「才能」というと、「生まれつきの資質」だと考えられがちです。しかし、「習慣を変えたことで人生が大きく変わった」という作家で編集者、そしてミニマリストの佐々木典士さんは、「才能とは、習慣を続けた果てにつくられるもの」だとも語ります。

  • 習慣こそが才能をつくる。モノを捨てた先に見えたもの /ミニマリスト・佐々木典士

その言葉の真意はどういうものでしょうか。佐々木さん自身が実践してきた習慣化メソッドと併せて解説してもらいます。

■やるべきことを習慣に組み込めば、欲しい才能が手に入る

ぼくが自分にとって大事なモノだけを持つ「ミニマリスト」になる前は、モノにあふれた「汚部屋」に住み、掃除や片づけなどやるべきこともできない自分にいらだっていました。 そのいらだちを発散するように、毎晩遅くまで酒を飲むような生活を送っていました。

ミニマリストとなりぼくの生活は大きく変わりました。モノを減らしたことで、それらの管理や掃除といった手間が激減し、自由に使える時間が大幅に増えたからです。そして、その時間に語学学習やヨガといった新たな習慣を組み込みました。

「わたしは、自分がなりたいと思ったとおりの人間だ」といったのは俳優で映画監督のクリント・イーストウッドですが、いまのぼくはそこまではいえなくとも、“自分がこう過ごしたい”と思った毎日を送っています。

ぼくは編集者、作家という仕事柄、「才能」という言葉の意味を考えざるを得ませんでした。才能は「生まれつきの資質」という意味で使われがちですが、ぼくはそうは思いません。

ぼくは「才能」と「センス」という言葉を分けて使いたいと思っています。ぼくが思う才能とは、習得した能力やスキルのこと。センスとは、その能力やスキルを習得するスピードのことです。同じことを学んでも、センスがある人はたしかに周囲と比べて早く習得することができるでしょう。

でも、たとえセンスがなかったとしても、才能を習得するための学びや行動を習慣にできたらどうでしょう? センスがある人に比べて時間はかかるでしょうが、それでもいつかは才能にたどり着くことができると思っています。

■習慣とは「考えることなくできる行動」

たとえばぼくは、2019年から英語の勉強をはじめました。当時もいまも、英語のセンスはないと自覚しています。ただ、勉強をはじめて以降、語学学校を卒業したいまも毎日のようにオンライン・レッスンを受け続けています。

先日ためしにTOEICを受けてみたところ、得点は930点で、一般的には高得点とされるところには達しました。センスはぼくにはない。それでも英語の勉強を習慣にして続けると、ある程度の才能に達することができたのではと思います。

習慣とは、ぼくの考えでは「あまり考えずにする行動」です。たとえば歯磨きをするときに「今日はどの歯から磨こうか」などと考える人はいません。考えることなくいつものように同じ歯から磨きます。

目指す目標はそれぞれだと思いますが、そこに至るまでに必要な学びを、特別に「今日は頑張るぞ!」と意気込むことなく、習慣としてそれこそ歯磨きのようにできるようになれば、目指す結果や目標に達しやすくなるというわけです。そして、そうした毎日の習慣によってつくられるものこそ、「才能」なのだと考えています。

■なにかをやめなければ、新しいことははじめられない

習慣化の方法を解説しましょう。ぼくは、『ぼくたちは習慣で、できている。[増補版]』(ちくま文庫)という著書のなかでは習慣化を55のステップにわけて解説しました。ここではスペースの関係でとくに重要な5つのステップを紹介します。

【習慣化の5ステップ】
1.やめることを決める
2.まずは「キーストーンハビット」から
3.「やる気はやる前に出ない」と知る
4.やることのハードルを下げる
5.毎日やる

最初のステップは「やめることを決める」です。わたしたちは誰もがなにかの習慣をこなしながら1日24時間を過ごしています。そこに新しい習慣を入れようと思うなら、いま行っていることのうちなにかをやめなければなりません。

なにをやめるべきでしょうか? ぼくは、「自分の子どもに習慣にしてほしくないもの」をやめることをすすめています。子どもがいないという人も、親戚や想像上の子どもをイメージして、その子に習慣にしてほしくないものを考えてみてください。

人はなにかを悪習慣だと思っていても、多くの場合はストレス解消に必要だとか言い訳しながらつい続けてしまうものです。でも、「子どもがそれを習慣にしたら嫌だな」と感じたら、その悪習慣のデメリットに気づいているということ。まずはその習慣を、自分から遠ざけるのです。

■他の習慣の習慣化を促す「キーストーンハビット」

ふたつ目のステップは、「まずは『キーストーンハビット』から」です。キーストーンハビットとは、日本語にすると「要の習慣」となり、「他の習慣を習慣化しやすくする習慣」を指します。たとえば、「早起き」をキーストーンハビットとして習慣化できれば、朝の時間に余裕ができて勉強や運動も習慣化しやすくなるといった具合です。

一般的には、早起きの他、運動、日記といったものがキーストーンハビットとして挙げられますが、ぼくからは「片づけ」をすすめます。

たとえば、つねに部屋が片づいていて綺麗な状態だと、ヨガをしようと思ったときにはすぐにヨガマットを広げられます。ジムに行こうと思っても、ウェアがたくさんの服に埋もれていたら、そこでやる気もなくなってしまうかもしれません。部屋が片づいていることは、いろいろな習慣づくりに万能に効くと思っています。

「やる気はやる前に出ない」ということも知っておいてほしいと思います。

脳のなかでやる気を司るのは「側坐核」という部位ですが、この側坐核はただ待っていても働かず、実際になにかをはじめることで活動するそうです。やる前には面倒だと思っていた作業も、いざ取りかかってみると意外なほどはかどることがあるのは、側坐核のこの特性によるものです。

習慣化したいことがあるのなら、やる気を待つのではなく「まずやる」ことを心がけましょう。まずはじめることで、側坐核の働きで自然とやる気が湧いてそのことを継続できます。

■行動に移すハードルを下げて、毎日やる

そして、「まずやる」ために、手をつけやすくするためには、「やることのハードルを下げる」ことを考えてください。

ぼくがジムで運動をすることを習慣化したときには、とにかく家から近いジムを選びました。どれだけ設備がそろったジムがあったとしても、遠ければ面倒に感じて通わなくなる可能性が大きいからです。履いていく靴のひもは結ぶ必要がないゴムひもに変える、ジムバッグも開け閉めがしやすいトートバッグにするなど、ジムに行くまでの工程をなるべく簡単にできるように工夫しました。

そして最後に、「毎日やる」ことをすすめます。なにか習慣を身につけようとするとき、「はじめは週1、2回からはじめて徐々に増やしていこう」と考える人も多いと思います。でもそうすると、「今日はやらなければいけない日だっけ?」だとか、「今週はできなかったから、来週はやる日を増やそう」というふうにあれこれと考えることが増えます。

つまり、「考えることなく行う」という習慣とは、真逆のことをしているわけです。これではなかなか習慣として定着しません。「毎日やる」と決めておけば、考える必要はなく、特別な決断をしなくてすみます。少ない頻度からはじめるのはむしろ難易度が高い方法だとぼくは考えています。頻度は習慣になってから、適切に下げるのがおすすめです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹