スポーツバイクが売れている。平日は自由なルートを最短距離で目的地に向かえるし、出勤時に満員電車に揺られることも、時刻表にも縛られない。休日は密にならず、運動不足もすっきり解消…というわけで、自動車の半導体問題よりもずっと前から品薄状態が続いている。

  • 写真:和田やずか

サイクリングの魅力は別の機会にするとして、今回はロードバイクを買おうと考えている方に、最新のパーツ事情から2022年モデルの魅力について検証してみようと思う。

■なにを基準に選ぶか

ロードバイクを買うとき、メーカーやフレーム素材が最も重要だと考えるのは、一般的な誤解だ。最優先されるべきは用途やサイズであり、メーカーやフレーム素材はセカンドグループに属する。また、走りの質を大きく確実に左右するのは、往々にしてフレームよりもホイールやコンポだと言っていい。

フレームの良しあしは好みやライダーのスキルによっても評価が変わってしまう。ちなみにコンポとは、コンポーネントパーツのことで、統合的に設計されて優れた機能を発揮するシリーズ部品である。今日のテーマは、このコンポだ。

そのコンポで圧倒的なシェアを誇るのが国産メーカーのシマノだ。オンロード用コンポの頂点に立つのが“デュラエース”、続いて“アルテグラ”である。2022年モデルのトピックは、この2つのコンポが新しくなったことにある。

これまではトップモデルが新機能を搭載してモデルチェンジし、翌年にセカンドモデルがデビューするのが恒例だった。しかし、同時にモデルチェンジし、完成車に採用されている。コンポが進化するのは4〜5年に1度。パーツを装着させるための規格が変わることもあり、ゲームチェンジャー的な存在で、自転車の世代を決める役割も担っている。

たとえば、今回の2つのコンポはリアのギア数が11から12速となり、従来は変速機を動かすシステムが機械式もあったが、新型は電動のみとなった。また、ブレーキもディスクブレーキが主役となり、フレームに求められる細部の仕様も変更され、新しい時代の到来を告げている。

■2つのコンポの違いは

両コンポの違いで、最も顕著に見えるのは価格差だろう。主要パーツ(13点キット)でデュラエースは45万3862円、アルテグラは27万8055円。サイクリストでなければ、驚くほど高いと感じるだろう。しかも、「スポーツとして始めるなら(サードグレードの)“105”以上が必須」と言われている。

デュラエースにふさわしいフレームとホイールと組み合わせれば、定価は100万円以上となる。これでは「ロードバイクは高い」というイメージになるのも致し方ない。だが、「105以上で…」などという常識は、10年以上も前の話である。現在の事情に合わせて言うならもっと手頃なグレードのパーツでも、一般的なサイクリングなら性能に不満を持つことはない。

クルマでも、モデルチェンジごとに装備が充実して車格が変わってしまうことがある。それに似たことがシマノのコンポにも起きている。デュラエースがトップモデルであることに変わりはないが、機能だけを見れば、プロ選手だってアルテグラで十分だ。「東京五輪2020」のロードレースでもアルテグラで走っていた選手もいたし、部品のグレードが成績に直結しているとは言えない。

かつては“本気でレースをするならデュラエース、ホビーライドならアルテグラでも問題ない”と言われていたが、最新のアルテグラについて主査を務めた松本裕司さんは「アルテグラはメジャーブランドのトップモデルにも採用されるようになりました。そこで、新作はスタンダードよりも、はるかに高い基準で作っています」という。

  • “アルチメイト”と“インテグレーテッド”から造語された“アルテグラ”。レースからツーリングまで幅広い用途に対応するオンロード用スポーツコンポの中核モデルで、最新モデルの型式ナンバーはR8100シリーズとなる。機能的にはデュラエースと互角であり、フロント2、リア12枚のギアを組み合わせて24パターンのギア比が用意されている。変速のファームウエアアップデート等はスマホのアプリで行なう。

  • デュラエースとは“ジュラルミン”&“デュラビリティ”と“エース”から造られた商品名で、プロレースで輝かしい戦績を残してきた最高級モデルだ。最新のR9200シリーズは待望の無線化と12速化を実現。シフティングスピードが旧型比でリアは58%、フロント45%の向上を果たしている。ショートクランクを望む声に応えてクランク長は160㎜から175㎜まで展開することになった。ペダリングパワーを計測するパワーメーター付きクランクも、間もなくリリースされる予定だ。

実際に乗った感じも、アルテグラに不満は全く感じない。少なくとも初期性能に関しては、旧型のデュラエースをしのぐ実力がある。しかし、最新のデュラエースに触れると、上には上があると実感させられる。

リヤの変速はアルテグラが“コリ コリッ”なら、デュラエースは“ヌルヌル”と動く。この差は速さでなく、質である。チェーンの動きはプロじゃないと分からないのでは? と思うなら、ワインや肉に置き換えてもいい。味の差は誰にでも感じられる。理由は分からなくても、どちらが上質かは素人でも分かる。

シマノの製品のアイデンティティは“ストレスフリー”だ。この旗の下、各世代でタグラインが与えられ、デュラエースは“妥協しない人のために”であり、アルテグラは“リーブ・タイム・ビハインド”を掲げている。デュラエースは究極を目指し、リアのギアセット(スプロケット)がアルテグラよりも2万6565円も高く、68g(11-30T)ほど軽い。

この差を惜しくないと思うならデュラエース、そこまでじゃないと思うならアルテグラで十分以上だ。

新世代コンポが電動シフトのみになったことに批判的な意見もある。しかし、それは新しい製品に触れる前だから、である。従来の機械式変速では金属製のインナーケーブルを使用したため、交換直後は初期伸びを調整しなければならなかった。

しかし、電動シフトになれば、そういった面倒はなくなる。変速速度も飛躍的に早く、正確だ。ギヤ比もワイドレシオなので、従来ならトレーニングを要する急坂も、速度さえ気にしなれば走破できる人が増える。太めのタイヤとディスクブレーキの組合せなら、ブレーキは驚くほど効くし、乗り心地も抜群だ。

今年は私もロードバイクを新しくする。ナニを買うかは決めていないが、コンポはデュラエースにする予定だ。この先、数年間はシマノはデュラエース以上のコンポを出さないだろう。フレームはどんなにお金を使っても、“気に入るか、否か”で良しあしが決まってしまう。

予算の問題を除けば、まずはデュラエースを買う。そして、気に入るフレームが見つかるまでは、パーツを流用しながら最高のバイクを探し求める。製品を小まめに買い換えるのも楽しいが、コスパ最強への最短ルートはコンポに初期投資を使って、自分の望む方向に愛車を育て上げるのが最短ルートである。

文/菊地武洋