音楽プロデューサー・つんくとテレビ東京系『真夜中にハロー!』の企画・プロデュースを手掛けた北野篤氏が、dTVオリジナル『真夜中にハロー!』の配信決定を記念した対談インタビューに応じ、ハロプロの魅力や企画について語った。

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  • 『真夜中にハロー!』企画・プロデュース 北野篤氏

『真夜中にハロー!』(毎週木曜24:30~)は、ハロー! プロジェクトメンバーが総出演するオリジナルドラマ。毎週異なるハロプロメンバーが各回のストーリーに即した楽曲でパフォーマンスを披露し、観る人にエールを送る。おっとりマイペースながらも宿泊客のことを優しく見守るマリコ(菊池桃子)と、しっかり者で何かと母親のフォローをするミサキ(大原優乃)のコミカルな掛け合い、そしてハロプロメンバーによるパフォーマンスが見どころとなっている。

また、グループの枠を超え、ハロプロメンバーとAKB48・柏木由紀が共演を果たしたdTV オリジナル『真夜中にハロー!』も配信。ハロプロ研修生の同期である川村文乃、橋迫鈴、西田汐里、山崎夢羽らが出演し、絆を感じるエモーショナルなパフォーマンスを披露する。

■つんく♂×北野篤氏インタビュー

――ドラマ『真夜中にハロー!』の企画の成り立ちを教えてください。

北野氏:僕は5年くらい前から、ハロプロさんのミュージックビデオを作るお手伝いをしていて。それを見たテレビ東京のプロデューサー・寺原洋平さんから、「ドラマを一緒にやりませんか」と、ご連絡をいただいたんです。それで、せっかくMVを見て声を掛けていただいたし、寺原さんもハロプロが好きだとおっしゃっていたので、ハロプロを絡めた企画も立てて提案してみたら実現したという形です。

――それから、つんく♂さんと北野さんの間で、何かやりとりがあったのでしょうか。

北野氏:いや、今が初対面です(笑)。

つんく♂:(笑)。

北野氏:だからこの場を借りてお聞きしたいんですけど、『真夜中にハロー!』の企画書をご覧になったとき、率直にどう思われました?

つんく♂:僕の楽曲なり、僕のメッセージ(歌詞)なりを切り取って物語にしてもらえるっていうことで非常にうれしいし、面白い企画だなと。例えば、エンディングテーマになっている「I WISH」(モーニング娘。/2000年)は、20年以上前に作った曲。それをもう1回焼き直して世界に訴えかけることができるのは、とってもありがたいことです。……北野さんに関わってもらったのは、「モーニングみそ汁」(モーニング娘。'17)からだよね?

北野氏:初めてお仕事をさせていただいたのは、その準備をしていた2016年です。

つんく♂:そんな前かぁ。だから今日も初めて会った気がしないし、今回のドラマも、まあ、悪いようにはされんだろうと(笑)。安心感のなかで、「あとは預けた」という感じでした。

――さまざまな悩みを抱えてゲストハウスを訪れた人の前に扉が現れ、開くとハロプロの楽屋に繋がっているという斬新な設定です。着想はどのように?

北野氏:今回は不特定多数の人が目にするテレビドラマということで、ハロプロを知らない人たちにも魅力を伝えるために歌やダンスは絶対に見せたい、でも、いきなりパフォーマンスが始まっても、視聴者はびっくりしちゃうだろうなと。そこでまずはゲストヒロインのドラマやハロプロメンバーに共感していただいて、その上でパフォーマンスに移るというくだりを入れたいなと思ったんです。そのための装置として考えたのがドアと楽屋です。ドアは、ゲストヒロインたちが自分の心と向き合うきっかけになるもの。楽屋は彼女たちが何かを乗り越えて、次のステージに向かうための場所として考えました。ちなみにドアには、ハロプロの“沼”への扉という意味合いも込めています。

――こうして作られたストーリーについて、つんく♂さんはどう思われましたか。

つんく♂:第1話は設定を説明しなきゃいけない的要素が詰まっていたけど、第2話以降は物語が充実してきて、ヒロインがゲストハウスに集まる理由もしっかり描かれていく。そのドラマ部分や、楽曲にいくまでの過程が面白かった。あと、ハロプロの子たちをどうドラマに出すかという難題だったとは思うけど、結果的に放送を見て「名回答!」って思いました。

北野氏:うれしいです(笑)。

つんく♂:実際、ハロプロの子たちの芝居が始まると、役者としてはプロじゃないのですごいたどたどしいわけやん(笑)? きっとがんばってセリフを覚えてきたんだろうけど、女優さんたちとの差が歴然。逆に「ああ、この子たち、歌手で良かったな」って思った(笑)。でもそのたどたどしい違和感が、ちょっと気持ちいい部分でもあって……。ドラマの中にハロプロが出るには、ベストな形。プロデューサーとして、うまいワザを使いはったなぁ〜と思います。

北野氏:ああ、優しい(笑)。菊池桃子さんの主演については、どう思われました?

つんく♂:菊池さんがハロプロの曲をいじること自体、めっちゃ不思議な出来事やなって。菊池さんは同学年で、僕なんかよりも全然早く芸能界に入って、10代から戦ってきた人。ハロプロの子たちからしたら先輩芸能人の1人かもしれないけど、そうじゃない。僕が思うに、今回のドラマで一番物語っているのは、彼女の生き様。「今のアイドルを扱うドラマなんて、私はやらない」と断ってもいいところを、若い子たちとしっかり向き合って、歌ったり踊ったりしてくれていて。そのこと自体がすごいメッセージだと思うし、本当にありがたいし、うれしいし、見ながら泣けてきた。

北野氏:今回の撮影の最後に、小田さくらさん(モーニング娘。'22)が菊池さんに駆け寄って、握手してたんです。菊池さんに「応援してるから、がんばってね」と声を掛けられて、すごくうれしそうに帰っていった(笑)。そのとき、つんく♂さんが最初に好きになったアイドルから、つんく♂さんが手がけた今のアイドルであるハロプロメンバーとが繋がった瞬間が見れたのかなと思って、心が熱くなったというか。「このドラマ、やって良かった!」と思った瞬間でした。

――放送後の反響は、どのように感じられましたか?

北野氏:頻繁にツイッターのトレンドに入っていたりして、反響の大きさを感じました。うれしかったのは、これをきっかけにハロプロの曲を知ってくれた人がいたり、「曲は知らなかったけどメンバーが好きになった、励まされた」という声があったりしたこと。あと個人的には、母親から突然LINEが来て、「シュールだけど優しいドラマだ」と言ってくれたのが、すごくうれしかったです。「親孝行したな」って、ちょっと思いました(笑)。

――3月からは、dTVオリジナル『真夜中にハロ―!』が前後編で配信されます。このdTV版では楽屋にいるハロプロメンバーが描かれ、ゲストヒロインはAKB48の柏木由紀さん。どのように発想されたものですか?

北野氏:dTVは有料のサービスなので、お金を払ってでも見たいと思えるものにしなきゃいけない。テレビ版を見た人も引き続き楽しめる構造で、よりハロプロファン向けに作ってみようと思いました。そしてプロデュースチームの話し合いで出てきたのが、楽屋をメインに描くというアイデア。テレビ版で扉が開くのを待ち構えていたハロプロメンバーは、楽屋で何をしていたのか。扉の向こう側を描いたら面白いんじゃないか、という話になったんです。

――つんく♂さんはdTV版の企画を聞かれて、どう思いましたか。

つんく♂:僕もdTVに加入してますけど、見る側は、テレビとそこまで区別してなくて、やっぱり中身が大事。今回はハロプロの子たちの芝居でどれくらい成立するか心配だったけど、やっぱり見たいとは思ったよね。楽屋を覗き見られる、チラリズムとして(笑)。

――メインキャストに川村さん、橋迫さん、西田さん、山崎さんというハロプロ研修生の同期であるメンバーを選ばれた理由は?

北野氏:アンジュルムの川村文乃さんのようにマグロの解体ショーができる人がいたり、BEYOOOOONDSの山崎夢羽さんのように正統派だけど少し変なキャラクターもいたりして、この期は面白い人が多いと思いました。もし彼女たちが楽屋にいたら、どんなことを話しているのか。想像しつつ、過去のインタビューなどから彼女たちの発言を拾ったりしながら脚本を作りました。

――つんく♂さんは、このメンバーの起用について、どう感じましたか。

つんく♂:僕もまだ完成したものを見てないからなんとも言えないけど、やっぱり違和感と気持ち良さは感じたかな。そもそもモーニング娘。は、違和感が大事というか。デビュー当時、JUDY AND MARYのYUKIちゃんみたいなナチュラルな歌手が主流だとしたら、モーニング娘。はアンナチュラル。ヘッドフォンの付け方すら分からない歌えない子たちを、いかに商品にしていくかという、ある種の魔法を使ってきたわけです。今回はそのドラマ版で、演技の素人を、どうパッケージ化するか。プロデューサーの力量が問われるし、うまくいくと快感なんだろうなって思いました。

――ゲストヒロインの柏木由紀さんのキャスティングついては?

つんく♂:それもまた、違和感。その積み上げはズルいけど、とても楽しみな違和感です。なので、気になるよね(笑)。

――柏木さんは、かつてモーニング娘。のオーディションを受けたことがあるとか。北野さんは、そういったリアルなことも盛り込んで脚本開発を?

北野氏:そうですね。dTV版では、柏木さんが役を演じるのではなく、柏木由紀さん本人として扉を開くという設定。そしてハロプロメンバーも本人役なので、菊池さんだけがマリコという役を演じているという、不思議なドラマになってます(笑)。

――完成したdTVオリジナル『真夜中にハロ―!』の見どころ、注目ポイントは?

北野氏:「楽屋でのハロプロは、こんな感じなんだろうな」と、想像しながら楽しんでもらえたら面白いと思います。柏木さんのアドリブも含めた、リアルな語りも見どころです。本当のファンの人って、好きなものについて語るときに早口になると思うんですけど、dTV版ではそんな柏木さんが見られる(笑)。それから、菊池さんが、コメディに振り切ってくれたところがあって。「ここまでやってくれるんだ〜」っていう部分も、意外な見どころかもしれないです(笑)。

――1997年のモーニング娘。誕生から25年。ハロプロが長く愛されてきた理由は、どんな点にあると思いますか。

つんく♂:モーニング娘。に限らず、Berryz工房や℃-ute、今のハロプロの子たちも含めて、洗練された、スーパーエリートじゃなかったから良かったんじゃないかな。本当なら完璧な状態で出てこなきゃいけない芸能界なのに、未完成のまま出てきて、失敗も含めてビジネスになってきた。未完成のまま続けられてありがたかったし、不器用で良かったなと思います。

――つんく♂さんにとって、ハロプロはどんな存在でしょう。

つんく♂:今はすべてを背負っているわけじゃないのでイコールじゃないけど、そもそもは「もう1人のつんく♂」という気持ちで作ってきたんです。だから、自分のメッセージを伝えてくれる代弁者。おじさんが言うとこじれるようなメッセージも、彼女たちのフィルターを通すとこじれなかったり、説得させられたりするところがあったと思う。

――つんく♂さんの楽曲は、発表時だけでなく、5年後、10年後に聴いたときに改めて心に刺さる魅力があります。楽曲制作時に、長く聴かれることを意識されていたのでしょうか。

つんく♂:どうだろう……。モーニング娘。は僕が30歳にならないぐらいから始まって、若い頃の曲には若い頃なりの世界に対する不満やひねくれた面が詰まっていたりしたと思う。でも、50歳を超えて歌詞を読み返しても、「まったく違うだろう」みたいなものはないから……まあ、よくがんばっていたなっていう気持ちは、自分でもします。

――今後、ドラマ化したら面白そうだと思う曲はありますか?

つんく♂:2,000曲くらい作ってきて、どれにも思い入れがあるし、この曲だけって言われると、すごく難しい。「LOVEマシーン」(モーニング娘。/1999年)やプッチモニ、ミニモニ。なんかのミリオンセラーは確かに手応えがあったけど、売れなかったのに「この曲良かったのにな……」っていう曲もたくさんある。最近のモーニング娘。の曲も大好きやし……ありすぎて困るな(笑)。でも、「よしよししてほしいの」(2021年)は、ドラマにしたら面白くなるだろうと思う。

北野氏:僕は、「君の代わりは居やしない」(モーニング娘.'14/2014年)。自分に価値を見いだせない人が、「君の代わりは居やしない」と誰かに言われたら、すごく励まされると思うんですよ。実は今回、ギリギリまでドラマ化の候補に残っていた曲が、「君の代わりは居やしない」でした。自分たちの思い入れがある曲、ファンに人気の曲、世の中に知られている曲……そのバランスを取ることが大事な気がしていたので、曲の絞り込みには苦労しましたね。とはいえ最終的には自分たちが好きな曲を選んだ形になりました。

――逆に、今回楽しかった点は?

北野氏:ハロプロメンバーのみなさんが、撮影で楽しそうにしてくれていたこと。キャストの方々とも交流が生まれていて、例えば第4話のゲストとして出演いただいた田中真琴さんは、この作品をきっかけにライブに行くくらいハロプロファンになっていたんです。業界内でもコミュニケーションが生まれて、仲間の輪が広がっていくのは良いことだなと思いました。

――北野さん自身も、よりハロプロが好きになったところはありますか?

北野氏:あります(笑)。僕はメロディーから曲に入るタイプなんですけど、今回あらためて歌詞と向き合ってみたりすると、新しい発見がたくさんあって。また違う角度からハロプロの曲の魅力を見い出すことができて楽しかったです。

――今後のハロプロに期待することは?

北野氏:ハロプロが誕生したときと今とは、エンタメの世界が大きく変わっていると思うんです。K-POPが台頭してきたり、アイドルにもいろんな形がある。そんななかで、人間的魅力や素で勝負できる、強い「個」を持った人を輩出しているのがハロプロだと思うので、これからもそういう子がいっぱい出てきて、楽しませてくれたらいいなと思います。僕自身は、その魅力を伝えるお手伝いができたらいいなって。

つんく♂:本当に25年前とは違うよね。今、令和の時代に大事だと思うのは、バランス力。25年前は、どんなに性格が悪くても、ミュージシャンなら楽器がうまけりゃ良かった。金メダル選手だったら、普段の素行が悪くてもいいっていうような時代だったと思う。でも今は、歌がなんぼうまくても性格が悪かったらダメだし、世界チャンピオンでも失言1個でメディアに出れなくなる。いかに社会のなかでバランスを取りながら生きていくかを、芸能人しながら、しっかり学んでいってもらいたいなと思います。20年後、30年後に「あいつ、楽屋では最悪やったで!」って言われないように生きて欲しい(笑)。

――最後に、北野さんにdTVオリジナル『真夜中にハロ―!』の楽しみ方をうかがえればと思います。

北野氏:動画配信サービスには、細かく、繰り返し見られるという良さがあると思うんです。だから一度、ざっとストーリーを楽しんでいただいた後で、気になったところを見返したり、パフォーマンスを繰り返し見ていただけるとより楽しんでもらえるのかなと。あとは表情ですね。ハロプロメンバーは、いつもライブ会場のたくさんのお客さんや、テレビの向こう側の人に向けてパフォーマンスしていますが、今回は現場のゲストや菊池さんに向けてパフォーマンスしている。いつもとは違う表情をしているんじゃないかなと思うので、メンバーの細かい表情を繰り返し見ていただきたいですし、それができるのも、dTVならではの楽しみ方じゃないかと思います。

(C)dTV/『真夜中にハロー!』製作委員会