8日から、Netflixで映画『夜叉-容赦なき工作戦-』の配信がスタートした。諜報活動が盛んな中国・瀋陽を舞台に、ソル・ギョング演じる“夜叉”と呼ばれる無情な男・ガンインと、パク・ヘス演じる検察官・ハン・ジフンが出会うことで、近隣諸国のスパイも絡む危険な極秘工作に挑むスパイアクション映画だ。

同作に、日本人俳優としてアジアでも活躍の場を広げている池内博之が出演。最強のスパイ・オザワを演じ、不気味な怖さを見せる演技や見事なアクションを披露している。そんな池内に同作の魅力、日本映画界の行く末や自身の目指す役者像について聞いた。

  • 俳優の池内博之 撮影:島本絵梨佳

    俳優の池内博之 撮影:島本絵梨佳

■外国語のセリフも「感情を乗せていかないと芝居にならない」

――息もつかせぬアクションシーンとリアルなスパイ戦が描かれており、スピード感のある展開に引き込まれました。

ありがとうございます。舞台もリアルですし、アジアを中心にしたスパイ映画ってあまりなかったと思うので、そういった意味では新しいですよね。特に今は日本映画もですが、原作があるものが多い中で、今作は監督の完全オリジナル脚本なので、そこも魅力かなと思います。

――確かに緻密なシナリオが2時間で収まっていて見応えがありました。また、アジアを舞台にした作品ということで、作中では複数の言語が使用されていましたが、演じる上で難しさはありましたか?

僕の演じたオザワは、表向きは日本の公安庁のロビイストですが、実は冷酷なアジア最強のスパイ。なので、日本語のほかに、中国語、英語、そして韓国語を少し話しています。中国語に関しては以前の作品で話す機会があって、1年間学校に通っていたので、今回はそれが結構役に立ったというか、すんなりセリフも頭に入ってきました。一番苦労したのは、その中だと英語かな……。オザワのキャラクターをイメージすると、もっと流暢に話せたらよかったのになぁ~と思いますね。撮影のときは、そのレベルまで持っていくことができなかったので、今後の課題です……(笑)。

アジア含め海外作品は、英語でのお芝居がほとんどマストになりますし、外国語のセリフを覚えてきれいに発音するのはもちろん、そこに感情を乗せていかないと芝居にならない。いかにその言葉に重みをもたせるか、イメージを持たせるかっていうところが難しいです。

だから今作でいうと僕が、ソル・ギョングさん演じる夜叉ことガンインと敵対する役どころだったので同じシーンでは、ソル・ギョングさん、パク・ヘスさんも日本語のシーンがあったので大変だったと思いますよ。現場でお二人から「これ大丈夫? あってる?」とか聞かれたりもしました。

■パク・ヘスは「とにかくヒョン! ヒョン! って(笑)」

――特にソル・ギョングさんはかなりの分量の日本語セリフで苦労したと完成披露会見でもおっしゃっていました。ソル・ギョングさん、パク・ヘスさんとは初共演でしたが、いかがでしたか?

お二人とも素晴らしい俳優さんですし、他の出演作も拝見していたので光栄でした。ソル・ギョングさんは、すごく寡黙な方なんですよ。現場でもベラベラ話すタイプではなく、静かにいるイメージ。まさに演じていたガンインに似た雰囲気で、一見近寄りがたいというか。でも話しかけるとすごくフランクなんです。

逆にパク・ヘスは、僕のことを「ヒョン」(韓国語で男性が年上の男性に対して使う呼び方)って呼んでくれて、よく話しましたね(笑)。日本の作品を結構観ているみたいで、僕が以前出演したドラマとか作品を若い頃に観ていたと教えてくれました。とにかく「ヒョン! ヒョン!」って話しかけてくる(笑)。嬉しかったですね。現場もすごくやりやすかったです。初めましての方だけではなくて、二度目の方もいらっしゃったので、いい雰囲気でできたのかなと思います。

■縁が繋いだアジア進出

――今作を含め、『イップ・マン 序章』以降、アジア映画にも出演されていますが、進出しようと思ったきっかけはあるのでしょうか?

特に意識していたわけではなく、単純に『イップ・マン 序章』のお話をいただいて出演したんです。ただ、この作品は香港電影金像奨最優秀作品賞を獲って、中国で興行収入1位を記録したりしてすごく反響があった。その後から、中国だけじゃなくアメリカに行ってもヨーロッパに行っても『(イップ・マン)出てただろ?』と言われることが多くて(笑)。一番驚いたのが、ハワイの山奥に行ったときに多分現地の若いお兄ちゃんに「あ!」って気づかれたんです。ここでもか! ってさすがに驚きましたね(笑)。

――ある意味、アジアだけでなく世界に展開していった。

欧米の人もアジアの作品も結構みんな観てるんですよ。そうやっていろんな方に観ていただいて、そこからのご縁でアジア作品に何作か出演させていただいたという感じ。本当に縁ですよね……。多分『イップ・マン』に出ていなかったら、今も海外作品に出ることもなかっただろうし、お話をいただくこともなかったと思います。