BPO青少年委員会は15日、「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」に関し、「青少年の共感性の発達や人間観に望ましくない影響を与える可能性がある」とする見解を示した。同委員会では、バラエティにおける同様の見解を2度にわたり出してきたが、15年ぶりに示された今回はこれまでと何が違うのか。

■「番組の多様性を失う」「いじめは家庭のしつけの問題」という声も

BPOの事務局がある千代田放送会館

BPOが発足する前の「放送と青少年に関する委員会」は2000年11月、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ)のコーナー「しりとり侍」に対し、「大勢で一人を叩き、仲間で笑いものにする場面はいじめの形にきわめて近いものがあり、こうしたシーンを繰り返し放送することは、暴力やいじめを肯定しているとのメッセージを子どもたちに伝える結果につながると判断せざるを得ない」とする見解を公表。これを受け、同コーナーは打ち切られた。

それから7年が経過した2007年10月には、「罰ゲーム」に代表される「出演者の心身に加えられる暴力・性的表現」に関し、「青少年の人間観・価値観を形成するうえで看過できない」として、NHK・民放連加盟放送局に、遺憾の意を表明。7年前に出した委員会の要望が「遵守されているとは言い難く、改めてさらなる検討を要望したい」と訴えた。

それから14年が経ち、昨年夏から再び審議することになったのは、視聴者やBPOの中高生モニターから、出演者に痛みを伴う行為を仕掛け、苦痛を笑いのネタにする番組について、「不快に思う」「いじめを助長する」などの意見が継続的に寄せられているからだった。

一方で同委員会は、これまでBPOが出してきた見解などに、「テレビがつまらなくなる」「家庭の教育の問題」といった意見、今回の「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」の審議に対しても、「BPOの規制により番組の多様性を失う」「表現の自由の範囲内の内容だ」「いじめは家庭のしつけの問題」などの声が寄せられていることを認めた。

それでも、「今なおテレビが公共性を有し放送されることは、権威を伴って視聴者に受け容れられているといってよい社会状況のなかで、暴力シーンや痛みを伴うことを笑いの対象とする演出について番組制作者に引き続いて検討を要請するために、この見解を示すことにした」と決意表明している。

■「暴力シーンと“いじめ行動”の関係性」断定できなかった2007年

ドラマの暴力シーンや格闘技が問題視されないのはなぜかという声に対しては、「幼少児を除いては、両者の了解のもとに行われる一種の演技であることが明白」とする一方で、「近年のバラエティー番組の罰ゲームやドッキリ企画は、時として視聴者へのインパクトを増すために、出演者の間では了解されていたとしても、リアリティー番組として見えるように工夫されている」「中高生モニターの高校生の中には、制作者と出演者の間の了解を理解している例も見られるが、視聴者が小学生の場合は、作り込まれたドッキリ企画をリアリティー番組としてとらえる可能性は高い」と危惧。

その上で、今回の見解は“他人の心身の痛みを嘲笑する”という2つの具体的な事例(※)を示し、2007年の見解で憂慮した「人間を徒らに弄ぶような画面が不断に彼らの日常に横行して、彼らの深層に忍び込むことで、形成途上の人間観・価値観の根底が侵食され変容する危険性」を指摘した。

(※)…「刺激の強い薬品を付着させた下着を、若いお笑い芸人に着替えさせ、股間の刺激で痛がる様子を、他の出演者が笑う番組」「深い落とし穴に芸人を落とし(ここまではドッキリ番組の定番であるが)、その後最長で6時間そのまま放置するというドッキリ番組」

ただ、2000年の見解では、「青少年はしばしばテレビ放送の内容が、社会的に肯定されたものであると捉え、テレビから社会規範を学習する」と明記していたが、その科学的裏付けには言及していない。2007年の見解でも、「放送される暴力シーンと、未成年者の“いじめ行動”との直接的な関係に関しては、多くの調査研究があるが、いまだ確定的な結論が見いだされていない」と、その関連性を断定できなかった。

それが今回、「“他人の心身の痛みを嘲笑する”演出が、それを視聴する青少年の共感性の発達や人間観に望ましくない影響を与える可能性がある」と指摘しているのは、近年の発達心理学と脳科学の進歩によって、人の社会性や情動性の発達に関わる脳内活動についての理解が深まったからだという。

子どもは「他者が慰められたり苦痛から解放されたりするシーンを見ること」で、自分自身も解放され、自然と他者の困難を助けようとする共感性を発達させていくが、ドッキリ番組で「苦しんでいる人を助けずに嘲笑する」シーンは、子どもの中に芽生えた共感性の発達を阻害する可能性があることが否めないと説明。特に、他人の心身の痛みを嘲笑している人が、子どもが敬愛し、憧れの対象である芸人である場合、その影響はさらに大きなものになるとしている。

■すでに「痛みを伴わない笑い」意識の流れも

今回の発表文の最後には、「番組制作者がテレビの公共性や青少年に与える影響を真摯(しんし)かつ謙虚に受けとめながら、今後もさらに表現に工夫を凝らしてバラエティー番組の楽しさを深め、広げていくことを期待して、本見解を出すことにした」と結んでいる。

見解の中で事例に出されたのは、いずれも現在放送中のゴールデン・プライム帯の人気番組だ。すでにこの審議が始まった昨年夏頃から、「痛みを伴わない笑い」がネタ出しで求められるようになった番組の話も聞くが、今回の見解が今後どのように制作現場に影響していくのか、注目したい。