独自の目標実現法「行動イノベーション」のアプローチで、これまでオリンピック出場選手など1万5000人の課題を解決してきたメンタルコーチの大平信孝さん。

  • 集中力が途切れない! 「ゾーン」への入り方とその持続法 / メンタルコーチ・大平信孝

トップアスリートが「ゾーンに入る」ように、ふだんの仕事で高い集中力を発揮するための生活習慣や目標設定の仕方について伺いました。

■「リソースフル」な集中した状態を目指す

スポーツ選手が集中力を極限まで高めることで、ボールが止まって見えたり、相手の動きがゆっくりに見えたりする状態をよく「ゾーンに入った」と言います。

私にプロのアスリートから「この試合で最高のパフォーマンスを出したい」と相談があった時は、過去のゾーン体験を思い出してもらい、そのときに自分の頭の中でどんな言葉が流れていたのかや、自分の身体の感覚はどうだったのかなど五感の情報を全部、事細かに再現してもらいます。

そのうえで、そういう感覚が蘇るような条件付け、スイッチづくりをしていきます。いわゆる「ルーティーン」もその一種です。

一般的なビジネスパーソンの場合、いきなりゾーンに入るのは難しいと思いますので、その前段階の「リソースフル」な状態を目指すようにします。「リソースフル」とは、自分の持っている強みや持ち味などのリソースを、余裕を持って発揮できていている状態です。

リソースフルになるためには、まず自分のコンディションを整えることが大切です。新人の方の場合は、経験値や情報の蓄積が少ないので、どうしても不安、焦りなどから過度の緊張状態に陥って思考停止になりがちです。

そうした緊張を緩めるために最も簡単で効果的な方法は、一度仕事の手を止めて、「1分間目を閉じること」です。それだけで脳への負担を減らし、緊張を緩めることが可能です。

■1日2回、「本気の30分」を確保する

過度な緊張を緩めたら、次にそこからグッと集中するために試してほしいのが「本気の30分」の確保です。誰しも24時間リソースフルな状態をキープするのは不可能ですので、1日に2回、アスリートが本番の試合に臨むのと同じように「本気の30分」を確保します。

「自分は午前中が集中できる」「終業直前になると急にスイッチが入る」「自分は夜型」など、集中しやすい時間は人によって異なりますから、その時間帯に「いちばん大事なこと」に本気で取り組んでみてください。全力疾走したり、全力で泳いだりする感じで、集中して本を読んでもいいですし、考え抜いて企画書を作ってみるでもいいです。

「全力」というのは出し慣れておかないと、日々の仕事に埋もれて「まあ、こんなものかな」と惰性に流れがちです。だからこそ、あえて時間を限定して「全力」を出す習慣をつけておきたい。その際、極限状態で単純作業をしてももったいないので、「緊急ではないが重要なこと」「付加価値の高い仕事」に取り組んでおくと、いざという時に実力を発揮しやすくなります。

■「結果目標」から「行動目標」にフォーカスする

目標設定の仕方によっても集中度に違いが出ます。例えば勉強する時に、「簿記の試験絶対合格する」「TOEICで100点アップする」といった結果目標を設定しただけでは、あまり集中力を発揮できません。

しかし、100点アップのために、「今日はこの文法の問題集を5ページやる」という具体的な行動目標に落とし込むと、心理的なハードルが下がって集中しやすくなります。結果目標は大事ですが、失敗が重なったり、外的要因で結果が出ない時は、ストレスや不安を感じてアクションが止まりがちです。

行動目標は自分でコントロール可能ですし、取り組み内容が明確になることで実行しやすくなります。そのため、失敗の可能性も格段に低くなります。

部屋を模様替えする→まず不要なものを10個捨てる

転職する→まずエージェント3社に登録する

5キロダイエットする→まず毎朝、体重計に乗る

など、まずは行動目標にフォーカスすることをお勧めします。

■会議での集中力を上げるには?

コロナ禍でリモート会議の機会が増えていますが、実効のある会議を行うためにはまず時間を区切ることが大事です。ダラダラ会議ではみんなが疲れますし、むしろやらない方がいいくらいです。

何でも1時間ではなくあえて15分、30分などに区切ることと、冒頭で目的とゴールを明確にすることが重要です。

「今日は●●のためにみんなに集まってもらいました。まずは○○についてのアイデア出しを今日は行います」

「今日は1カ月の振り返りをして、これからのあるべき行動指針を明確にしたいです」

など、会議の目的と30分なら30分後のゴールを明示します。「そのために、皆さんの力を貸してください」というようなセットアップが前もってできれば、意義のある時間になるはずです。