6週連続で放送されてきたフジテレビの深夜バラエティ番組『ここにタイトルを入力』。予想を裏切る企画が週替りで放送されているが、TVer・FODで見逃し配信されている最終回(16日放送)は、フットボールアワー・後藤輝基がMCを務める『真夜中のおしゃべり倶楽部』だ。

事前情報では「豪華ゲストと深夜にお届けする新感覚トークバラエティ! おしゃべり好きなゲスト達による止まらぬトークに目が離せない!」と予告されていたが、ラストに最も“イカれた”番組を放り込んできた――。

  • フットボールアワー・後藤輝基のツッコミがさく裂してそうな『真夜中のおしゃべり倶楽部』 (C)フジテレビ

    フットボールアワー・後藤輝基のツッコミがさく裂してそうな『真夜中のおしゃべり倶楽部』 (C)フジテレビ

■フット後藤を「裏かぶりしたときには遅いんですよ」と押し切る

冒頭は恒例のスタッフによる釈明タイム。今回は、フワちゃんの街ブラロケの撮影データを消失してしまったときと同じ、収録後の報告パターンだ。

スタッフいわく「後藤さんをはじめ結構出演者の皆さんも売れっ子の方々がそろったじゃないですか。収録終わってちょっと思ったんですけど、これ裏かぶり(=同時間帯に裏番組に出演すること)怖いなと思いまして…」とのこと。後藤が「いやいや大丈夫、マネージャーとかちゃんとやってるから」とその心配が杞憂であることを伝えても、これまでロケデータ消失のみならず、ダブルブッキング、コンプライアンス違反、予算ショート、演者への説明不足と罪を重ねてきたスタッフだからか、「裏かぶりしたときには遅いんですよ」と、慎重姿勢を崩そうとしない。

反省を生かすのは良い心がけだが、「なので、ちょっと皆さんがいつ裏かぶりしてもいいように、何とかするつもりではいるので」と、おなじみの“何とかする”が飛び出した。6回目ともなると「待ってました感」すらあるフレーズだが、その解決策とは……。

■姿と声がなくてもそこにイメージできるIKKO

そして、『真夜中のおしゃべり倶楽部』本編がスタート。にぎやかな番組であることが想像できるBGMにタイトルバックが登場したと思った次の瞬間、誰もいないショットに「MC:フットボールアワー 後藤輝基」のテロップが登場した。続いて、ひな壇の4ショットに移るが、そこにあるのは誰も座っていないイス4脚と「後藤さん!」「お母さん整形!」のテロップ。これに、再び誰もいないMCショットで「お母さん整形の情報いらんねん」のテロップが流れた。

ここで今回は、出演者のビジュアルを映さず、声も発さないことで、裏かぶりを解決しようとしていることが判明する。マネキンや着ぐるみを置くという選択肢はなかったようで、聴こえてくるのはBGMと効果音のみ。それは、華やかなテレビショーとは思えない、あまりに不気味で“恐怖”すら感じる光景だ。

番組の趣旨は、スタジオの芸人がスペシャルゲストをおもてなしするというもので、今回のSPゲストはIKKO。もちろんその姿は見えないが、長年にわたって我々の頭の中に蓄積されてきたIKKOイメージが、テロップの文字情報とフォント演出だけで適切に引き出され、不思議なものでそこに存在しているかのような感覚に。まるで声まで聴こえてくるようだ。

ひと通りのやり取りが終わったところで始まるのは、「IKKO解体新書」。IKKOの素顔を徹底取材して、知られざる一面を丸裸にするという。スタジオにいるのはバラエティ百戦錬磨のタレントたちだけあって、すでにこの時点で予告通り「おしゃべり好きなゲスト達による止まらぬトーク」が展開されていた。

発言のたびに飛び交うテロップのおかげで、存在と声がなくても、どんなトークが繰り広げられているかは一目瞭然。しかし、最初に4ショットを映したタイミングで、バラエティ番組に必要不可欠なひな壇芸人の名前テロップを出すことをすっ飛ばしていたため、後藤とIKKO以外の発言者が全く分からないという問題が発生していた。

こうなると、その発言の中身や言葉尻をヒントに、ひな壇出演者が誰なのかを推理する新しい番組の楽しみ方に突入。幸いにして私は、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』で「クイズIKKOの500のコト」を見ていたので、本筋である「IKKOの知られざる一面」をこれ以上知る必要はないと割り切り、集中して臨むことができた。おなじみのギャグや、呼びかける名前で徐々に判明していくので、ぜひエンディングまでに4人コンプリートしてほしい。

  • 発言テロップだけが浮かび上がる画面 (C)フジテレビ

■終盤でこれまでの苦労が台無しに…

本編のツッコミどころに戻ると、IKKOが最近ハマっている美容グッズ・ゴールドマスクを装着していると思われる本人提供写真も、マスクだけが浮かぶ心霊写真状態という徹底ぶり。また、IKKOが還暦であることに対し、姿の“見えない”出演者が発した「(還暦に)見えない」というテロップが画面に浮かぶのは、とてもシュールだ。

高いところが苦手なIKKOのために絶叫マシンの魅力を紹介するよみうりランドのロケVTRでは、そのリポート芸人もビジュアルなしのため、絶叫の声も表情もなければ、動いているものが安全バーに付いたひらひらしかない寂しい画に。一般人に握手を求められるシーンもあり、そこに存在しないリポート芸人と一緒に記念撮影するという謎の光景を見せられた。

後半では刺激が欲しいIKKOの願いを叶えるため、目の前で芸人が催眠術にかかるのを見て、興奮できるかというコーナーが登場。催眠術師・十文字幻斎だけは裏かぶりの可能性なしと判断され本人が登場したが、世の中に「かけられた人がそこにいない催眠術」ほど虚無な時間はないので、要注目。

  • 誰も乗っていない絶叫マシン

  • IKKOは刺激が欲しいらしい

  • (C)フジテレビ

終盤にはいろいろあって、芸人2人がパンイチ姿で相撲を取ることに。あまりに激しい動きに“大事なところ”が出てしまっているようだが、もちろんその姿は見えない。だが、スタッフは混乱してしまったのか、“大事なところ”の持ち主である芸人の顔写真で隠す映像処理をしてしまった。ここまで頑張って裏かぶり対策をしたのが台無しになったが、第2回で「マジックミラー号」の映像を取り寄せる度胸のあったスタッフに、一体何があったのか。

■「テレビのテンプレートを崩して再構築する」お手本のような最終回

改めて、テロップだけで番組内容が理解できたことを振り返り、現在のバラエティ番組の画面が、いかに情報過多であるかを再確認。先日、『ここにタイトルを入力』企画・演出の原田和実ディレクターに取材した際、企画の発想の仕方を「テレビのテンプレートを崩して再構築する」と言っていたが、そのお手本のような回を最後に持ってきたようだ。

また原田Dは、この全6回を「奇数回は人のリアクションを見て笑う回にして、偶数回は逆に完全に制作の作り込みや設定ボケで笑わせる」と、構造の違う番組が交互に放送されるように振り分けたと明かしていたが、最後の偶数回に、視聴者が『ここにタイトルを入力』の姿勢を理解していることを最も信じた番組作りになっている印象を受けた。

これは推測だが、それぞれの発言があまりにリアルだったため、放送で流れるスタジオ映像に出演者の存在は一切ないものの、事前に出演者を入れた通常の収録を行い、その要素を空の画で撮って編集したのではないか。よみうりランドロケが映像から4月26日と確認されるため、スタジオ収録は『ここにタイトルを入力』が何回か放送されている状況。つまり、出演者も番組の特性が分かっているため、このあり得ない出演形態が成り立つのではないだろうか。

  • IKKOはスタジオで生歌も披露していた (C)フジテレビ

これで一旦幕を閉じる『ここにタイトルを入力』だが、深夜ながらSNSで大きな反響を呼び、フジ社内外で高い評価を得ていることもあり、ぜひ「Season 2」を期待したいところ。“分かりやすさ”を求められがちな地上波テレビであるが、次の機会はもっと視聴者を信じて、23時台、そしてゴールデン・プライム帯へと進出し、テレビの可能性を広げてくれることを願いたい。