残すところ約1カ月となったNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(総合 毎週月~土曜8:00~ほか)。3代目のヒロイン・ひなた役の川栄李奈は、オーディションで同役を勝ち取ったが、その演技力について共演者や視聴者から絶賛の声が挙がっている。川栄の一体どんな点が秀でているのか? そのポテンシャルの高さを、制作統括の堀之内礼二郎氏に聞いた。

  • 『カムカムエヴリバディ』で3代目ヒロイン・ひなたを演じている川栄李奈

■オーディションでの芝居「目を見張るものが」 情熱も決め手に

初代ヒロイン・安子(上白石萌音)の孫で、2代目ヒロイン・るい(深津絵里)の娘であるひなたの物語は、昭和40年代の京都からスタートし、平成を経て、令和の時代まで描かれていく。堀之内氏は、オーディションの段階ですでに川栄の演技に心を揺さぶられたそうだ。もちろんその段階では、藤本有紀氏の脚本は完成していない。

「ひなた編になってからは、昭和から平成へと平和な時代を進んでいきますが、オーディションの段階ではひなたがどういうキャラクターになるのか、どういう決断をしてどのような道をたどっていくのか、模索している段階でした。どういう方を3代目のヒロインに選べばいいのかみんなで悩むなかで、オーディションの中で川栄さんが見せてくれたお芝居には目を見張るものがありました。不確定要素が多い状況でしたが、ひなたがどんなキャラクターになっても、川栄さんならばきっと魅力的に演じてくれるのではないかなと思いました」

さらにヒロインの決め手となったのは、川栄が見せた情熱だったと堀之内氏は言う。「川栄さんは何度も朝ドラのオーディションを受けてきたそうですが、朝ドラのヒロインになりたいという強い気持ちがすごく伝わってきました。別にそれを雄弁に語られたわけではありません。ただ普通に、そこに当たり前のようにたたずんでいたのですが、それが却って強く印象に残りました。オーディションという場で、普通にそこにいられる、ということはとても難しいことです。カムカムの物語に対して、お芝居に対して、すごく真っ直ぐな強い思いを持っていらっしゃる方だということが感じられました。その時点で、この方と一緒に仕事をしてみたいなと思ったんです」

見事に3代目のヒロインに抜擢された川栄は、クランクインしてからも期待値を上回る存在感を見せていく。ひなたの恋人・五十嵐文四郎役を演じた本郷奏多は、川栄について「僕はめちゃめちゃ尊敬しています。ただでさえ忙しいスケジュールで、普通の人だったらパンクするくらいの分量を覚えるだけでもすごいのに、周りにその感じを一切出さず、当然のようにやってらっしゃる」と、川栄の頼もしい座長感をリスペクトしていた。

また、ベテランの大部屋俳優・伴虚無蔵役の松重豊も、完璧な京都ことばをマスターしている川栄について「耳と感覚の良さには驚きました」と褒め称え、また川栄とのやり取りにおいても「すさまじくリズム感のいい俳優さん」と感心しきりだった。そしてSNSでも川栄の表現力の豊かさが連日称賛されている。

■天性の明るさによって「悲しい場面でも重くなりすぎない」

比較的にコミカルで明るい雰囲気できていたひなた編だが、第19週では鳴かず飛ばずの大部屋俳優である文四郎から別れを告げられ、ひなたが悲嘆に暮れるというシーンが描かれた。このまま2人は別々の人生を歩んでいくのか、大いに気になるところだ。

堀之内氏は、同週での演技を含め「様々な場面でのお芝居を見せていただく中で僕が感じたのは、川栄さんが持つ天性の明るさです。明るい場面はもちろん、悲しく重い場面であっても、川栄さんが演じると、見る側が見たくなくなるような暗さにならない」と、彼女が持つ本来の持ち味についてこう語る。「言わば、彼女自身の中に太陽があるというか、彼女が演じることで、優しさとあたたかさが映像に宿るように感じています。そういう意味では、すごくひなたというキャラクターと川栄さんの相性がよく、絶妙にマッチングした気がします。ひなたの人生でいろんな浮き沈みがあっても、重くなりすぎずに、ちゃんとストーリーを伝えられることができる。そういう素晴らしい役者さんだなと思いました」

■役を瞬時につかむセンス「天性のものを感じています」

川栄は、これまでの共演者やスタッフ陣の話などから、実はシャイな性格であることが伺える。堀之内氏も「あまりご本人から、役に関してこうじゃないかと話されるタイプの女優さんではないです」と捉え、「まずは自分の感性でやってみるというタイプなのかなと。そこで修正が入れば、演技を柔軟に変化させていける方です」と印象を語る。

さらに堀之内氏は川栄について「台本を自分のなかで解釈して、それを出した時の最初のアプローチがまず素晴らしい」と称賛。「台本の理解度においては、かなり天性のものを感じています。役について考え抜いて、たどり着いたものを出すというより、その場で瞬時につかむ。そういうセンスが秀でているなあと。僕自身も、あまり会ったことがないタイプの女優さんです。多くの方がおっしゃっていることですが、リズム感や耳が良いのだろうなと。何か大きなものを過剰に表現するのではなく、一人の人間としてその世界で生きることができるし、普通にたたずんでいられる点が強みだと思います」