■台本が最後までない中国式「分からない中で悩んで積み上げていく」

――多数の海外作品に出演した池内さんから見て、日本映画と海外映画では大きな違いはあるのでしょうか。

基本は同じですけど、中国作品だと台本がラストまで書いてなかったりするんです。中盤くらいまでは台本があるんですけど、それ以降は大まかな流れだけ説明されて、セリフも撮影の前日にもらって。監督から「明日のシーンここはこういう感じで~」と説明を軽くされて「よろしく~!」みたいな感じ(笑)。

――1日分のセリフだけだと、全体像をつかむのが難しそうですね……。

ストーリーの流れ上、ある程度の落としどころはわかっているので、あとはどういうシチュエーションで、どういうセットでとか雰囲気が分からないくらい。でも役としては、もちろん未来のことなんて分からないじゃないですか。変に知ってしまうと意識してしまう部分もあるし、分からなくていいんです。その瞬間瞬間、分からない中で悩んで積み上げていくので、そういった意味では撮り方としては正しいのかな、とか思います。だから、基本順撮り(物語の進行通りに撮影していくこと)の方が多いんですよ。

――なるほど……確かにその世界に生きている役が、先のことを分からないのは当然ですよね。日本だと撮影のスケジュールも海外に比べてかなりタイトで、まとめて撮ってしまうことも多いと聞きます。

やっぱり限られた時間のなかで撮影しているので、そういうときもありますよ。印象的だったのは、映画『智歯(おやしらず)』。後半ほとんど知らなかったですね……(笑)。どうなってくのだろうと思いながら、役として素直な反応で演じました。

■日本映画の現在地とは

――演じる側だからこそわかる面白い違いですね! また、3月に開催された第94回アカデミー賞で、日本映画『ドライブ・マイ・カー』が国際長編作品賞を受賞するなど注目を集めていますが、どういう印象をお持ちですか?

すごいじゃないですか! 素晴らしいことですよ。最近だと韓国映画が『パラサイト 半地下の家族』などで世界に一躍注目されている中で、日本映画が評価されたっていうのはすごいことですよね。もっとこれを機に日本の作品に注目が集まれば嬉しいですし、観てもらえたら嬉しいです。いいニュースですよ。

――それこそ『パラサイト 半地下の家族』に続いて『ドライブ・マイ・カー』が注目を集めると、日本だけでなくアジアという大きなカテゴリーが盛り上がりを見せそうです。

才能ある監督さんや役者さんがたくさんいらっしゃるので、どんどん注目が集まるといいですね。また新しい才能も次々に世に出てくるだろうし、楽しみです。

今回の受賞で、作品だけじゃなくて役者さんもフィーチャーされて、どんどん世界への間口が広がっていくのは個人的にもすごくいいことだと思います。やっぱりまだまだ、世界から見るとアジアで一括りにされてしまいがちだと思うんです。ハリウッド映画で、日本人役なのに役者さんが日本人ではない作品とかあるじゃないですか。やっぱりそこで変に引っかかってしまうと、作品に入り込めなかったり、質が下がることにも直結してしまう。なのでこれから日本人キャストにもスポットが当たって“日本人俳優”としてちゃんと評価されると嬉しいです。

■ライフスタイルの確立が役者としての成長に

――では、最後に池内さんが役者として目指すところをお聞かせください。

今まで通りやっていきたいです。舞台に関しては、年1回とかで、映像の作品もやっていきますし、もちろん、またご縁があれば海外の作品も出ます。でもなかなかやりたいからといって出来るものでもないので、さっきも言ったように“縁”ですよね。これからもどういうめぐり合わせがあるのか、楽しみにしたいです。

また、『夜叉』が公開されて、いろんな方のもとに届いて、別の作品に繋がれば嬉しいです。世界のいろんな場所で作品は生まれているので、どこがどうつながるかわからないですからね。僕自身、「絶対ハリウッドに行ってやるぞ!」とも「アジアだけでやろう!」とも思っていないので、縁あってつながった作品、出会った作品に一個一個向き合って、残していくことしかできないですし、そういう仕事だと思ってます。

あとは仕事人間にならず、自分のライフスタイルを確立していくことも俳優として大事だと思うんですよ。僕でいうとYouTubeやInstagramでライフスタイルや趣味の畑とかキャンプとかを気ままにやらせてもらっていて。例えば畑づくりもそうですけど、スーパーに行けば野菜は簡単に手に入るけど、そこまでのプロセスを知ることで物の価値とかありがたみとかも感じる。自然と向き合う大事さとか感謝することとか、そういうことを意識しながら生きていくって簡単なようでなかなか難しいことですが、それがまた人生の厚みにもなるはず。直接的に仕事に生きるかどうかはわからないけど、深み、厚みのある人間になることが役者としての成長にもつながると思います。あとは、そういう僕の素の部分とかを見てくれて、「池内って意外とこういう感じなんだ」って思って、今回のオザワみたいなクールな役だけじゃなくて、面白いオファーがきたらいいなあ!という気持ちもあります(笑)。

■池内博之
1976年11月24日生まれ。茨城県出身。モデルとして活動した後、1996年にドラマ『東京23区の女』で俳優デビュー。2008年『イップ・マン 序章』を皮切りに国内のみならずアジア映画にも多数出演。また、自身のYouTubeチャンネル『池内博之の池channel』では畑づくりやキャンプなど自身の趣味を楽しむ姿を披露している。