仕事のスキルがない新人時代は「指示待ちになる」「着手に時間がかかる」「タスクが多すぎて混乱」といった事態に陥りがちです。

  • 10秒アクション! あなたの行動をスイッチオンする方法 / メンタルコーチ・大平信孝

こうした状況を打開して、仕事の初速をアップするための方法について、目標実現の専門家で「行動イノベーション」を提唱するメンタルコーチの大平信孝さんに伺いました。

■「仮決め」「仮行動」でよしとする

何かを始めようとしても自分で何かと理由を付けて一歩踏み出せなくなる「行動ブレーキ」は誰しもが持っているものです。例えば慎重すぎるために「まだ自分には実力が足りないから今はムリ」「まずは計画を立てて準備してから」と考えすぎて動けない場合。

本来、最初の段階は経験値を積むために行動の「量」を意識することが大切なのですが、頭で考えすぎると、どうしても失敗しないよう「質」の担保に目が行き、一歩も前に踏み出せないということになりがちです。

そんな時にお勧めしたいのが「仮決め」「仮行動」です。「仮」という言葉でフットワークを軽くして、最初はちょっと慣らし運転で、少しラフに鉛筆書きで描くような感じで動いてみます。

例えば「筋トレを始めたい」なら、まずは「動きやすい服に着替えてストレッチを始める」といったことからで大丈夫。そういう新しい行動パターンを意識することで、「私はちゃんとやらなければ」「ミスなくやらなければ」「失敗したくない」、「恥をかきたくない」といった行動ブレーキも少しずつ外れてくるはずです。

■「10秒アクション」でハードルを極限まで下げてみる

「資格試験の勉強を始めたい」「地方へ移住したい」など新しいことが始めたいと思っても実際に行動に移せる人は限られています。前述の「仮決め・仮行動」をしようと思っても体が動かない人は、さらに最初の一歩のハードルを極限まで下げるようにします。

具体的にはまず試しに10秒でできることから始めてみるのです。私はこれを「10秒アクション」と呼んでいます。例えば勉強なら「テキストを検索する」「テキストを開く」、地方への移住なら「候補地を挙げてみる」「移住した知り合いを書き出す」などです。

10秒アクションで失敗する人はいません。失敗しないからこそ、その後の行動につながりやすくなります。実はこの10秒アクションの効果は、科学的にも証明されています。人間の脳は、生命維持のためできるだけ変化を避け、現状を維持しようとする防衛本能が働いています。

その一方で、人にはほんの少しの変化なら受け入れることができる「可塑性」という性質もあります。脳科学における「可塑性」とは、性格や行動特性が日ごろの訓練やしつけによって変化することです。「まず動く」ことでやる気は後からついてきます。

■行動に初速をつける「朝一コマンドメモ」

日々のアクションにフォーカスしてみると、1日の始まりの朝、仕事が乗ってくるまでに時間がかかるという人もいると思います。仕事の着手に時間がかかる理由は、やることが決まっていないためにタスクを想い出したり、具体的作業に落とし込んだりするうちにすぐ15分、30分と過ぎていくからです。

これを回避するためには、前日のうちに翌日朝一番にやるべきことを決めてメモしておくことが有効です。私はこれを「朝一コマンドメモ」と呼んでいて、できれば3つぐらいのアクション(資料を集める、企画を立てる、見積りを作成するなど)を用意します。

1つを試してみて気分が乗らない時は、別なアクションに移行します。また、お昼休憩から戻ってきてコーヒーを飲んで、ヤフーのニュースを見て…とやっているうちに、気づいたら30分時間が経っちゃったなんてことはないでしょうか。

これも休憩に入る前に「戻ってきたら、最初に○○しよう」というメモを付箋に書いて机に貼っておけば、5分程度の慣らし運転で通常業務に戻れます。視覚情報として見えるところに置くだけで、人は反応しやすくなります。

オフィスで仕事中に声をかけられたときや、電話がかかってきたときにも「終わったら○○をする」というメモを自分へのメッセージとして残して置くとリスタートが容易になります。

■リモートワークでの仕事スイッチオンは?

職場によってはリモートワークが中心になっている場合もあると思います。ふだんくつろいでお酒飲んだりする空間で「さあ仕事」というのは、なかなか切り替えが難しいと思います。

できればご自宅の中でも日常的にくつろぐ場所とバリバリ仕事をする場所は分けた方がいいでしょう。そうはいっても、部屋数は限られています。ダイニングテーブルであれば、食事と仕事で、座る場所を変えてみてください。見える景色が変わるだけでも切り替えしやすくなります。

私は執筆時には近所の喫茶店を使っていますが、タスクごとに場所を変えるのも有効です。喫茶店には執筆に必要なもの以外は持っていきません。そうすることで執筆に集中できます。

同じ場所で同じことをすることで、やがて条件反射的にそこに行くとタスクに集中できるようになります。これを心理学的にはアンカリング(条件付け)と呼んでおり、例えば「歯磨きの後にスクワット」「電車に乗ったら本を開く」など、すでに身に付いている習慣と結びつけることで行動のハードルを下げることもできます。