本来なら、春のRISEビッグイベント(4月2日、東京・代々木第一体育館)で那須川天心のキックボクシング・ラストファイトが行われるはずだった。しかし昨年末に「世紀のスーパーファイト」那須川天心vs.武尊の6月実現が正式決定。これにより天心のRISEでの試合は、その前哨戦という位置づけに─。

  • プロボクサーへの転向を表明している那須川天心のキックボクシングファイトは、残すところあと2試合。4月・風音戦、6月・武尊戦は如何なる闘いになるのか?(©RISE)

そして、対戦相手は、2月9日に東京・六本木での記者会見で、風音(TEAM TEPPEN)と発表された。まさかの同門対決、さらに天心の父である那須川弘幸会長が風音のセコンドにつくことも判明。天心のRISEファイナルマッチに不穏な空気が漂う。

■風音のアピールが功を奏した

「会長(那須川弘幸/天心の父)、これだけは言わせてください。世界最強がジムにいます。那須川天心です。僕も世界最強を目指しています。もう時間がない、(天心と)闘いたいんです。天心が認める志朗選手に勝った。やる権利はあるんじゃないですか? 前向きに考えて下さい。よろしくお願いします」
風音が、リング上からそう訴えたのは、昨年秋のことだ。 9月23日、神奈川・ぴあアリーナMM『RISE WORLD SERIES2021』セミファイナルで行われた「DEAD OR ALIVE -53キロ級トーナメント」決勝を制した直後、彼は同門の那須川天心に掟破りの挑戦を表明した。

大会後に風音と顔を合わせた天心は、こう言った。
「100年早い。お前ならジャブだけで倒せる」
RISE伊藤隆代表も、こうコメントしていた。
「ゼロではないが、実現の可能性は低い」
この時点では、那須川天心RISEファイナルマッチの相手が風音になることはないと思われていた。

「(RISEでの)最後の試合は、ロッタン(・ジットムアンノン)と闘いたい」
天心は、昨年末にそう話していた。
RISEは、その方向で動いたが、ロッタンがアジアを拠点とする格闘技団体『ONE』と契約していることを含め諸条件で折り合いがつかず交渉は決裂。ほかに相応しい相手もいないことから、いま一番勢いのある風音との対戦が決まる。
風音の横浜のリングでのアピールが功を奏した形となった。

  • ともに23歳の那須川天心(左)と風音。2月9日に都内で開かれた記者会見にて。(写真:SLAM JAM)

ただ、天心と風音の間には、かなりの実力差があるように思う。
両者のキックボクシング戦績を比較してみよう。
那須川天心/40戦全勝(28KO)
風音/21戦16勝(6KO)5敗

数字だけでも「格」が違うが、それ以上にキャリアの差もある。
天心は、ワンチャローン・PKセンチャイジム、ロッタンらムエタイの強豪戦士に勝利、国内のトップ級ファイターのほとんどを蹴散らしている。2018年大晦日『RIZIN.14』では、ウェイトハンディを負ってのボクシングルールでの闘い(エキシビションマッチ)で、ぶっ飛ばされはしたがフロイド・メイウェザーとも拳を交えた。これまでに風音が闘ってきた相手とはランクが異なる。

■親子も勝負の世界には関係ない

しかし、両者の対戦発表記者会見で思わぬことが明かされた。
那須川天心をここまで育て、試合の際には常にコーナーでサポートしてきた父・那須川弘幸(TEPPEN GYM)会長が、対戦相手・風音のセコンドにつく─。
これには驚かされた。
風音は言った。
「3年前に大阪からここに来てから、那須川天心を超えるつもりで毎日練習してきました。こうなる(対戦が決まる)のは必然だと思う。僕は会長の弟子。会長のやり方で倒します!」
弘幸会長もSNSで息子・天心に、こうメッセージを送っている。
「息子だろうが勝負の世界は関係ない。風音の望むステージまで俺も行ってやると誓った男の約束がある。風音には、俺の力が必要なんだよ。俺は風音とともに死力を尽くしお前を倒す。余裕をかましていると大変なことになるぞ!」

まるで劇画『巨人の星』の星一徹・飛雄馬親子のような雰囲気が醸されているが、それでも天心は悠然と構える。
「やってみろ、という感じです。気にしていません。申し訳ないですけど、自分にとっては6月(vs.武尊)が大勝負。今回の試合は、そこに向けての通過点に過ぎません」

  • 昨年9月、RISEのリングで鈴木真彦と対戦した那須川天心(右)。スピードと技術で圧倒し判定完勝を収めた。(©RISE)

  • 延長戦の末に志朗を破り「DEAD OR ALIVE -53キロ級トーナメント」を制した風音(左)。この試合の直後に、那須川天心への挑戦をアピールした。(©RISE)

正直なところ、勝敗に興味を抱けない。天心を知り尽くす父・弘幸会長が参謀につくとはいえ、風音が勝つシーンがイメージできないのだ。
やはり実力的に、かなりの開きがある。同門で、よくスパーリングもしており風音は天心の闘い方を熟知しているが、それは逆も然りだろう。

ただ、予想を覆す試合展開になる可能性はあるかもしれない。
風音の闘い方次第では、天心がKOに持ち込むリズムを上手く刻めずクロスファイトとなり判定決着となる可能性もある。そこで、これまでは見えていなかった天心の弱点が露呈されるかもしれない。ここは、弘幸会長の手綱次第だ。
この一戦は、もちろん武尊も注視している。それでも父・弘幸会長は非情になるのだろうか、この辺りは興味深い。なお、天心のセコンドには、8歳年下でプロデビューを間近に控える弟・龍心がつくことになりそうだ。
果たして「大舞台での親子喧嘩」の行方はいかに─。

文/近藤隆夫