脚本家の八津弘幸氏が、東海テレビ・フジテレビ系ドラマ『クロステイル ~探偵教室~』(毎週土曜23:40~ ※30日は23:55~)の誕生秘話や後半戦の見どころを語った。

  • 鈴鹿央士=東海テレビ提供

探偵学校を舞台に心の謎に直面することで成長する探偵の卵たちを描く同作は、『半沢直樹』や『おちょやん』などを手掛けた脚本家の八津氏が10年前に書き上げた作品。生徒たちの入学動機や過去など、それぞれの事情が少しづつ明らかになり、物語は後半戦へ。第4話では、「男なんてバカ!」が口ぐせの純子(篠田麻里子)の過去が明らかになる。

八津氏のコメントは以下の通り。

――10年経っても「探偵学校がイケる」と思った理由は?

この10年間でミステリーものとして探偵を描いた作品はあっても、探偵学校をきちんと描いている作品が意外となかったこと。だからこそ「本当の探偵の仕事ってどういう感じなんだろう?」と興味がより湧きました。実際にドラマ制作でご協力いただいた探偵会社の方々に話を聞くと「浮気調査が9割」とか「へー!」という驚きが結構あったし、警察が解決できない部分を解決する探偵という仕事は普遍的で、今だからこそみんなが興味を持てるんじゃないかという気もしたんです。

人間誰しも人に言えない秘密や悩みを抱えている中で、SNSの発達があり、それこそ暴露系YouTuberなど、秘密だったことを公にされたり、それを知った人が完全な悪のようにその人を叩いたりする現状がある。「それってどうなんだろう?」という問いかけになるし、そういう人の弱さを救えるドラマになるといいなと思いました。あくまで僕の中での裏テーマとしてですけどね。

――キャストについて教えてください。

僕は意外と俳優陣を知らないので、キャスティングはほとんどお任せだし、その人をイメージして書くこともないんです。鈴鹿央士くんに関しては、ドラマ『ドラゴン桜』の印象が強く、匡のイメージとかけ離れていたので、「上手くハマるのかな?」と思ったのが、最初の正直な気持ちです。でも実際に出来上がったものを拝見したら芝居がすごくお上手で、最初のイメージと180度変わって「本当に鈴鹿くんで良かったな」と思いましたね!

朋香役の堀田真由さんは、いろんな作品に出てらっしゃるのも知ってはいたけど、お芝居を見たことがなかったんです。今回のドラマは匡と朋香の掛け合いが見どころの1つだし、実は朋香ってお芝居で表現するのが難しい役。そこを堀田さんは表情1つで器用に表現してくださって「やっぱり売れている人ってこういうことか!」と感心しました。「キャスティングしていただけてラッキー!」と思いましたね。

檀れいさんは、以前もご一緒したことがあり、その時、密かに「脚本的に、もっとこの人をイジってもいいんじゃないか」と思ったんです。ただその時はそこまで出来なくて、今回、校長はキーとなる役だから最初から役のイメージはあったけど、檀さんに演じていただけるとなって、より拍車がかかりましたね(笑)。変装しかり、怒らせたら怖いキャラしかり、檀さんも楽しんで見事にやってくださっていたので、僕としては脚本家冥利に尽きます。檀さんのおかげであの役が本当にイキイキしましたよね!

迅平役の板尾創路さんは『おちょやん』の時も思ったのですが、独特の雰囲気と深みのあるお芝居をする役者さん。僕は早回しのイメージでセリフやシーンをテンポ良くワーッと書くところがあり、全部同じテンポになりそうなところを、板尾さんのお芝居がアクセントとなってメリハリが出る。今回も“板尾節”で僕の書いたもの以上の雰囲気を醸し出して作品のバランスを良くしてくれていますね。板尾さんには全幅の信頼を寄せ「好きにやってください」という感じです(笑)。

――“お気に入りのセリフ”は?

まずは第1話で父・迅平が匡に言った「お前なら世界を救える!」。一見大げさな漫画的なセリフで、何言ってんだって感じですが、匡だけじゃなくて、誰しもがじつはその可能性を秘めていて、小さなことが気付かないうちに、そういう大きな力に繋がっていることもあるんじゃないかと、そんな思いも込めて書きました。もう1つも第1話で、檀さん演じる校長が生徒たちに言う「警察が事件を解決するなら、探偵は依頼者の悩みを解決する」というもの。ドラマの核になっているセリフだと思っています。

――主人公の名前やドラマのタイトルは、どのように?

僕、名前を決めるのが大の苦手なんですよ(笑)。余裕がある時は姓名判断の本を見たり、こだわる時は「大吉画」など画数まで見て作りますけど、今回の主人公・匡は僕のアシスタントがつけてくれたんです。実はドラマのタイトルも(笑)。もちろん僕も探してはいましたが、アシスタントが3つ候補を挙げた中に『クロステイル』があり、1番良いと思ったんですよ。「リスクを省みず近接尾行する」という意味を持つ探偵用語だったので、ドラマにどう落とし込むかという点では大変でしたが、響き的にはすごく良いし……だからもう本当に優秀なアシスタントのおかげです(笑)!

――脚本を書く中で大事にしていることは?

月並みですけど、視聴者が楽しめるかどうか。もちろん自分の書きたいことを、そこにすり合わせていくんですけど、常に「これって僕は面白いと思っているけど、視聴者は本当に面白いと思うのかな?」と自分の中で検査をしている。それはセリフ1つとってもそうなので、書くのがすごい遅いんですよ(笑)。あと、いかにお客さんを良い意味で騙していくかも意識します。とにかくまずは楽しんでもらって、見終わった後に1つでも前向きな答えが見つかるような作品にできたらいいな、という思いで脚本を書いていますね。

――ちなみに、ご自身はSNSをよくチェックする?

つい気になってエゴサーチしちゃうんですが、意外と打たれ弱いので「ヤバイ!」と思ったら、すぐ見るのを止めます(笑)。あとすごい先まで展開を予想する方もいて、それが僕の考えていることよりも面白かったりすると、感心しますし凹みますね(笑)。本作はストーリー上、謎はあっても実はそこがメインじゃなくて、探偵自身の人間像を描いているので、その辺が視聴者にうまく分かってもらえるとうれしいですね!

――最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。

今までは探偵の卵たちの成長を描く“探偵学校の話”がメインでしたが、後半になるほど“父親失踪の話”が前面に出て来て、その2つが両輪となって走っていく感じになっています。深夜の放送ですし、とにかく楽しんで「へー!」って驚いたり「探偵って面白い!」と思ってもらえれば良くて、見終わった後にちょっとだけ心に何か残っているものがあればいいかな、という思いで書きました。

あとは「探偵になりたい」と思ってくれる人が増えたら、僕としては「してやったり」な感じです(笑)。