現在ヒット中の映画『チェリまほ THE MOVIE』。豊田悠氏による同名人気コミックを実写化した同作は、「触れた人の心が読める魔法」を手に入れた冴えない30歳のサラリーマン・安達清(赤楚衛二)と、社内随一の人気者で仕事もデキる同期・黒沢優一(町田啓太)の恋模様を描く。テレビ東京の木ドラ25枠で『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』として放送されると深夜枠にも関わらず注目を受け、海外人気も爆発することとなった。

今回はドラマの企画から同作を手がけた、テレビ東京の本間かなみプロデューサーにインタビュー。作品を届ける上で気をつけたことについて、話を聞いた。

■脚本家・監督と共有していた思い

――映画版では、安達と黒沢が恋人であっても「何かあった時に連絡が取れない」といった、実際に現実に同性愛者の方々に起こっているできごとも描かれています。「そういった状況はおかしい」という声がさらに高まっている現実の状況と、映画がリンクしているところがあると思ったのですが、そういう意識はされていましたか?

本間かなみプロデューサー

今、映画としてやる意義は考えていました。性的マジョリティに保障されていることが性的マイノリティには保障されていないこと、選択肢に大きな偏りがあることは、人権の侵害だと思います。昨今、そこに対する問題意識は高まっていますが、当事者以外で危機感をもってアクションを起こす人は限られているようにも感じます。

そんな中で豊田先生の描く原作には、性的マイノリティの方々の当然の人権が当たり前に守られる社会にしていきたいと読んだ人に強く思わせるような、希望の力が秘められていると思うんです。BLというエンタメの中に、切実な祈りや信念が宿っているようなパワーを感じます。だから今、映画を公開するのであれば、その力を映画でも発揮してこそだと思って、そういった観点から監修していただける方々にも入っていただいて、作っていきました。

――ドラマの時に町田さんが、当事者の方の状況に思いを寄せながら、恋愛作品としての良さについても語られていて、すばらしいなと思いました。そういう感覚は皆さんで共有されていたのでしょうか?

町田さんのスタンスはもともと町田さんが持たれていたもので、私も取材などで考えを聞いていていつも尊敬しています。私が脚本家さん・監督と共有していた思いとしては「BLの地続きの世界には、実際に今を生きるLGBTQ+の方々がいらっしゃる」ということでした。

だから、安達と黒沢の恋を描くにしても、ただ在るものとして描きたいと思っていました。誰を好きになろうと、恋愛しようがしまいが、個人のアイデンティティに関することは本来、否定も肯定も、他の誰かに言及される必要のないものだと思います。現場の演出でも、茶化したりジャッジするような演出に見えないかどうかは、気を付けて見ていた部分でした。

――そういう考えはどうやって共有されていたんですか?

個々のスタッフの皆さんと改めてお話をするということはないんですが、現場で舵を取る風間監督と密にコミュニケーションをとっていたことが大きかったと思います。そして、その監督が現場スタッフとコミュニケーションを取っていく中で、伝えていく。

例えば、ライティングやカメラワークなどで「このシーンの意図はこうだからこの撮り方が良い」「こういう見え方になってしまうことはしたくない」とか。そういう一瞬一瞬の積み重ねで作品のスタンスができたのは、技術チームがキャリア関係なく、寄り添ってくださる方達だからこそ成り立ったんだと思います。波紋のような感覚です。

――そういう現場になっていたというのはすごいことですね。改めて作品について注目ポイントも教えてください。

ドラマをご覧いただいていた方々にとっては懐かしさで笑っていただけたらいいなと思って作ったシーンがいくつかあるので、楽しんでいただけたら嬉しいです。ドラマをご覧いただいたことのない方にとっても、安達のチャーミングさや、一歩踏み出す時の心が躍動する様子にぜひ注目していただけたら。そして黒沢の様子のおかしさや、安達ファーストの切実で一途な恋心といった、ドラマの時に見てくださった方々が『チェリまほ』の魅力だと感じてくださったところは映画でも描いているつもりなので、初めての方にも楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。

■本間かなみプロデューサー
2022年テレビ東京入社。これまでのプロデュース作品はドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』『うきわー友達以上、不倫未満―』。

(C)豊田悠/SQUARE ENIX・「チェリまほ THE MOVIE」製作委員会