帰50年という記念すべき年に、沖縄を題材にした素晴らしい作品に参加できたことには運命的なものを感じます。僕は沖縄について、人よりは知っているつもりなので、自分の知識に加え、沖縄に対する好奇心みたいなものを常に持ちながら、和彦役を演じていきたいと思います」と力を込めた。

■宮沢氷魚(みやざわ・ひお)
1994年4月24日生まれ。アメリカ・サンフランシスコ出身。ドラマ『コウノドリ」(17/TBS)で俳優デビュー。以後、ドラマ『偽装不倫」(19/日本テレビ)、連続テレビ小説「エール」(20/NHK)などに出演。初主演映画「his」(20)にて数々の新人賞を受賞、また、映画「騙し絵の牙」(21)では、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。映画「グッバイ・クルエル・ワールド」が今秋公開予定。

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